215.攻城
バルド将軍と合流し、然したる抵抗もなくランゲンフェント手前まで進軍した。
行軍中はパワードスーツに慣れてもらうため、パワードスーツを装着したまま行軍した。
その甲斐もあって、僕たちは約10日間という驚異的な進軍スピードでランゲンフェントまでついてしまった。
ただ宰相派の軍隊もある程度鉄猪部隊を復活させているようで、ランゲンフェントには千台を超える鉄猪が城壁に並べられていた。
撃ち降ろしはかなりやっかいだ。
相手からの射線は通るが、打ち上げる僕たちからの射線は通らない。レーザーならなおのことだ。
しかし、タレットやホバーからならもっと高度を取って撃つことが出来る。
相手もそんなことはわかっているだろうから、対空防御は何か手を打ってあるだろう。
「試してみますか?」
クロが僕の思考を読み取ったかのように質問してくる。
「そうだなあ。タレットを使ってこちらの手の内を晒すのはよくないから、パワードスーツで岩を何個か同時に投げてみよう」
鉄猪の射程内に入ることになるが、パワードスーツなら回避することも出来るし、仮に何発か食らっても命の危険はないだろう。
クロは僕の指示を早速各部隊に伝えたようで、前線にいる部隊が足並みを揃えて前進しはじめた。手には人の頭ほどの石が持たれている。
重量にしたら20kgぐらいだろうか。
鉄猪に当たってもへこむぐらいかもしれないが、陣地は壊れる。それが千発も降ってくるとなれば無視するわけにはいかないだろう。
鉄猪の射程ギリギリになると、散発的に鉄猪が発砲してきた。
相手も射程を図るとともに着弾地点の修正をかけているのだと思う。
詳しくは知らないけど、弾道計算とはそういうものらしい。
「次が来る前に投擲! 投擲後、鉄猪の射程範囲外へ撤退」
クロを通して命令する。
パワードスーツ部隊は一斉に石を投げた後に、すぐ後退を始める。
これは通信機能があるから可能な運用で、以前までならここまで臨機応変な用兵は出来なかった。
高く打ち上げられた岩は鉄猪を狙ったわけではないが、何発も鉄猪に当たる軌道だ。
相手の対空兵器は実弾らしく、発砲音が散発的になったかと思ったら上空の岩が少しだけ弾けた。発砲音の数に対して、とても少ないので照準が手作業なのかもしれない。
岩はすぐに鉄猪に降り注ぎ、鉄がへこむ音が聞こえてくる。
思ったよりもダメージを与えられた他、相手の遠距離射撃の弱点がわかった。
連射できない上に、照準が手作業のため、動く目標には滅多なことでは当たらない。
こちらの物量で押しきることが可能そうだ。
もしかしたらこちらのタレットのような自動照準のレーザー兵器があるかもしれないと思って警戒していたが杞憂だったようだ。
前世ではイージスシステムというものがあって、非常に高度な対空迎撃兵器の運用が可能だった。
ただし、それは迎撃ミサイルであったり、ファランクスであったり、物量兵器による迎撃だったため、ローテクのドローン爆弾で突破されるという弱点があった。
その弱点を補うのがレーザーで、出力さえ確保できればドローン爆弾もすべて迎撃できると言われていた。
前世の技術レベルを超える迎撃システムを簡単に構築出来るわけないけど、用心するにこしたことはない。
「鉄猪は10%が沈黙。生き残った鉄猪は落ちた岩に阻まれ、動きが制限されているようです」
「タレットで対地砲撃」
「了解」
今回、すべてのタレットはクロの制御下に入っている。
カルラは後方でパワードスーツの生産と修理に当たることになった。
「鉄猪、後退を始めました」
当たらないし、タレットひとつ落としても対してダメージないとわかっているだろうが、鉄猪は砲撃しながら後退していく。
「そのまま、後退させて」
タレットでは制圧ができても占領はできないので、鉄猪を追う意味は薄い。
ここはパワードスーツ部隊と歩調を合わせて、要塞を占領していく必要がある。
「じゃあ、僕が先陣を切る!」
「ダメじゃ」
専用パワードスーツを来たバルド将軍が僕を止めた。
「お主は王位継承権第一位だぞ。先陣は私に任せろ!」
絶対、戦いたいだけだよね。
「そうです。怪我でもしたら私たちがカルラに殺されます」
パワードスーツを来ているから少しのことじゃ危ない目には合わないと思うんだけどなあ。
僕の不満をよそにバルド将軍はパワードスーツ部隊の方へ駆けていった。




