212.敗残
戦争で勝った方は基本的に休めない。
敗残兵は指揮命令系統を失い、土地勘もない敵地のため、どちらに退却していいかもわからない。
そのため、戦闘のあった土地の近くで隠れていることが多く、突発的な遭遇戦になってしまうことがある。
もちろん、補給物資もないため、勝者と言えども補給部隊が敗残兵に狙われるなんて、当たり前の話だ。
だから、掃討戦が行われ、敗残兵が居なくなったことを確認した上で、やっと休めるのだ。
「カルラが2発のメテオーアを撃ったようです。鉄猪の損壊は確認中です」
2発と言うのはかなり多いのではないだろうか。
まあ、1万機の戦車をふっとばすとなったら、2発でも少ないのかもしれないけど。
これで宰相やアイテムボックス持ちがぶっ飛ぶとは考えにくい。元々そのつもりなので、次の手を考えてある。
今、僕たちが抱える問題点は通常戦力の不足と、敵の機械科兵団に対抗できる手段だ。
僕と婚約者たちのような少人数なら、ユキノたちの場を支配する範囲魔法で対抗措置もある。そして、相手がハッキングへの対抗手段を取っていなかった以前ならクロに頼むと言う手もあった。
しかし、今は相手もハッキングに気がついているはずだ。対抗手段を取っていないとは考えにくい。
そうなれば、あとは性能を全面に出した正面衝突しかない。
僕たちにもタレットという機械はあるけど、それは魔法使いが操って初めて意味をなす。
フリーデンの精霊王戦のときのような使い方も出来ないことはないが、戦場が限定される場合に限る。
今回は相手にアイテムボックス持ちがいるんだから、戦場を限定するのは不可能に近い。
あれ……こうやって状況を冷静に考えてみると、圧倒的に不利だな……。
唯一の救いは鉄猪はほぼ全面させたというところだろうか。
それでもあのバルド将軍をしても通常戦力では、1機を停止させるのがやっとだった鉄猪が100機は残っている。
バルド将軍が南ビルネンブルクから通常戦力を1万人連れてきても厳しいところだ。
「ヴォルフ。バルド将軍の軍隊ですが、グローセンへ到着したようです」
グローセンと言えば、フリーデン宗教国の東にある交易都市だ。北に、ビルネンブルクと南ビルネンブルクのちょうど中間点に当たる。
僕たちはそこから3週間かけて、ここヴァッサーまで来ている。陸路のバルド将軍がヴァッサーまで来るには3週間以上かかるだろう。
「鉄猪の残骸ってどうなってる?」
鉄は精錬に時間とエネルギーがかかる。バラバラになった鉄猪の鉄が回収されてしまうと、比較的容易に鉄猪軍団が復活するかもしれない。
カルラに教えた鉄を変形させる魔法に相当する魔法なんか使えた日には明日にも復活しているかもしれない。もし、魔力量が僕並みにある魔法使いがいればだけど。
「残骸は広範囲に散らばっています。恐らく回収には相当な時間がかかるでしょう。もしご心配ならノームに回収の協力を依頼しましょうか?」
クロの提案に目をぱちくりする。
「え、それが出来るんだったらやりたい」
「では、タルに連絡を取って、ノームヘ依頼します。恐らく敵に回収される前に8割回収できるでしょう」
クロが異世界転生ものの主人公並みのチートスキルを身に付けてきたなあと思った。
現世での能力ならもはや神様並みなのではないだろうか。
「9千9百台の2割だから2千台ぐらいは復活するのか。まだ厳しいね……」
「あ、いい忘れていましたが、クララから伝言があります」
「なに?」
「なんでも特殊鎧の開発に成功したとか。人間が着ると、腕力や脚力、速度も増加するそうです」
何となくだけど、それってパワードスーツってやつじゃないかな?
この世界の技術革新が止まらないんだけど、これは僕のせいじゃないよね?
「材料になる金属さえあれば量産可能だそうです」
ヤバい。金属ある。
正確には手にはいる予定がある。
パワードスーツをバルド将軍から預かった軍隊と、これからくる南ビルネンブルクの援軍に装備させれば、鉄猪やホバーにも対抗しうる。
何よりも人型であるということは、既存の建造物に容易に侵入出来るということだ。占領戦も兵力を強化したままで行えるのは、嬉しい誤算だった。
「ドーラに頼んでクララだけ先に来てもらおう。ノームが鉄を回収した端からパワードスーツを生産して、バルド将軍から預かった部隊に渡して訓練ね」
バルド将軍の部隊は精鋭ではあるが、始めてみる兵器を使いこなすのは難しいだろう。訓練期間としては短いがやらないよりはましだし、パワードスーツがねければ鉄猪などの機械科兵団には勝てない。
「了解です。ノームは既に回収活動に入っています。ドーラにも連絡したので、3時間後にはみな揃うと思います」
相手がチートなスキル持ちではあるが、こっちもチートなスキル持ちの婚約者(と藁人形)がいるんだ。負けないぞ。
「ゴッテスフルス軍の敗残兵の処置はビルネンブルク軍がやるだろうから、放っておいて、こっちは次の戦争の準備をしよう」
戦争と言っても兵力差は僕たちが圧倒的になるはず。戦闘が起こる前に決着をつけるつもりだった。




