208.性別
シメキタでお土産を買った僕たちはシメキタの代官を解放し、ヴァッサーに戻っていた。
ビルネンブルクの王都に至るには、さらにフェルド、フェルド、ランゲンフェルトを経由する船旅が必要になる。
それなりに時間も掛かるし、これからは僕たちだけではなく、バルド将軍から預かった軍隊を進ませる必要がある。
僕の婚約者たちがどんなに強くても物量で押しきられたり夜通しゲリラ戦を仕掛けられたら勝てない。
だからこそ、軍隊は軍隊同士で戦ってもらう必要がある。
「でもなあ」
問題は指揮官が不在なこと。
将軍であるバルドは南ビルネンブルクへ行ってるし、騎士であるアイリはそれに着いていっている。
個人技に長けた人は多いけど、軍隊の指揮となると僕を含めて満足に指示できる人はいない。
強いて言えば、文字通り全体を見渡せるクロが指揮を取れば負ける確率は低くなるだろうと言うことだけだ。
相手が異世界転生者であることを考えれば、リアルタイムな情報が以下に重要かは理解しているだろう。
そして、劣化するとは言えどもどんな能力も盗んで扱うことのできるのだから、情報を集める面では相手に利があると思う。
僕が思い付くのは南ビルネンブルク軍が援軍として駆けつけるまで時間稼ぎをすることだけだった。
バルド将軍が十分な兵力と糧食を備えて戦えば、軍隊同士の戦いなら負けなしだろう。
ドーラに迎えに行って貰えばバルド将軍は来れるけど、今度は十分な兵力と糧食がないので、本領を発揮できずに負けてしまうと思われた。
「ここで待機しますか?」
結局のところそこなのだ。
時間稼ぎをしたいのは敵も一緒で、僕たちが戦力を整えている間に、ビルネンブルク王都を落とし、敗残兵を取り込んで兵力を再編成を行うだろう。
充分な兵力が揃っているならビルネンブルクの宰相派と僕たちで二正面作戦を強いれる。
敵と接する前線が長くなると、消耗が激しくなり、補給線が短い僕たちやビルネンブルク宰相派が有利になる。
相手はそうならないようにことを運びたいだろうし、僕たちはそうなるようにことを運びたい。
今のところは相手が思う通りに事が進んでおり、ちょっと悔しい。
相手の事が事前にわかったとしても、僕ではこうはできない。
キタノを通して話していた人物を分析してみると、感じたのは若い男の子のようだった。
だけど、転生前はコトネのように天寿を全うするまで生きたのかもしれないし、受ける感じとのアンバランスは気にしない方がいいだろう。
「悔しいけど、現状では待機して機を見るしかなさそう」
「現在のところ、ゴッテスフルス軍にもビルネンブルク軍にも動きはありません」
クロが報告してくれる。
「王都の城壁の中の様子はどうかな?」
「それもいつも通りですね。王都の人たちは品物が入ってこない不満を口にする人は居ますが、備蓄が十分なのか緊張が高まっている様子はありません」
ビルネンブルクにとっては王都の近くまで攻められたのは初めてのことではない。
防御が苦手なビルネンブルクは割りと容易く王都の近くまで侵入を許すことが多い。
ランゲンフェルトの戦いでは北方の異民族が王都の隣にありランゲンフェルトまで迫った。
ランゲンフェルトの戦いではバルド将軍やカルラの活躍で勝利を納めている。
王都の人たちは今回もそうなると考えているようだ。
だが、今回はバルド将軍もカルラもいない。
それでも、王位継承権の上位は王都に集中してるし、安心しているのだろう。
「ちなみに、ゴッテスフルスの黒幕は見つかった?」
「条件を満たす人物は15人まで絞り込めましたが、おそらくその15人は同じ人物が操っているようで、行動特徴量が非常に似かよっており判別に時間がかかりそうです」
最後の一人になるまで待つ必要はないと思うけど、15人は多いな……。少なくても3人ぐらいになるまでは続けてもらう必要がありそうだ。
僕が考えに耽っていると、カルラが僕の側によってきた。ふと見上げるとカルラは扉の方を見ている。
視線を向けるとそこには見た目がドーラと同じような年頃の女性が立っていた。
「初めまして。ヴォルフ」
「宰相……」
僕は「え?」となってカルラを見る。カルラは宰相から目を話さずタレットを宙に浮かべて臨戦体制だ。
そういえば宰相の性別を気にしたことなかったけど、女性だったのか。
「カルラ様、お久しぶりです。本日はヴォルフの助力をいただけないかと思い、失礼とは存じましたが、人形だけでお邪魔しています」
言外に攻撃しても無駄ですよと言っていた。むこうが攻撃しないとは言ってないけど。
「一応、伺いましょう。とは言っても僕たちも手詰まりです。助けにはならないかもしれません」
「戦力的なことは求めていません。わたしが亡き後、反乱を起こした人たちを許してほしいと思って交渉に来たのです」
宰相は神妙な面持ちで、自分の死期を悟っているようだ。
どうも僕が考えているより旗色は悪いらしい。
「許すもなにも逆らわなければ争う必要もないよ」
曲がりなりにも僕が継承権一位になっているので、庇護を求めるなら全力で守るつもりだ。
「ありがとう。これで思い残すことはないわ」
そして、人形は音も出さずに消えていった。どうもホログラフィー的なものようだ。
「どうするんです?」
カルラに改めて聞かれるまでもなく、ここは行動しなきゃ!




