201.妖精
まばゆい光の中、僕は不思議な声を聞いていた。
『我は指輪に宿る守護聖霊ニーベル。この指輪を所有するものは我に純血を捧げよ』
ふと思ったんだけども、指輪に童貞を捧げるとなると、どういう方法があるんだろうか。
例えば、指輪に入れるとか……?
『違うわよ! あたしをどういう風に使う気よ!』
変なことを考えていたら指輪からツッコミが来た。
『やっと処女を捧げるにふさわしい童貞の男の子が来たと思ったら変態だったなんてやってられないわ』
「いや、僕は変態じゃないし。指輪で童貞を卒業したいとは思わないよ」
僕は未だに光輝く指輪を見ながら答えた。
指輪からは女性の声が聞こえてくるが、人間形態にはなれないようだ。
禍々しい感じがなくなったので、一応、スーの様子を伺ってみようと後ろを振り替えると、スーがすぐそばまで来ていた。
「それが世界を手に入れることができる指輪?」
「どうだろ? 妖精が付いているみたいだけど」
『精霊』
「精霊というには力が無さすぎる気がする」
指輪の訂正に僕が不満を言うと指輪は光を失って単なる赤銅の指輪になってしまった。
金ですらないという。
「明らかにダメそうな指輪だね」
スーも同意している。
『二人ともこの世界の魂ではないのね』
不意を着いた言葉に僕たちは身構える。
「なぜそれを?」
『世界の記録にないもの』
「世界の記録?」
『そう。詳しい説明は省くけど、あたしを手にいれたのなら使い方ぐらいは覚えておいた方がいいわ』
僕は指輪をここにおいていく気だったけど、指輪の方はついてくる気満々のようだ。
「持っていくのはいいけど、ちょっと気になることが」
それは指輪が安置されていた鍾乳生の回りに落ちていた人間の骨についてだ。
本当に童貞以外が触ると、こうなってしまうのなら地上に持っていったら大惨事になってしまう。
『なんでも聞くがよかろう』
威厳たっぷりに言っているが、指輪に取りついている妖精は小さな女の子のようなので、ちょっと微笑ましい。
「回りの白骨はニーベルがやったの?」
『あたしではないわ。話せば長くなるけど……』
「じゃあ、いいや」
「試しに私が持ってみたらいいんじゃない?」
スーがそういって僕が持っていた指輪を取り上げた。
『ちょっと!』
すると、指輪から小さな妖精が出てくる。
『何気安く触ってるのよ! また触媒探さなきゃならないじゃない!』
「ご、こめん」
あまりの剣幕にスーが反射的にあやまった。
「触媒って?」
『あたしは魔力をたくさん使うから、自分の姿を人間界にとどめておく魔力も節約してるの。それには人間の男の子が身に付けていた装飾品が必要なのよ。なんかもってない?』
持ってないこともないけど、それに乗り移られたら確実に地上に持っていくことになってしまう。
話してみた感じ、嘘もいってないし、童貞以外を抹殺する能力があるわけでもないみたいなので、持っていってもいいんだけど。
「僕には婚約者がたくさんいて、ニーベルに童貞をあげるつもりはないんだけど、それでもいい?」
『そこの胸のない子のこと?』
スーは無言で持っていた指輪を握りつぶした。拳の隙間から粉になった銅の欠片がこぼれ落ちる。
長年、洞窟にさらされて脆くなっていたであろう赤銅の指輪だけど、金属を握りつぶすとは穏やかではない。
「私も婚約者のひとりだけど、他にもたくさんいて順番待ちなのよ。第一婚約者はまだ幼いから成人待ちと言うのもあるんだろうけど」
怒りに震える声で、スーが説明してくれる。
順番待ちと言われると「違う」と否定したくなるけど、確かにその通りなんだよね。
『ふーん。持てるのね。でも、関係ないわ』
「でも、さっき童貞を捧げろと……?」
そこは僕も不思議に思っていた。
『血を少し分けてくれればいいのよ。それだけであたしは子を成せるから』
爆弾発言だ。
「どこのDNAモンスターよ!」
スーのツッコミがに思わずうなずく。
『それが何か知らないけど、あたしは精霊ですもの。人間のやるような生殖行為はいらないの』
それを聞いて少し安堵した。
指輪に欲情するのはかなりレベルが高いし。
「ヴォルフはどうするの? いくらセックスしなくていいからといって、最初の子供がニーベルとの子でもいいの?」
ちょっと避難がましい言葉だ。
僕としては血から出来た子供はノーカウントにしてほしいところだけど。
『今すぐでなくてもいいし、なんなら婚約者全員と子をなすまでまってもいいわ。あたしには寿命なんてないし、しばらく依り代を貸してくれれば十分よ』
「そういうことなら」
と言いながら僕はふところに入れておいたカルラからもらったお守りを取り出した。
そして、バカだったことに気がつき、ハッとした。
『中々良さそうなものね』
ニーベルは気に入ったのかすぐにお守りのなかに入っていった。
「ヴォルフ」
スーがお守りを指差した。
「これって通信機じゃなかったっけ?」
僕は少し旬順したあと、言い訳が思い付かなかったので頷いた。
「これで救助を呼ぼうか」
スーの提案に僕が反対するわけもなかった。
◆ ◆ ◆
結局のところ、クロに来てもらって道案内してもらいながら洞窟を出た。
洞窟は複雑に入り組んでいて、一見行き止まりに見えるようなところを潜り抜けたりしなければならなかった。
カルラと連絡取れなかったら僕とスーは野たれ死んでいたかもしれない。
「ヴォルフは人の事言えませんね」
カルラに嫌みを言われてしまった。
自分では無謀な行動をしたつもりはなかっんだ。
僕は回復魔法も使えるし、少々の危険ならなんとでもなると思っていた。
現実は、あっさり死亡フラグを立てたわけだけど……。
ものすごい回復魔法が使えても餓死だけはどうにもならないもんなあ。
「魔法を覚えたての人によくある話だよね」
「スー?」
「ほら、全能感て言うのかな。ちょっと、何かが出来るようになると、なんでもできるように感じるってやつ」
僕は前世の「厨二病」を思い出していた。
確かに全能感に支配されていたかもしれない。
僕もまだまだだなあ。
「ヴォルフは大切な人なのですから、今後はクロを必ず側に置くようにしてください。こんなことがあると、私をはじめ、婚約者たちが落ち着いて行動できません」
今後は、カルラの厳しい監視下に置かれそうだ。
これが俗に言う「尻に敷かれる」というやつだろうか。13才の女の子のお尻に敷かれてしまうとは……。
「わかったよ。今後はクロと一緒に行動する」
「クロ、ヴォルフが無茶をしないように見張っていてくださいね」
「任せてください!」
クロはどことなく嬉しそうに返事をした。




