第3話 血風の戦士 その2
3−2 血風の戦士その2
「ここだぜ、例の殺人事件の現場」
そこは、ごく普通のオフィス。
強いて違いを挙げれば、中へと続く階段にkeepoutの黄色いテープが張られていること。
「ここが…」
「さ、入るぞ」
「えっ!?」
御構い無しに階段を上ろうとする菊池さんに驚くと、
3人はこちらをみてキョトンとしていた。
「何驚いてんだ。実況見分しなきゃな、ジッキョーケンブン」
そりゃそうだけど…
「勝手に中に入るのは…」
追いかけるように階段を上る。
「今警察は地下通路の失踪事件で忙しいのさ。それに、あれだけの戦闘力を持った魔法使いだ。どの道警察の手に負えねぇだろうよ」
オフィスの扉を開くと、数日前に惨劇が起こったとは思えない静かな空間がそこにはあった。
「お前ら、手掛かりを探すのは重要だが、あまり現場は荒らすなよ」
と言っても、警察の調べが一通り片付いたようで、かなりすっきりとした感じだ。
扉を閉めたそのとき、体が何かを感じ取った。
惨劇が起こったとは思えない静かな空間というのは間違いだ。
何かおかしい、異様な空気が流れている。
「みた感じ、粗方証拠になりそうなものは警察が調べているようね」
「やはり、といった感じですけど。…柚月くん?」
何だ。
何なんだ、この押し潰されそうな程の威圧感。
ここが殺人現場だから…か?それだけ?
「柚月くん?」
「…っわ!えっ⁉︎麗華さん…?」
「聞こえてなかったの?」
「すみません、考え事してて」
体に鳥肌が立っている。
「ブルってんのか?」
「いえ、ただ妙な感じが」
「そうか、霊感強そうだしなお前」
「大丈夫?」
「ええ、大丈夫です」
得体の知れない何かを感じ取ってはいるが、それもただの臆病風か…?
「私と麗華ちゃんで、そっちの応接間を探してみるわ。柚月君達はそっちの部屋をお願い」
「わかりました」
手当たり次第調べてはみたものの、特に発見はない。
「やっぱり既に警察が手掛かりになりそうなものは持っていったみたいですね」
「あぁ、おそらくな。けど、俺たち能力者にしかわからない何か、もあるかもしれないぜ?」
元ヤクザのオフィスだけあって、黒いソファに灰皿、所々に残った血痕が目につく。
「…」
流石に鳥肌は引いたものの、何かの気配はむしろより一層敏感に感じ取っていた。
「ちっ、無駄骨だったみてぇだな…」
菊池さんがロッカーのドアに手をかける。
「なんだ?鍵かかってんのか?これ」
ガンガンと引っ張っても、ドアは開かない。
「鍵が…どっかに…」
菊池さんがロッカーに背を向けデスクを探したその時。
ロッカーは独りでに開いた。
「菊池さんッ‼︎後ろだッ‼︎」
ドゥム
と鈍い音が聞こえた。
「ぐ…なんだと…!」
膝から崩れ落ちる菊池さん。
体がデスクにぶつかって、ペンが落ちる。
「な…⁉︎菊池さんッ‼︎」
それを見下ろしているのは…女⁉︎
「ロッカーの中から、何者だ⁉︎」
返事はなく、代わりに鋭い目線を送ってきた。
よく見ると、白いセーラー服風の格好をしている。
特異なのは、乾いて黒くなった血痕と青白い肌。
こいつ…か。異様な空気を発していたのは。
「…なった」
「え?」
何か喋った?掠れた声で聞こえない。
「…いなくなった。みんな…消えた…」
何を言ってるんだ、こいつは。
「柚月…逃すな…」
「菊池さん‼︎」
どうやら致命傷には至らなかったようだが、こちらも掠れた声だった。
「なんだ…いつからこのロッカーの中に⁉︎」
バリィィン
女は窓を拳で叩き割ると、そこから身を乗り出した。
「な、待てッ‼︎」
女は真っ直ぐに外を見て飛び降りた。
ここは二階だぞ…⁉︎
急いで窓に駆け寄ると、菊池さんは口から血を吐いていた。
「菊池さんッ‼︎…意識がない…あいつは…‼︎」
女は血を垂らしながらこちらを睨みつけていた。
ゾッとするほど恐ろしい目。
女はゆっくりと前を向いて走り出した。
「なんだあいつは…‼︎」
狂気の源を間近に目にし、俺は凍りついた。