第3話 血風の戦士その1
3-1 血風の戦士その1
電撃をくらって、まだ頭がクラクラしやがる…
「電気の魔法か、なかなかいい能力持ってんじゃあねぇか」
「いえ…麗華さんのおかげです。なによりハンデがなければ、絶対障壁は破れませんでした」
「謙遜は嫌いだが、ありがたく受け取っておく。お前らも…柚月の電撃と麗華の氷。かなりイカす能力だぜ」
「まったく…自分から試験などと言っておきながら、無様ね」
俺を見下しながら蔑視するこの女。
篠宮真妃瑠。
「…なんでお前が来たんだよ、こいつら二人じゃねーのか?案内すんのはよぉー」
「私だって来たくなかったわよ。けど、何か…何となく行った方がいい気がしたの」
「なんだそりゃ、意味ワカンねぇな」
「あんたに言われたくないわね。パチンコ玉が武器だなんて意味わからない、バカじゃないの」
「お前の武器はサボテンだろーが」
「刺されたいの?」
「パチンコ弾で穴開けてヤラァ」
パチンコ玉を手に握ると、不意に柚月がこちらを見ているのに気がついた。
「あのぉ…痴話喧嘩はその辺で…」
「あぁ?」
今度は柚月を睨みつける。
「二人はどういった関係なんですか?」
麗華の冷静な声が頭に響く。
マセガキが。
「腐れ縁よ、ただの」
代わりに答えた真妃瑠を見ると、既に踵を返していた。
「さぁ、いきましょう」
「こっちだバーカ」
真逆の方へ歩き出した真妃瑠は、顔に憤りの念を映しながら再び歩き出した。
「さっき真妃瑠さん、赤くなってたね」
麗華さんは、前を歩く二人に聞こえない声で話した。
「意外と、というか。かわいいところもあるんですね」
「ええ。二人とも、仲も良さそうだし」
なにやら痴話喧嘩の第二ラウンドをしている二人を見つめ、麗華と柚月は顔を見合わせ笑った。
奇妙な雰囲気のまま、四人は路地裏を後にした。
そういえばさっき、菊池さんが妙なことを言っていた。
サボテンがどうとか…
「あの、さっきのサボテンって…なんなんですか?」
踵を返しこちらを見据えた篠宮さんは、まるで罪を犯したかのように申し訳なさそうに言った。
「ごめんなさい。私、2人に言うのを忘れてたわ…」
「ケッ!歳のせいじゃねぇの…」
「死ね」
この2人、やっぱり仲良いよなぁ…
「私の二つ目の能力を…」
「二つ目⁉︎」
魔法は二つ以上の能力が同じ部位に憑依した場合は、肉体が耐えられないのだという。
つまり、原則的には1人の人間が身につけられる能力は一つだけ。
憑依する部位は選ぶことができない上、魔道書を読むまでわからないそうだ。
「そんなものが?」
「ええ、私の能力は魂に憑依している記憶を引き継ぐ能力と、この体に憑依した生命力を増幅させる能力」
「生命力…」
「例えば…」
ポケットから小さな団栗を取り出すと、それを手のひらに乗っけてみせた。
「くっ…はぁぁぁ…!」
全身から光が右手に集まり、眩く光る。
「これは⁉︎」
団栗は真妃瑠さんの手のひらの光に包まれると、メキメキと膨らんだ。
そして芽を伸ばし、50センチほどのツタの塊になった。
「このツタは、私の意のままに操ることができる」
ツタは解けて、花弁のように開いた。
「それに、人間の生命力を増幅させて傷を治すこともできる」
「す、すごいっ‼︎」
「まぁ、治癒の方は使う度に効力が弱まる制約があるし、この能力自体戦闘向きではないから戦力として数えられるかわからないけどね」
「そんなことありませんよ‼︎すごい能力ですよ!ね⁉︎」
「ええ、応用が利くし汎用性もある。興味深いです」
麗華さんは少し声を弾ませて言った。
「ありがとう。私の能力も役に立ててね」
「んじゃ、行くかね。現場」
菊池さんはタバコを一本懐から出しながら、横目で見て言った。
「はい!」
今、何時だろう…
腹時計に聞くと、空腹という返事だけが返ってきた。
日はまだ天に、照りつける日光から逸れたような路地裏の日陰を見て、柚月は汗を拭った。