第2話 融けた心その1
2−1 融けた心その1
散らかった部屋をなんとか片付け、昇降口を出るときには日も暮れかかっていた。
泣き止んだ彼女は相変わらず無言だ。
なんとなく2人で下校しているこの状況は、周りからどう見えているのだろう。
そんなことを考えているうちに、意外にも彼女が口を開いた。
「本当にごめんなさい…怪我まで負わせてしまって。なんて償ったらいいのかわからないわ…ごめんなさい…」
理科室の時もだったが、謝ってばかりだ。
そもそもなんでこんなことになったのか。
「いえ、大丈夫ですから…理由を聞かせてくれませんか…?たしか敵って」
「…私はその能力を見たことがあるの。そして長年追っていた」
「俺の…能力?」
この雷の魔法か?
「ええ、私の……最も大切な人を奪った…」
「…‼︎」
「けれど、なぜかその能力は今あなたが持っている。大丈夫…今は…」
「どうしました?」
彼女の足が止まった。
「…今までずっと独りきりだった。この能力を持ってから、私と同じ力を持つ人間をずっと探してた…あいつを止められるのは私しかいない、私がやる、1人で終わらせる。そのつもりだったから、仲間なんていらなかった。作ろうとも思わなかった」
「……」
彼女がそっと袖を掴み、俯いた。
「どうして、あの時火を消したの?あなたを攻撃したこの私を助けたの?」
「俺はあなたが探してる人じゃあないし、あなたに恨みもない。ただ誤解を解きたかっただけです」
突然彼女が胸に頭を埋め、しがみついてきた。
女性にこんなことをされた経験はないが、今は奇妙な気分に心を支配されていた。
「いいの…?」
「え?」
「あなたを信じて…いいの?」
再び涙を浮かべた瞳が、真っ直ぐにこちらを見据えた。
「今まで1人で戦ってきたあなたを、俺は信じます。安っぽいかもしれませんが、俺は会長の味方です」
「…ありがとぅ…」
かすれて声になっていなかったが、気持ちは伝わった。
彼女はずっと独りきりだった。そして誰より強くあろうとした。自分のために…
「あのね、会長じゃなくて、麗華って呼んでほしいな」
「れ、麗華さん?」
「うん、好きなんだ。あたしの名前」
私からあたしになった彼女は、吹っ切れたように笑ってみせた。
「柚月君、能力を身につけて2日って言ってたけど、すごいね」
「なにがですか?」
「能力だよ。あたしは最初、物を冷たくするくらいしかできなかったよ」
「つまり、能力は成長する…と」
「えぇ、そうよ。まぁあたしもそこまで詳しくないのだけれど」
じいちゃん、一言も言ってなかったぞ…
「実は、うちのじいちゃんも能力者なんです。これから会ってみてくださいよ」
「え、えぇ。そうさせてもらうわ」
なんだろう、一瞬動揺していたような…
「あたし、男の人の家なんて行ったことないから…」
「ああ、意外とウブなんですね!」
「意外ってなによ‼︎」
氷のように冷たい視線だった彼女が、今はもうこんな笑顔だ。
たった数時間が過ぎたばかりでも、彼女の心を少しだけわかることができた気がした。
「じいちゃん、ただいま」
「おう、ユズ。その子は?」
「氷室麗華です…お邪魔します」
「ほう、綺麗な子じゃなぁ!彼女か?」
「黒焦げにすんぞ…」
「それで、彼女は例の犯人を追っていると」
「ああ、じいちゃんに話した方がいいかなって」
「…なら、明日篠宮君に聞きに行くといい。彼女は犯人をずっと追っている。それに、仲間は多い方がいいじゃろ」
「わかったよ、かいちょ…麗華さんは、明日空いてますか?」
「ええ、大丈夫よ。それと、もう一つ」
「⁇」
「これは個人的なことになりますが、柚月君の能力のような能力者を、ご存知ありませんか?」
「柚月の様な…雷か。悪いが、わしも多くを見てきたわけではない。ほんの少し知ったかぶっているだけだ」
「そうですか…」
きっと、あの敵のことだろう…
「その能力者を見たことは?」
「あります…が、覚えてなくて…」
「ふぅむ…ユズ、少し外してくれんか」
「?あ、あぁいいけど」
「わしの能力は、記憶の能力なんだがな」
「えぇ」
「この歳にして、成長したようだ…!」