第10話 光芒その2
10−2 光芒その2
「もしもし…」
出る気は無かったが、なんとなく無視する気にもならなかったので仕方なく俺は震える端末を手に取った。
『あっ、菊池?ちょっと今いいかしら?』
あいつから頼みなんぞ、どうせ面倒の極みに決まっている。
「なんだよ真妃瑠。こっちは忙しいんだよ」
『さっき、法之さんを見たんだけど、スーツの男と歩いてたのよ。心当たりない?』
はぁ???
「ふざけてんのか、知るかよ」
『最後まで聞いてよ。その男、魔法使いみたいなのよ…』
…!
じじいと魔法使いのスーツの男…?
なんだ、この妙な感覚。
そう、どっかで…
『菊池?聞いてる?』
「今どこだ」
『え?えーと、今から二人を追うところよ』
「場所言え。すぐに行く」
なんだか、もやっと引っかかる。
なんなんだこの感じは…?
とにかく、その魔法使いとやらが気になる。
端末をポケットに滑り込ませると、重っ苦しいボロアパートの玄関を押し開け、聞いた場所へと向かった。
二人の男が鉄の非常階段を登っていく。
夜風は生暖かく、妙に心に隙間を作る。
「法之さん」
不意に名を呼ばれ思わず足を止め振り返る。
「お孫さんは元気ですか?」
「孫?」
スーツの男は法之の横をすり抜けて更に上へと登っていく。
「ええ、いたでしょう。一緒に住んでる男の子で、名は確か……」
「柚月くん」
「あぁ、元気にやってるさ。もう高校生にもなったよ」
「そうですか」
特別食いつくわけでもない、変哲のない会話はあっさりと終わり、屋上までたどり着くと男は手摺に手をかけながら夜景を見下ろしていた。
「お前はこの景色が、昔から好きだなぁ。キング」
「この町が、好きなんです」
体格はがっしりとしているが、まだどこか青年らしさが残る男の顔は、儚げな雰囲気を帯びていた。
「扉のことについてだが…やはり〝扉と鍵の関係〟について勘付いてきている」
「鍵…?ああ…」
眠たげな声で返事をした。
「鍵たる魔法を体に宿した魔法使いによって、あの扉は開かれる…」
「それで、扉はどこに?」
振り返って、キングは真っ直ぐにこちらを見据えていた。
「その前に、聞きたいことがある」
「…なんです?」
「以前話していたルークとやら。どうしたんじゃ?」
「一体どうしてそんなことが気になるのか知りませんけど、もう手放しましたよ。まぁ、いつでも始末はできますが」
冷たい言葉だ。
まるで機械のように。
「そうか。……」
ビル風が強く吹き上げ、体にぶつかってくる。
ヒュオオオという音が反響し夜の景色を塗り潰していく。
「なぁ、牡丹」
優しく、ぼたん、と呼んだ。
明らかに男は反応している。
キングと呼ばれていた男は、目だけで返事をする。
「……」
「やめに、しないか」
風の音のなかをすり抜けて、法之の言葉が響く。
「わしは思う。あの扉は、開いてはいけないのだ。もう二度と」
「あなただけは!」
「あなただけは、わかっていると。思っていました」
上を向いたまま、キングは口を開いた。
「この期に及んでどういうつもりだ?もうすぐそこなんだ、もう少しで…」
法之は静かな目で見つめていた。
「もう少しで…。もう少しなのに…。あなたからそんな言葉は聞きたくありませんでした」
「わかっておる。お前を一番近くで見てきたのはわしじゃからな」
「どういうつもりだ」
「わしが悪かったのだ。お前を放っておいたせいでな。お前をもっとはやく、止めてやらなければならなかった」
「ふざけるな…」
明らかに鋭い目になった男は、その目で法之を射抜き続けた。
「たとえあなたでも、邪魔をするというのなら…」
「わしが止めてやる。お前の苦しみを…」
「容赦はしない」
風が止むと、再びの静寂が空間には訪れた。
次回に続きます。




