第9話 扉の鍵その3
9-3 扉の鍵その3
「なぁユズ」
「ん?」
何気無く夕方のニュースを見ていた僕。
「今日は、客が来る」
「客?聞いてないけど」
「お前も、よくしってる人さ」
「??」
「まぁそれでな、ちと夕飯の買い出しに行ってもらいたいんだが」
「あ、あぁ。別にいいよ」
「すまんな、頼む」
じいちゃんは、終始真剣な表情だった。
僕は履き慣れた靴に足を突っ込み、そのまま町へ向かった。
「よぉ、柚月」
河川敷を歩いていると、パーカーの男に声をかけられた。
「菊池さん!どうも」
「どうした?買い物か?」
「はい、菊池さんは?」
「おらぁ散歩だ。好きなんだよな、こうしてブラブラ歩くの」
この人、やることはないのかなぁ。
けど、彼は謎が多い。
じいちゃんとどんな知り合いなのか、とか
真妃瑠さんとの関係も…
サッカーボールが飛んでくる。
そのボールを足で抑えると、いくぞーと子供達に返す菊池さん。
綺麗な弾道を描いたボールを胸でトラップすると、子供達は試合を再開した。
「この町を…守りたい」
「…え?」
オレンジ色の町を見て、彼は呟いた。
「俺は、自分の事よくしらねぇんだ。この町で生まれて育ったが、子供の頃のことはよく覚えてねぇ」
語りかけるような口調で話す彼に、僕は聞き入った。
「記憶がねぇってのは違う。ただ、〝思い出〟がねぇのさ。俺にとって、記憶の中の景色はこの町だけだ」
「…」
「どうしようもねぇ落ちこぼれだった俺を拾ってくれたのは、お前のじいさんなんだぜ」
「そうだったんですか⁉︎」
初耳だ。
「あぁ、俺と真妃瑠と…俺達はみんな仲間だったんだ」
…?
今、仲間だったって…
「俺にとってこの町は俺自身だ。俺が生きてきたこの町は、俺を生かしてくれた人と出会った大切な場所なんだ」
夕陽で燃えていた彼の表情は、真剣そのものだった。
「はは、昔話はつまんねぇな」
「いえ!そんなことは…」
「…つまんねぇよ。…悪かったな!時間取らせちまって」
おでん冷めちまうぜ、と僕の持っているビニール袋を指差すと、僕が呆気にとられているうちにじゃあな、と行ってしまった。
掴み所がない、というのか。
不思議で謎の多い彼の中の、少しを見せてもらった気がした。
「仲間だった…か…」
僕は何故か、あの話の続きが知りたくてたまらなかった。
静寂に包まれた男。
町は賑やかで、人も多い。
しかし彼だけは、静かな空間の中にいた。
ピッ
「…もしもし」
(キング。私だ)
「…件に関してのことですか?」
(あぁ、座標がわかった。あとは鍵だけだ)
男と男が、電話で会話している。
「…わかりました。計画はもう、フィナーレを間近にしていると…」
(そういことだ。我々の戦いはもうすぐ終わる)
「それまで、あなたにはそこで尽力してもらいたい」
(厄介な年寄りは離れておきたいように聞こえる)
「フッ、相変わらずですね。最後の切り札は、いつでも使える場所に置きたいものです」
(…また掛ける)
ピッ…ツー、ツー…
静寂に音が帰る。
大きな交差点に、人々が錯綜する。
「さてと、今日は何が食べたい」
ーケーキなどは、いかがでしょうー
「…モンブランは嫌いだ」
「はぁ…」
「ただいま、じいちゃん。誰かと電話してたの?」
「あぁ、古い友人とな」
「それって、今日のお客さんか?」
「いや、そうではない。…さぁ、準備を始めよう」
薄暗くなった空には、一番星と月だけが輝いていた。
更新が遅くなってしまいすみません!!
次回に続きます。




