第9話 扉の鍵その2
9–2 扉の鍵その2
今日は火曜日か…
いつも通りの朝の時計をアラームのなる4分前に止め、階段を降りる。
「あれ?じいちゃんー!…いないのか?」
もぬけの殻だ。
朝っぱらから散歩か?
「…まぁ…いいか」
一応二人分のトーストを作っておき、顔を洗いに向かう。
ボサボサの頭、睫毛の長い二重が鏡に映る。
冷たい水が気持ちいい。
しかし飛沫が服に跳ね、ほんの少しイラッとする。
テレビをつけると、世間を騒がせている様々なニュースが連日報道されている。
いつも通り家を出て、学校に向かう。
「よぉユズ!!」
「おはよ」
1日は流れる景色の如く過ぎ去っていった。
日常の中にある非日常。
ファンタジーのような現実に、自分が少しずつ適応してきていることに気づきはじめた。
初夏の風を感じながら、僕はクララ達と共にここに足を運んだ。
「入って」
重たそうな扉が開くと、立派な邸が構えていた。
「お帰りなさいませ」
ぺこりと頭を下げる金髪のメイド。
クララは軽く一瞥すると無言で奥へと進んで行く。
「ここ」
湾曲した階段に挟まれた扉の奥。
薄暗く、灯の少ない部屋。
「この地下に、〝幻魔の扉がある〟」
それぞれが頷き、地下に続く階段を降りていく。
なんだか、ばあちゃんの古本屋と似た匂いがする。
それに、不思議と自分はここに来たことがあるような気もする。
デジャヴ…か?
足音を微かに反響させる暗い空間は、ほんの少しで終わりを告げた。
下に降りてみると、そこは一転教室ほどの空間が広がっており、薄く暖かな光で満ちていた。
その部屋の中心に鎮座する物体。
「こ…これが…」
「幻魔の扉」
「間違いないか?真妃瑠君」
「はい…確かに。記憶のモノと一致します…」
存在感。
というのだろうか。
まるでそこから世界が始まっているような、圧倒的なまでの主張を感じる。
それだけではない。
魔力のオーラの滞流の中に刺すような鋭さを実感する。
「これを…絶対に開いてはならない…」
じいちゃんは噛みしめるように呟いた。
全員が息を呑み、扉を見つめる。
まるで扉に空間を支配されてしまったかのようだった。
「この扉は、鍵と連動しています」
不意に聞こえた声に戸惑った。
聞いたことのない声だ。
「…紹介するわ。この家で扉の研究をしている、丸尾和樹」
「どーも」
大人しそうな顔立ちと丸眼鏡。
アニメや漫画そっくりの研究員の様な風貌は怪しい以前に可笑しかった。
年齢は僕と大差なく見える。
「鍵…とは?」
「この扉からは、みなさんなら解る通り魔力が発せられています」
「そしてこの魔力と波長が同じ魔力が、この扉を開く鍵となっているはず…」
「というと?」
「あくまで僕のデータに基づく推論ですが、これは意図的に誰が開かせるために作ったものではないか…と。願いが叶う、といった大層な噂は後からついて回ったのでは?ということです」
「なるほど。この扉と魔道書の製作者が同じなら、鍵が魔道書という考えに至るのは当然で、それは前提だ」
菊池さんが扉を指差しながら言った。
「しかし、だとしたらなぜ鍵以外の魔道書を作る?
開かせたいだけなら鍵の1つだけで充分だろう?」
「その通りです。なぜ鍵以外の能力が存在するのか?それに、そこまでして開かせたいこの扉の意図は?」
「……」
「そこんところが、謎なんですよねぇ…」
おい。
あまりに含みをもたせた語りに総スカンを食らった気分だ。
「結局、まだ何もわからないってことでしょ?」
「はは、その通りですお嬢様」
なんだか、この人の話は聞かない方がいいしれない…
「まぁとにかく。この扉を奴らに渡してはいけねぇってこったな」
「そうね。彼の話が仮に本当だとして、奴らがもう鍵を持ってる可能性もあるわ」
鍵、か…
目的は決まっているんだ。
いずれ、この謎もわかる時が来るのだろう。
今は為すべきことを、するだけだ。




