第6話 アフターケアは丁重にその5
6–5 アフターケアは丁重に その5
夜になっても、じいちゃんは帰ってこない。
恐らくばあちゃんの看病が忙しいんだろう。
なんとか動けるようにはなった。
「さて、ん?」
ベッドの横には、寝ている間に買ってきてくれたと思われるリンゴが置かれていた。
「真未ちゃん…ご飯どうしたのかな…」
まだ関節が痛むが、激痛でもない。平気だ。
階段を降りると、リビングに明かりがついていないことに気がついた。
「真未ちゃん…?」
「…」
「どうしたの?電気もつけずに」
「会ったの…」
「会った?誰に?」
「私に能力を…与えた人間」
「⁉︎」
「あいつの声で思い出した…もう、考えたくなかったのに」
「大丈夫⁉︎酷い事とかされてないか⁉︎」
「あはは…大丈夫だよ。けど、もうここには居られないかな…」
乾いた笑い声だった。
虚ろな目は笑っていない。
「きっと、わたしを探しにくるよ…。みんなに迷惑かけちゃうから…」
「いやだ」
「ユズ…君?」
「俺はいやだ。真未ちゃんに、ここに…いてほしい」
「大丈夫だよ…看病が終わるまではここにいるから」
「そういう意味じゃない!」
「ユズ君…」
「俺は正直、最初真未ちゃんがここにいるって聞いて、喜べなかった」
「…!」
「俺、女の子と殆ど話したりしないし、仲よかったこともないから…苦手で」
「…うん」
「けど、今日一日で気づいたんだ。俺、安心してたんだなって。家に真未ちゃんがいてくれることで、すごく安心できたんだ」
「…でも。一緒にいたら、みんなもあいつに狙われる…あたしのせいで、取り返しのつかないことになるかもしれないの!」
「俺だって、自分の身くらい自分で守るから…」
「違うんだよ…そんなんじゃない…違うの」
彼女はまた泣いていた。
震える声が、胸を縛り付けて痛かった。
「…ちっ!」
俺は自分の部屋に飛び込んだ。
逃げたんだ。
俺が、真未ちゃんを泣かせた。
俺だって泣きたかった。
俺はきっと、人と別れることがトラウマなんだろうな。
俺は苦しい胸を堪えて、またベットに潜った。
どれくらい経ったかーーー
窓から刺す光はなかった。
暗くて、時計もよく見えない。
彼女はもう、この家にはいないのか。
たった一日だ。
彼女がここに存在したのは、たったの一日。
それなのに、どうしてこうも悲しくなる?
どうしてこうも、切なくなる…?
「ユズ…君?」
「!真未ちゃん…?」
ゆっくりと扉が開いて、彼女のシルエットを薄っすらと浮かび上がらせた。
「どうしたの」
「えっ…と、ね。一緒に寝てもいいかな」
「今から?ここで?」
「うん…やっぱり、ダメだよね、ごめんね、いきなり」
そのまま踵を返した彼女に声をかけた。
「別にいいよ、変なことしないなら」
俺はなぜか、冷めていた。
どうしてこんなに温もりなく接しているんだ?
こんな言い方で、彼女にいい別れ方ができるはずない。
「ごめん、ありがとう」
彼女は俺が壁側に寄って空いたスペースに背中を向けて入ってきた。
「どうしたの?」
「うん…ちょっと…」
「…」
「…」
真っ暗な部屋は、音のない空間だった。
自分の鼓動音が聞こえる。
「…」
「…っぐ」
「…?真未ちゃん?」
「っひぐっ…うぅ…」
また、泣いてる?
「どうして泣いてるんだよ」
「…うぅ…あたしも…ほんとは…」
「ん…」
「ここに…いたいから…」
彼女の涙を何回見ただろう。
どうして、こんなに、彼女に何か特別な思いが沸くのだろう。
「…あたし、弱虫だから…もうひとりは嫌…」
「真未ちゃん」
「ふぇ…?」
「ここにいてほしい」
「でも…あたしがいると…みんなが」
「関係ない。俺が俺とじいちゃんを守る。俺達に手出しはさせない」
「いいの?ここにいるよ…?」
「うん、ずっと俺達といてほしい。もう真未ちゃんは、俺達の家族だから」
「ぅぅ…ユズ君…!!」
しがみついた彼女の体は氷の様に冷たい。
彼女の心は、こんなにも傷だらけだったんだな。
ほんとは女子に抱きつかれるなんて、絶対嫌なんだけど。
真未ちゃんなら、気にしなくてもいいのはなぜだろう。
不思議と、冷たいのに寒くない。
むしろ心地いい。
体を反転させると、真未ちゃんの泣きっ面があった。
整った顔が、涙目で腫れている。
「変な顔」
「…うるさいな」
また、少し経った。
時間は感覚に呑まれ、意識は暗闇に誘われる。
「真未ちゃん」
ちょこんと座る彼女の背中は小さい。
「なに?」
「好き?」
「え?私が?」
この間と聞き方からして、この質問の本質はどういう意味なのかわかったんだろう。
「うん」
「…そんなわけないじゃん!!もー、ユズ君ってば何言ってるの!」
「あはは!だよね!もしそうだったらどうしようかと思ってさ」
「なんていうか、そういうんじゃないよ」
「うん、わかってる」
「じゃ、お風呂入ってくるから。あたし」
「はーい」
好きか、どうか。か
好きなわけないよ、ユズ君なんて。
「勘違いすんな、バーカ…」
嬉しいけど、辛いこともあるんだよユズ君。
あたしは君のこと好きじゃないから。
好きなんかじゃ…ない。
今、もっと好きになりかけてるから。
嘘、つかなきゃいけないんだ。
これで6話は終了です。
7話に続きます。




