第6話 アフターケアは丁重にその4
6–4 アフターケアは丁重にその4
「よぉ、柚月。具合はどうだ?」
午後になってから、菊池さんが見舞いに来てくれた。
「あぁ、菊池さん。ごめんなさい、怪我は大したことなかったんですが、熱でちゃって」
「そうか。彼女は?」
「あぁ…『真未』ちゃんなら、今買い物に」
俺の金だけど。
「入れ違いになったか…」
「彼女になにか用があったんですか?」
「いや、な。彼女の過去について聞いてよ。俺の怪我の方も良くはなったんだがな」
「?」
「そりゃいきなり重傷負わされて頭にも来たが、彼女は精神が不安定で冷静さを欠いていたみたいだしな。だから彼女にその事を気に病んだりすることはやめてくれと言っといてもらえるか?」
菊池さんは、照れ臭そうに言った。
「わかりました、菊池さんって優しいとこもあるんですね!」
「なんだか引っかかる言い方だなおい。それとな」
「はい?」
「あの嬢ちゃんも怪我のことは気にしないでほしいと言ってた。ただ…これだけは伝えてほしいと」
なんだろう、麗華さんから?
「『もし、再び柚月を傷つけることがあれば。その時は手加減をしない』…と」
「麗華さんがですか⁉︎」
「あぁ、自分の怪我よりお前のことを心配してたぜ。まったく、感謝するこったな。嬢ちゃんの思いも受け取ってやってくれ」
「わかりました。わざわざありがとうございます」
「お前も、彼女とこれからここで暮らすんだろ?女の関係には気をつけるこった」
それは一番気にしていることだ…
「ちょっと、どういう意味ですか⁉︎」
返事はなく、手をフラフラと振りながら背を向けて出て言ってしまった。
イマイチ、まだ菊池さんという人がわからない。
けど、彼の優しさは感じ取った。
それにしても、何故麗華さんはそこまで釘を刺したのだろう…?
同時刻ーーー
「ふぅ、何買ってけばユズ君喜んでくれるかなぁ…」
正直、病人の看病なんてしたことないからなぁ。
勝手がわからなくて困るけど、少しでも楽にしていてもらいたいしね…
「確か、ここの角を曲がれば…」
スーパーが目に入る…はずだった。
しかし、目の前に1人の男が立っており、視界は遮られた。
男を避けて肩がすれ違った刹那。
「こんなところで、何してるんだ?ルーク」
声を感知した脳味噌が電流が流れたように痺れた。
この声…はっ?
「はっ…あっ…はぁっ…!」
この男の存在を認知した途端。
正確にはこの正体を思い出した瞬間に、動悸が激しくなり汗が止まらなくなった。
「あのオフィスを襲うように命令してから、帰ってこないものだからな。心配したよ」
「しん…ぱい…?」
嘘だ。
「あぁ。お前を〝放っておく〟訳にはいかないからな」
こいつだ。
私に能力を与えた、あの男だ…!!
「自分の駒を、わざわざ放っておく理由はない。…!お前、その服…」
!
しまった!
「返り血がないな?どうした」
震えが止まらない。
あたしのなかの本能。
自己防衛の意識が、心に反抗する。
「あたしの…名前は…、真未っ!ルークなんか、しらない!」
「お前はキングに従う駒だ。ルークだ。違うのか?」
「ち、違う!」
「そうか…〝不死身〟のお前相手には、俺も手を焼く。いつだっていいが、俺も大切な〝駒〟を失いたくない」
そう告げると、男は近づいてあたしの頭を掴んだ。
「…っ!!」
恐ろしい…
心の底から。
不死身の体を忘れるほどの、精神を貫く恐怖心。
瞑っていた眼を開けると、男の姿は消えていた。
「お帰りなさい」
「はやかったじゃないか。年取ると散歩でも疲れるものか?」
若者が男に問う。
「…ルークに会った」
男はそれを無視し、淡々と喋る。
「…?会った?それはどういう意味?何故あなたはルークを連れていないの?」
今度は女が男に問う。
「あいつに、接触を図った人間がいた。おそらく能力者だ」
「へぇ、そいつはなんとも勇敢なやつだねぇ。不死身の女を従えられる人間か?」
「寝返った…のかしら。とするとどこに?」
「それは今からわかることだ。スライム…」
ーーはい、ご主人様ーー
男の背後から、液体状の物体が出現し、人の形を成す。
「あいつの場所はわかるか?」
ーーはい、私の肉体の一部を付けてきましたーー
「よし。しかし今は他にすることが山ほどあるからな。奴の始末は後回しだ」
ーーせっかくご主人様の力になったんですよぉー。褒めてくださいよぉーーー
「けれど、不死身の能力。敵だとしたら厄介じゃないかしら?」
「人間という生き物は、敗北することで学び、傷つくことで成長する。経験から自分の欠点を見つけ、命を懸けて強くなるものだ。故に、〝不死身〟の覚悟など取るに足らない。〝死ぬことがない〟ということは、〝命を懸けられない〟ということだ」
「そんなヤワな覚悟に、『俺達』は〝負けない〟」
第6話は長めになっております。
全5回の予定です。
次回に続きます。




