第6話 アフターケアは丁重にその3
6-3 アフターケアは丁重にその3
家に帰ってきても、特にすることはない。
学生というものは、学校が無ければ暇な平日を過ごすものだ。
「昼飯…つくらないとな…」
なんとなく、病院に向かったところ辺りから足元がフラつく。体もだるい。
そのときだった。
「っ…うう」
足を引っ掛けてしまい、体制を崩した。
鈍い痛みが頭をよぎる。
そのせいで、自分が寄りかかっているものがなんなのか気づくのに約8秒を要した。
「…ん?…ん!」
あろうことか、俺は彼女に抱きつくような形で寄りかかっていたのだ。
ボクシングのクリンチの様に、腰を曲げてうなじに頬を当て腕で首をホールドしていた。
「あ…⁉︎」
やばい。
また鎖骨を折られるかと覚悟した。
しかし。
「…///」
彼女は薄っすら顔を赤らめるだけで、怒っている様には見えない。
と思ったら、今度は俺の意識が薄れていき……
おい、なぁ!
待ってくれよ!
俺を、置いていかないでくれよ!
「マミさん!!」
「⁉︎」
びっくりした。
どうやら寝言みたい。
ユズキさんは、家に帰るなりあたしに抱きついてきた。
わけではなく、急に意識を失って倒れてしまった。
額を触ると、ものすごい高熱だった。
あたしの手が冷たいのもあるんだけど…
とりあえず、二階に運んで(あたしの力なら容易い)ベッドで休ませてあげた。
「マミ…って言ってた…」
いったい誰なんだろうか…?
「んん…?」
「あっ…気がつきました?」
「ああ…運んでくれた…ありがとうね」
「まだ起きちゃダメだよ。すごい熱だよ?」
「え?ああ。そうか…ごめんなさい、迷惑かけて」
「ううん、大丈夫…です」
なんだか、敬語が所々混ざっておかしな会話になっている。
「…」
「…」
すごく微妙な空気だ…気まずい…
どうしてかな?
「あ、あの。ユズキさん」
「えぇっ?ユズキさん⁉︎」
「えっ!ごめんなさい」
「え?ごめんなさい?」
「…」
「『あのっ!』」
「…」
「ど、どうぞ」
「いや、そっちこそどうぞ…」
き、気まずい。
「なにか欲しいものとかある?買ってくるよ」
「あ、じゃあ…りんご。冷蔵庫にあるから」
「皮は?」
「そのままでいいよ、ありがとう」
正直、りんごの皮剥きは自信があった。
見せつけてやりたかったけど、我慢しながらりんごを切った。
「はい、どうぞ」
「おお!ありがとう!」
シャクッと美味しそうにりんごを頬張る彼。
なんか、かわいいな。
「ユズキさん…」
「ユズ。でいいよ。どうせこれから同じ家に住むんだし。敬語とか、毎日顔合わせるのに気疲れするよ」
「ユズ…君?でいいかな」
「うん、まぁ」
「ユズ君、歳いくつなの?」
「16だよ」
「そうなんだ!あたしの方が年上だー!」
…!なん…だと…?
「え?」
「あたし、こう見えても18だもん!そんなに幼く見える?」
はい、見えます。
「い、いやぁ。見える…いや、見えないこともない…です」
「あはは!年下だと思ってたんでしょー。いいよ、タメで」
「じゃあ、なんて呼んだらいいかな?」
…!
そう、名前。
あたしには名前がない。
正確には、本当の名前を思い出せない。
「あ…ごめん。名前、わからないんだったっけ…」
ユズ君は、申し訳なさそうにしてる。
…
「あたしね。思い出したんだ、名前」
「え⁉︎本当に⁉︎」
「うん、今さっき」
「なんて名前なの?」
そう、あたしの名前はね。
あたしは…
「真未っていうの」




