第5話 心の奴隷その2
今回は少女の過去の話となります。
5–2 心の奴隷その2
ありふれた日常。
誰もが過ごしていて、変わらない毎日。
パパがいて、ママがいて、私がいる。
先生、近所のおばちゃん、八百屋のお兄ちゃん。
色んな人がいるよ。
楽しいよ、毎日が。
いつまでも、私はこの家の娘でいたいなぁ。
学校に行けば、友達がいる。
沢山…とはいかないかもしれないけど、一人一人大切な友達が、私にはいるんだ。
あの日。
私を壊したのは、あの日。
夜中に喉が渇いた。
水を飲もうとリビングに行くと、パパとママの声が聞こえてきた。
「すみません…はい…今月は必ず。はいっ!もちろんきっちり持っていきます。はいっ、失礼します…」
「あなた…大丈夫?」
「いたのか……大丈夫、安心しろ。家族は守ってみせるさ」
全部聞いてた。
けど、聞いちゃいけなかったんだって思った。
だから、聞かなかったことにした。
私は、家族が大好きだから。
家の前で、変な男の人達に会った。
「よぉ、お嬢ちゃん。お父さんいるかな?おじさん、お父さんの〝お友達〟なんだけど……いないか」
「お嬢ちゃん、可愛いね。お父さんに言っといてよ、金と家族。どっちが大事なのかってさ」
すごく怖かった。
あの目は嫌いだ。
怖い人は嫌いだ。
「クソッ…!!!ふざけやがって!!!何なんだよ!!!こんなのどうしろって!!!どうしろって…いうんだよ…」
「あなた…大丈夫よ。私がついてるから、きっと大丈夫」
「…どうしろって…」
「あの子が起きるわ。今日は寝ましょ…」
あの日が来た。
全てが壊れたあの日。
けど、ヒビは前から入ってたんだ。
気づいてたのに、どうすることもできなかったんだ。
「あなた」
「……」
「うっ…うっ…あなた…。かわいそうに。ごめんなさい、私が頼りない妻で…」
「…そ…んな…ことない…」
「おまえは…〝おまえだけは〟俺を裏切らないよな…」
「……私がついてるから…ずっと…」
「お嬢ちゃん…俺言ったよね?金と家族どっちが大切なのかって言えって。けどさ、どうやら君のお父さんは君よりお金の方が大事みたいだ」
「だから君には。その代わりに払ってもらう義務があるんだよ……」
「わかるだろう?言うことを聞けば…今日は勘弁するからさぁ」
真っ暗。
まるで井戸の底みたい。
井の中の蛙、大海を知らずって言葉。
知らなかったよ、外の世界がこんなにも残酷だなんて。
井戸の蛙さんも、こんな気持ちなの?
違うよね。
私は、逃げて、怖いものを知らないふりをしてきただけ。
知らないふりをした罰なんだ。
認めなかった罰なんだ。
自分の幸せだけを願った罰なんだ。
「死因は?」
「自殺ですね。二人とも部屋から大量の睡眠薬が見つかってます」
「第一発見者の、娘さんは?」
「それが今行方不明でして…連絡を取らせているところです」
私…なんでかな。
幸せだったのに。
神様…酷いよ。
こんなの、酷いよ。
私から全部奪って…みんなみんな、めちゃくちゃにして、何もかも消して。
これも罰?
だとしたら神様は意地悪なんだね。
こんな思いをするくらいなら…いっそ…
「君は…ひとりなのか?」
「…」
大きな男の人。
また、嫌な思いをする
けどもう失うものなんてないよ。
私から何を奪うの?
もう私は死んでた。
心も、体も空っぽで。
その人は、私に優しくはしてくれなかった。
けど、凍ったまま動かない私をほんの少しだけ。
ほんの少しだけだけど、溶かしてくれた気がした。
「この能力を、君にあげるよ。これで君は、不死身だ」
不死…身?
「お願いを一つ、聞いてほしい」
私は怖かった。
痛い思いや、辛い思いを沢山してきたのに。
不死身のせいでまたそれを味わうのが。
だからこれで、最後。
終わりにしようと思った。
「ん?君は…確かあの家の…」
「どうしたんだいお嬢ちゃん?面倒をみてほしいのか…!!!?」
「うわぁぁあぁ!!!!」
「なんだこいつ、死なねえぞ⁉︎」
「だ、誰かッ‼︎」
言われた通りにしたよ。
怖いよ
なんにも痛くなかった
怖いよ
簡単に人を殺した
怖いよ
これからどうすればいいの?
怖いよ
あの人はどこ?
怖いよ
私はまたひとり…?
もう…生きたくないと。
私は思ってしまった。




