第5話 心の奴隷その1
5–1 心の奴隷その1
辺りには凹んだコンクリート壁があるだけで、一見ここがスーパーだった様には見えない。
薄暗いこの空間で、俺は様々な思考を巡らせていた。
はぁ…はぁ…
クソが……バカみてぇに痛え。
「どこが折れたんだ、鎖骨か?」
何がどうなってるのかもよくわからない。
汗が止まらず、動悸が激しい。
麗華さんは…?
「麗華さん…大丈夫ですか…?」
近づいて、意識を確認する。
「柚月く…ん…止血はしたから…大丈夫…よ」
とは言っても、朦朧としているようにみえる。
傷口が氷で塞がれてはいるものの、ダメージは大きいはずだ。
さて…どうしたものか。
あの少女も死んではいないはず…
とりあえず誰かに連絡を…
「!!!」
振り返った瞬間、文字通り背中が凍った。
「嘘…だろ…!」
空っぽになるほどの全身全霊、目一杯の放電だった。
だったというのに…
そこにあったのは、あの目だった。
「…フゥッ–…」
こいつ…立ち上がりやがった。
もう俺の体に…電気は残っていない。
所々身体を焦がしながらも、意識はあるらしい。
「ゥゥ…」
なにやら呻きながら、こちらに近づいてくる少女。
もう反撃の手はない。
やられる…ッ
麗華さんだけは…ッ!
「…ヒグッ…」
その瞬間、俺はあっけに取られた。
コツン、と胸元に感触を感じた。
「…ん?」
少女は俺の胸元に頭をくっつけ、涙を流していた。
「もう…いやだよ……誰にも消えて欲しくないよぉ…!」
俺は動揺した。
とても目の前の人間が、先ほどまでとはまったく別に見えたからだ。
「……」
どういうことだ?
俺に言ってるわけではないようにみえる。
「あんた、なんて名前だ。なんであんな…殺人なんか…!」
顔をあげると、また一瞬キョトンとした後に涙を流す。
あの目は、もう、ない。
「そうだ…私が…殺したんだ…。みんな、みんな私から奪った奴を…私が…」
私から…奪った?
「どういうことなんだ?」
「私のパパとママ…」
そういうと、彼女は再び倒れ込んでしまった。
なんのことなのだろうか。
とりあえず、あの人に来てもらえればわかること…
なのかもしれない。
一縷の望みをかける。
「…ぉ、もしもし、俺だけど。今、街外れの廃スーパー。うん、大丈夫。大丈夫?わかった。頼んだぜ、じいちゃん」
電話を切るとほぼ同時に、俺はコンクリートに倒れこんだ。
フゥー
疲れたよ、すこし。
雨上がりの空は、泣きっ面の様に真っ赤に暮れかかっていた。
今回から第5話、スタートです!




