9 古龍の元へ
「では、第4回定例会議を始める」
クエスト開始から4日目の夕方、定例会議が始まった。
夕方とは言ってもまだ日は明るい。
4時過ぎくらいだろうか。
何故なら、会議開始を遅くすると場合によっては日が沈んでしまうからだ。
会議場所はなぜか貴族のおうちのお庭だから暗くなると報告書などが読みにくくなる。
今日で4日目ということは、明日からとうとう聞き込みが終了し、本格的に実地で古龍の捜索がなされることになる。
ここでミミが調べた情報の本領が発揮されるってわけだ。
「まず、本日の聞き込み調査の進展について、何かあったものは挙手を」
シーン
っていうのがふさわしいくらいの静寂が庭に広がった。
それもそのはず、村長たちが邪魔をして、集落にすら入ることが今日はかなわなかったのである。
あの村長、今日はより発狂していた。
見てるこっちの胸が苦しくなってくるぐらい痛々しかった。
俺達はその立ち往生の隙を見て勇者たちに接触を図ろうとするもことごとく失敗した。
流石にこれはまずい。
このままだと本当に一言も口を利かないでクエスト終了なんてこともありえる。
何のためにこのクエストに参加したかってことになってしまう。
まあ、勇者の警護体制がしっかりしてるってことが一つ情報としてわかったことではあったが、どちらにせよこの警戒態勢を解かなくては。
そのためにここでびしっといいとこ見せて待遇改善を求めなくてはならない。
「ふむ、まあ村があんな様子では無理もない、副リーダー、次の資料を」
サイラスが横にいた副クエストリーダーに今持っていた資料を渡して別の資料を受け取った。
「予定通り明日から本格的に古龍の捜索にかかる。目撃情報を統合したところによると、集落から見て南から西にかけての山々に古龍は飛んで行ったという。まずは南から捜索する」
残念サイラス君。答えは西さ。
ミミからの情報によると集落から見て西側の谷底の洞窟に身を潜めているらしい。
場所が変わっていないらしいので、そう頻繁に狩りに出たりしているわけではなさそうだ。
「あと6日ある。手分けをした方が楽ではあるが、安全性を重視し、ある程度散らばらないように捜索に当たることにする。協調性を持って行動してほしい」
俺はサイラスの発言に一区切りがついたところでコロンに目配せをした。
すると、コロンがすっとお上品に手を上げた。
俺らのパーティの性質上、魔族の俺に発言権は皆無なので、代役としてコロンと立てるしかない。
本当は俺がやりたいのではあるが、聞き込みとかサボって演技指導に精を出していた成果も見たいし、まあ今回は我慢しよう。
「では作成した資料を配る。そこには明日からの捜索範囲が細かく書いてある。何か不都合があれば今言うように」
また、無視始まったよ……
俺達は初日からずっと無視されるという嫌がらせを受けている。
勇者タクヤだけはこちらをちらちら見て何か言いたげにしてるけど、他の人は全員さも当然って感じでふるまっている。
コネをつかって来たことが実力主義のこの世界では嫌われるものだったのだろうか。
それともパーティに二人魔族がいるから?
勇者のパーティ以外には見た感じ魔族いなさそうだし、それも原因の一つなのかもしれない。
ともあれ、ここで引き下がるわけにはいかない。
「ちょっとよろしいですかしら?」
コロンが第二段階、挙手しながら発言するという新たな試みにでた。
いままでは挙手してそのまま放置されて5分くらいであきらめて手を下げていたけれども、今回はしょーもない情報収集に関しての質問とかじゃなくて、ちゃんとした目的があってのことだから、どんどんいかせてもらおう。
しかし、資料をみんなに回しながら、誰一人としてコロンに反応する者はいない。
これはひどい。
精神的にくるものがあるな。
もうさくっとやってしまうか。
俺はコロンに目配せすると、コロンとアッシュがふと掻き消えていつの間にかみんなの前に立っていた、クエストリーダーのサイラスの横に移動していた。
「ちょっと、よろしいですかしら?」
コロンはすかさず驚いて飛びずさるサイラスに俺と夜な夜なさんざん練習した威圧系スマイルをかましながらお伺いを立てた。
一同は声も出せずに凍り付いている。
そりゃビビる。
俺とミミがガリョウに背後を取られた時もびっくりしたが、あのガリョウは影で、いわば命令に従う幻影みたいなものなのだという。
「気配察知」にも「危険察知」にも引っ掛からなかったのはそのためだ。
今回の作戦はそこからヒントを得た。
実際、Sランク冒険者たちが反応できないほどの速さで冒険者たちという障害物の中、移動することなんて、何らかの固有スキルを持っていないと不可能だろう。
そこで、最近ご無沙汰だった黒髪ポニテ魔術師のメイさんに一肌脱いでもらうことにした。
彼女は暗示魔法、幻影魔法、睡眠魔法などが専門らしく、今のは、ここにいる全員にゆっくりとコロンとアッシュの位置だけを、さも俺達の近くにいるかのように暗示をかけた。
いくら選りすぐりの冒険者と言えども、魔王お抱えの魔術師にはなすすべもなかったようだ。
これを敵にかければすぐ背後とれるじゃんって思ったのだが、メイ曰く、綿密な下準備が必要なので、相当な時間稼ぎが必要なのだそうだ。
仲間とかにしか使う機会がなさそうだから、俺の配下の中であんまり役に立たない可能性高いランキング今のところ1位だ。
まあ、実際ここで役に立ってるわけだが、いまいち感が否めない。
幻術使う奴って大抵強い奴にはきかなくて負ける役回りだからなぁ。
まあともかく、計画はこっからどう反応してくれるのかが肝だ。
「貴様ら、俺達に魔法を使ったな?」
一瞬の静寂のあと、サイラスが口を開いた。
流石Sランク冒険者。
魔法にはころっと掛かったけど仕組みは理解しているようだ。
だが、こんなことも予想通りだ。
「ええ、仕方なくつかわさせて頂きましたわ。どうしても私たちが無視されているようだったので」
「貴様ら、こんなことをしてどうなるかわかっているのか!」
「まあまあ、落ち着いて下さる?協調性を重んじるクエストリーダーさんなら、わかってくれますわよね」
なぁにい?とサイラスが吠えるが、お構いなしにコロンが続けた。
台本通りに。
「第一、あなた方は危機管理能力が圧倒的に足りないですわ。これだけの冒険者がいて、たかがBランク冒険者の魔法さえも見抜けないとは笑止千万。わたくしたちがもし古龍なら皆殺しにしていたでしょうことよ」
「殺意があれば我々はとっくに気付いておるわ!」
サイラスの威勢のいい言葉にそうだそうだと冒険者たちが野次を飛ばす。
こいつらもめげないなぁ。
まあBランク冒険者ごときに言い負かされたなんてなかったら流石に面目が立たないからな。
流石にこの辺でやめといてやろうか。
俺はコロンへの目配せもそこそこに、台本を無視して前に進み出た。
またなんかやりだすつもりか?という警戒の視線が雨のように降り注ぐが、俺の歩みを止めようとするものはいなかった。
「うちのパーティのものが失礼をしました。申し訳ございません。しかし、今回どうしても伝えたいことがあったのです」
俺がそう話すとサイラスはムカッとした表情のまま俺を睨め付けてから、数秒してぶっきらぼうに一応聞いておこうと言い放った。
どうするか迷ったのであろう。
流石にこの状況で意地を張り続けるのも得策ではないし、なにしろギルド副長から推薦されている俺達をギルド本部に突き出すなんて真似もできないだろうし。
なにより、俺らの実力の一端を示した。
認めざるをえないのではないだろうか。
ちなみになんで俺がここで会話し始めたかというと、コロンと俺の立場が同格だということを示すことで俺が動きやすくなるからだ。
まあ本音のところ、全部コロン任せじゃ流石につまらないし。
「はい、実は古龍の居場所に関してですが、もうすでに私どものパーティでは位置を特定しております。集落からみて西の山脈の中の洞窟に潜んでおります」
俺の発言でざわざわと一同に動揺が走った。
「それは、視認したということか?」
サイラスが疑いと追及の目で見てきた。
作戦行動の外に捜索をしにいった、つまり抜け駆けをしたってやつと思われているのだろう。
まあ、実際作戦の計画とかガン無視してしょっぱなから捜索してたわけだけど、そっちも俺達のこと無視してたからお互い様だよね。
まあ、捜索したとは言わずに、普通に感じるっていうけどさ。
「いいえ、気配を感じるんです。古龍の居場所を。第一、俺らは昼間はみんなと同じく行動を共にしていたし、夜の山道を歩いていくほど愚かじゃないですよ」
実際夜の山道ガンガン俺最初歩いてた。
捜索してても誰も寄ってこなかったから案外安全だけどね。夜の山道。
まあパッシブスキルの「威圧」はオンにしてたけど。
本来なら昼間には出ない夜行性の魔物たちがうろうろしているらしい。
視界も悪いし好き好んで夜の山道を歩こうとするものは俺くらいだろう。
ミミは地中に潜ってるから平気だ。
多分。
「ははは!感じるだ?国王騎士団の偵察隊が4日かけても見つからなかったという古龍をか?笑わせるな。話にもならん」
サイラスが笑うと同時にギャラリーからもちらほらと、わざとらしい笑い声が聞こえた。
サイラスをよいしょしているのだろうことがありありと伺える。
下手すぎ。
偵察隊が4日かけて見つけられなかったのか。
ってかまずい。
「いや、本当に――」
「白けてしまった。会議は切り上げる。明日朝、ここに集合するように。渡した資料に詳細がすべて載っているので目を通しておくこと。お前たちは今日の愚行忘れるな」
サイラスは俺達を一瞥するとわざとらしく地面を踏み鳴らし去っていく。
あらら。
サイラスに続くかのように前に出ていた3人を好奇の目で見ながら冒険者たちは散っていった。
「やっちまったーー!」
俺は両手で頭を抱えた。
待遇改善のために打った一芝居が逆に俺達の待遇を悪くしてしまった。
非常にまずい。
いままで無視だけで済んでいたものが、これからはもっとひどい嫌がらせなども受けかねない。
もうこの作戦はほとんど失敗と言ってもいい。
これからこの関係を修復できるとはとてもじゃないけど思えない。
地道にランクをAに上げてから正式にクエストに参加しないとだめか。
「ゾア様が台本通りにやらずに途中からでしゃばるからですわ」
とコロンはすこしむすっとしながらおっしゃっているが、そういうことじゃないんだよなぁ。
まああんなにセリフの練習をしたのに最後まで演技できなかったのが悔しいのだろう。
コロンと俺とアッシュは夜な夜なこの時のために何パターンも分岐を作って台本を作り、それを練習してきた。
しかし、なんかサイラスがあまりにも馬鹿にされすぎて怒ってる感じだったので耐えられなくなって俺がささっと出ていっちゃったのだ。
本来ならあのままサイラスなど他の冒険者たちに足りないところを列挙していき、最終的に憤慨したサイラスをアッシュがいなすっていう台本だったんだけど。
なんだこの台本。
こんなん、実力を認めさせるとかじゃなくてただただ、サイラスが貶めを受けて悔しがって俺達を憎むってストーリーじゃん。
脚本家誰だよ。
はい、俺です。
いや、あの時はうまくいくと思ってた。
サイラスが思ったより心の狭い人物だったのだ。
もっと心の広い人ならば、おお、君たちは実力あるね、いままでごめんね
ってなるはず。
きっとなる。
なるかなぁ?
まあ、相手が悪かったんだな今回は。
とりあえず、明日は予定通り南から捜索をしていく流れになるだろう。
あと6日。
多分古龍を発見するのは最終日だ。
その間5日間もあるけど無駄なことをするのが俺には目に見えてるってわけだ。
だからどうするか。
黙ってみていたら多分、関係修復にはいたらないどころか何も得られないだろう。
選択肢は2つくらいかな。
1つは単独行動をとって古龍を討伐する。
でもこれはやりたくない。
自分たちの実力を示しただけで、なんにも利益がない。
2つ目は明日の会議からもっと大口を叩いて煽りまくる。
どうせなら煽るに煽って最後5日目に、
ほんとだ、ここにいた!君たち知ってたんだね!
ってなることを祈るしかない。
うーん。
やっぱ2つ目かな。
1つ目は悪目立ちしすぎるような気がするし。
どうせ険悪な関係なら、関係はもうどうしようもない。
でも、俺達の実力はまだそんなに示せてない。
古龍討伐以外の方法で力を示すことによって、後半のSランク冒険者3人が加わってからの作戦に益をなすだろう。
古龍討伐以外の方法なら古龍の居場所を突き止めるってのが大きい。
今日から5日間、俺達が初日から西の洞窟に古龍がいるということを知っていることを明確に強調しておく。
そうすることによっていざ、そこにいたってなった時にまぐれだなんだって言いにくくなる。
王国騎士団のエリートさんたちが4日も捜索して見つけられなかったってのは初耳だ。
だが、好都合といえよう。
俺達が大した捜索もしてないのに国王騎士団のエリートさんたちに勝っている部分を見せつけられる。
その後の討伐で少しは活躍して、次のクエストからは一目置かれてみんなと仲良くできるようになるってわけだ。
よし。エンディングが見えた!
「じゃあみんな、宿屋に戻ろう。それと、今日はたくさんセリフをみんなに覚えてもらう。明日からサイラスたちに抗議活動するぞー!」
「「はっ!」」「おー!」
――――
「西の洞窟に古龍はいる!西の洞窟!洞窟!」
「南から捜索は時間の無駄!」
「に、西の洞窟!」
「洞窟!洞窟!さっさと洞窟!調べろ!」
俺達の抗議の声が場違いにも貴族の閑静な住宅街にわーわーと響き渡っている。
俺達パーティ全員、庭の端っこに綺麗に並んでベガルスル語で西の洞窟!と書かれたプラカードを掲げながら抗議の声を上げている。
流石にやりすぎかってくらいやっちゃった。
ちょっとプラカード作るのとか楽しくなっちゃってやりすぎちゃった感は否めない。
ここまで騒いでいるのに、だれも止めに来ないのは昨日の暗示魔法の一件があったからか、それともサイラスのパーティがまだ集合場所に到着していないからだろうか。
俺達は朝1でここについて大声を上げていた。
最初にここにきたパーティの方々は俺達を見るなり踵を返して、次にきたパーティの方々と一緒に入庭した。
中学生の連れションかよ。
その点勇者タクヤは俺達をずっと興味ありげに見つめていた。
もしかしたらこういう光景が前世の記憶と重なる部分があるからかもしれない。
俺の故郷の星でもこうやって抗議活動などをしたり、政治的、宗教的な活動をする人は少なくはなかった。
俺は別に興味なかったのでうるさいなくらいに思っていたんだが、実際やってみた側になってわかったことがある。
うるせえ。
これ完全近所迷惑。
俺の故郷はそういう活動は保護されてるから騒音とかで訴えられたりはしないんだっけ?
この世界にそういう概念ないから、普通につかまりそう。
騒音ごぶりんついに逮捕。なんつって。
おっと、そんなことしてる間にクエストリーダーサイラスさんのおでましだ。
サイラスは堂々たる態度で彼のパーティを引き連れて庭に入ってきた。
「これはどういうことだ?」
俺達を視界にいれるや否や彼は言い放った。
そのサイラスの姿を見て、周りの冒険者たちが慌てたようにいろいろと事情を説明しているのが目に見える。
「おら!西の洞窟に古龍はいるぞー!」
「西の洞窟!西の洞窟!」
俺はそんなことお構いなしに大声で叫び散らかした。
周りの人たちに迷惑かかるのではなかろうかと叫ぶたびに罪悪感にかられる。
ここ閑静な住宅街だし……
ここでどうサイラスが反応するかだよな。
俺達を追い出すというならギルド副長の推薦を盾にしてギルド副長以上の上役に解任書をしたためろと言う算段になっている。
怒ってやめろというなら西側の洞窟を探索させてくれと頼む。
俺達に整列しろというならいったん従う。
しかし、みんなで挙手をする。
さながら小学校低学年の授業参観ばりの挙手率になることだろう。
そしてきちんと指名された場合、言う内容は西側から捜索しようである。
無視された場合はしぶしぶ担当場所はきちんと捜索する。
これを5日間繰り返す。
俺達がいかに西の洞窟に執着しているかというのを印象深くすることができるだろう。
実際初日からやりすぎた気が否めないが、まあ挑発にはちょうどいいだろう。
勇者の反応も上々だったし。
冒険者たちの報告を聞き終えたサイラスが俺達にゆっくりと近づいてきて、言い放った。
「その予想、外れたらどうする」
おおっとこの反応か。
でも俺達の台本に死角はない。
「私たち全員の首でも差し上げますわ。お金がほしいというならば、ここにいる冒険者全員に金貨5000枚ずつ差し上げますわ」
コロンの発言で冒険者たちに動揺が走った。
いきなり5000万円くれるっていったらそら驚くよね。
このクエストの成功報酬がだいたい金貨500枚、つまり500万円くらい。
高いとは思うけど、SSランククエストだから基本ベテランにしか任せないし、死のリスクも高い。
妥当と言える。
俺だったら急いで西の洞窟を調べて古龍を別の場所に誘導するけどね。
せこ!
まあミミの監視の目がそんなこと許さないんだけど。
なんでここまで啖呵が切れるのかっていうのは、昨日ミミと一緒に俺も確認に行ったからだ。
ばっちり古龍はそこにいた。
本当にドラゴンみたいな形をしていた。
まあ俺も視認はしていないけど。
気配を消すスキルがあるのかわからないけど非常にわかりにくかった。
騎士団が見つけられないのも頷ける。
そして、もう1つ分かったこと。
それは古龍の頭の上に何か他の生命体がくっついているということだ。
古龍が突然人里を襲い始めた理由。
なんとなくわかってきた気はする。
黒い宝珠によって発生した洗脳系の魔物が古龍を操っている。
って感じかもしれない。
それならその魔物を倒せば古龍を殺さずに済んで集落の人間も満足するだろう。
問題はここまで深い事実をサイラス達に伝えるべきかどうかということ。
なんでここまで知っているんだと疑いをかけられない可能性がある。
この、サイラスが西の洞窟に食いついてくるパターンは一番練習していなかったセリフではあったが、ちゃんと覚えてくれていたようだった。
コロンは言ったこと以外は何にもしてくれないが、言ったことはきちんとこなしてくれる。
優秀だ。
この中で序列が一番高い3位であるのも考慮するととんでもないハイスペック配下だろう。
少し前なんて、建物を一瞬で砂にした時もあったしなぁ。
コロンの大胆発言を聞くとサイラスはにやりと笑って他の冒険者たちのほうに向きなおり、叫んだ。
「よろしい!では、面倒だが予定を変更して、貴様らの先導の元、今日は西を調べる!もし今日中に古龍が見つからなかった場合は貴様らから5000金貨を全員分召し取る。貴様らの首はギルド副長の顔に免じて勘弁してやろう」
「はい。では、案内いたしますわ。集合場所、準備などはお任せいたしますわ」
コロンが恭しくお辞儀をした。
この展開か。
最高の展開だ。
俺が考えたパターンの中で一番いい結果をもたらすであろうパターン。
サイラスが折れて最初から西の洞窟を調べる、だ。
このパターンならば5日間も無駄な時間を過ごさずに済むし、昨日言い出して速攻で今日居場所をピンポイントで的中させるってのは効果が高い。
俺達もコロン同様にお辞儀をした。
まずは第一段階終了だ。
このパターンならば、発見後、今気づきました的な体で、古龍が操られていることを報告して村長にも説明したりできる。
「では集落、古龍の祭壇西門前集合だ!山を進む準備は怠るな!」
「「はっ」」
こうして俺達の抗議活動も功を制し、無事に西の洞窟へ行くことが決定した。
600以上のセリフを一生懸命徹夜で覚えたのにあっさり終わってしまったことが気に食わなかったのだろうか。
コロンが俺の横でむすっとしているがそっとしておこう。
――――
「では、先導をよろしく頼む、コロン殿」
サイラスは集合場所の古龍の祭壇西門で集まった冒険者すべての人数を確認しいろいろと冒険者の心得的な話をした後、コロンに先導を丁寧に頼んだ。
いつまでも軽くあしらっているというわけではなさそうだ。
丁寧に対応したのに結局騙されてました的なのを演出したいのだろうか。
まあいちいち突っかかってくるようなら面倒だからこっちのがやりやすい。
「はい。では、サム、よろしく頼みますわ」
「おう、じゃあ、ついてくるがいい」
俺が素早くこたえるとミミとコロンを横につけて歩き始めた。
なんの会話もないままどんどん俺は山道を進んでいく。
思わずパッシブスキルの「飛行」を使ってしまいそうになるがあわてて抑えたりする一面もありながらも順調に進んでいく。
こうして団体で動いてみるとやはり、俺とミミで昨日下見に行ったときはものすごい速度で移動していたというのが分かる。
洞窟まで半分というところでもう2時間くらい過ぎて早めの簡単な昼食になることになった。
俺達は下見までして帰ってくるのに30分かからなかったけどね。
山道ちょっと早めに歩いて4時間くらいのところにいるって時点ですごい集落に近い。
なのにまったく気配を感じさせないってところがもう古龍の並々ならぬ実力を感じさせる。
流石は何百年も生きているだけのことはある。
それなりに知性があるなら魔物の洗脳を解いた暁には話しかけてみよう。
何かガリョウが知らないような面白い話知ってるかもしれないし。
「――――闇を統べて、光を抑え込め。異次元収納!」
メイが5分近くの詠唱を終えて異次元の収納スペースから適当な食料を取り出した。
メイはそれをみんなに渡すと座って黙々と食べ始めた。
あんまりミミ以外の面子とは仲良くなれてない気がするから、なんかおもしろい話をしようとはおもったけど、周りに冒険者がいてはうかつに失言もできない。
首尾一貫ちょっとおしゃべりのほうは厳禁の姿勢で行こうと思う。
「私たちのこの一連の行いになにか意味があるのかしら?はなはだ疑問ですわ」
と思った矢先、俺達が黙って食べていると、横に座っていたコロンが食事の手を止め、突然俺に話しかけてきた。
「コロンから話しかけてくれるなんて珍しいな」
「あ、うん」
あれ、ちょっと態度が塩らしくなった気がしたが、まあいっか。
彼女なりに身分の高い俺に勇気を出して話しかけてくれたのだろう。
でも、周りに冒険者もいるし、すごいあいまいな返ししかできそうにない。
「ギルド副長の面目を背負っている俺達がここで無視され続けて虐げられるのはあってはならないことなんだよ。コロン」
「……そうですわね」
コロンはまた黙々と食べ始めた。
俺のあいまいな返答が気に入らなかったか。
というかコロン含めて七魔将の考えていることがいまいちよくわからない。
もっと腹を割って話したいものなんだが、俺が一番話せないこと多いっていう。
ダメじゃん。
味方との交流もなんとか深めたいなぁと思いながらもなーんにも会話のないままついに洞窟にまでたどり着いた。
そこは深く暗い谷底の小川が流れる横に大きく空いた不気味な穴のような場所だった。
深い谷底に降りるのはちょっとこの人たち大丈夫かなぁと心配はしたものの、さすがはAランク冒険者。Bランクの勇者のパーティでさえも軽々と足元が暗くて見えにくい崖を下って行った。
「ここの奧にいるというのか?」
サイラスがにやにやしながら言った。
何がおかしいのだろうか。
俺は「気配察知」を使うために少し目をつむると、確かにずっと奥、400メートルくらい先に大きな反応がある。
気配を消している感じがするが、その存在の大きさから隠しきれていないようだ。
「はい、この先にいます。どうしますか?視認するまで近づきますか?」
「ははは!見なければ5000金貨いただけないだろう。いや、奥まで進んで見つけられなければか?ははっ進むぞ。案内しろ」
俺は眼下の冒険者たちを観察するように見た。
皆が皆くすくすと笑い、勇者やフラミー、メイは困ったような顔をしている。
アッシュは平然としているが。
あれ?
俺はもう一度、「気配察知」を使う。
間違いない。
いるはずだ。
「ゾア様、古龍の気配など微塵も感じないのですが、本当に大丈夫でしょうか」
俺が目を閉じて確認しているとメイが近づいてきて耳元で俺にこういった。
まじ?
「ミミ、いるよな?」
「うん!」
うん。まあ大丈夫だろう。ミミがそういうなら。
ちょっと心配になってきたけど。
耳がいいアッシュも平然としているし、多分大丈夫。オールオッケー。
「おい、どうした?まさかここまできて嘘だったとかはやめてくれよ?」
サイラスがそう俺達に言うと冒険者たちが一斉に笑い出した。
俺達をバカにする笑いではなく、これから手に入るであろう5000金貨への喜びの笑いのように思えた。
ここはSSランククエストの古龍の住処だっていうのになんともまあ気合いの足りないことだ。
初日はもっとこいつらにも気合入ってたのに。
お金って怖いわ。
俺の友達にも宝くじ1000万当てて人が変わっちゃった人いたわ。
1000万一瞬で使い果たして友達もいなくなってた。
こわ。
「いえ、大丈夫、なはずです。では、メイ、よろしく。他の方々も出せる方は光の魔法で洞窟を照らしてください」
俺がそういうと一斉に魔術師たち総勢7人の詠唱が始まった。
一定時間自由に動かせる光を発する玉を出して洞窟を照らす簡単な魔法だ。
冒険者志望はこれを一番先に習得するらしい。
まあそんなことはどうでもよくて。
あと400メートルってことはそれほど遠くない。
そして、もし仮に俺とミミの情報が正しければ、この先にメイですら気付かないような気配を消したとんでもない魔物が潜んでいることになる。
大量のパッシブスキルを搭載した俺が古龍の位置を誤認させる幻影とか暗示にかかるわけもないし、多分、気配の消し方がうまいだけだと思う。
俺の「気配察知」でもよく見てみなきゃ気付かないレベルだし。
危険のない範囲での偵察というが、こいつらは多分気配を感じるか、視認するまであきらめない。
古龍がもし透明で気配も消しているならば、目の前まで気付かずに、ぱくりと食われて永遠に古龍を拝めないまま人生に幕を閉じたりとかあったりして。
シャレにならない。
まあとりま進みますかね。
俺達は7つの光で外より明るく照らされた洞窟へと足を踏み入れた。