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8 SSランククエストへ



「では、行ってくる」


「はい、お気をつけて。留守はお任せください」


「ああ、頼んだ」


俺は深紅の大きな二枚扉、転移門の前で、見送りに来ていた、古風な衣装に身を包み、白い羽根でできた扇を持ったガリョウと数十分話し込んでいた。


少しの間だが別れが惜しい。


そう思うくらいに俺はガリョウと最近はずっと話を交わしていた。


ガリョウとの話は他愛のない話でもすごく面白かったし、この世界の伝説とかの話もすごく面白くて、なにかにつけてはガリョウとここ数日はずっと話をしていた。

頭のいい人の話は面白い説。


逆にこちらは俺の故郷の話をたくさんした。


その中でも彼の名前の元になった諸葛亮孔明の逸話についてはいろいろと話した。

まあ俺もそんなに詳しいわけじゃないからちょいちょい俺の想像で補ったが。


彼は俺が今まで接してきたサブカルチャーのどんな作品でも羽根の扇を持っていたような気がしたので、それをガリョウに行ったら次の日から白い羽根の扇を持つようになっていた。


なんともまあ様になっている。

ガリョウも気に入ったようだ。



俺が今回転移する先は、グリミ町林中。


グリミ町ってのは王都から西側の山々を越えるとある小さい町だ。


王都を出発して冒険を始めた勇者が最初に山の雑魚モンスターたちを狩り、たどり着く小さな町って感じ。


まあ山には到底Fランク冒険者では倒せないような飛竜とかいろいろいたけどね。


グリミ町は、市場でにぎわうギルド支部周辺の道以外は、閑静な住宅街、そしてもっと町の外側にいくと、畑が広がっている。そのまたさらに外側には、山で生活する人々の村がある。

そのうちの1つが今回の依頼主のいる村落だ。


なんで俺がその場所を詳しく知っているかというと、下見にこっそりいったからだ。

下見にいくーって俺が宣言しようものなら必ず1人は俺に付くことになりそうだし。

面倒だからこっそりと行った。


門の開く場所も、場合によっては周りに人がたくさんいる場合だってあり得るだろうし、「魔王扉(テレポートゲート)」の下見は必須と行ってもいい。


まあベガルスルの王都から山々を超えればいいんだけど、ぶっちゃけめっちゃめんどくさい。

普通の冒険者達は一週間かけてその山脈を超えるという。

まあ俺たちの速度で行けば半分以下にはなると思うが、それでも一日で登り切れるような生半可な距離じゃない。


地図で見た感じだとそうでもないけど、実際登ったり下ったりで実際の距離は相当なものだろう。


つーわけでおなじみチートスキルの転移門でずばばんと短縮しようってわけ。



数時間前、俺達はベガルスル王国王都林中に転移して、ギルド副長ジュバルさんと会ってきた。


何故会ってきたかというと、勇者が参加しているという、SSランクの、魔物の偵察および討伐の特別任務に混ぜてもらうっていう招待状を書いてもらうためだ。

いやーコネってつくづく重要だね。

俺のコネじゃないけど。


SSランクっていうのは町が一つ消えてなくなるレベルの怪物が現れた時につけられる依頼のランクで、これが最大ランクだ。

冒険者たちはSランクまでしかランクがないので、普通はSランクのみのパーティで行くそうだが、今回は魔物の大量発生でAランクも動員せざるを得ない状況に陥っているという。


基本的に、SSランクのクエストは、冒険者同士全員で集まって、あらかじめ決められるリーダーの支持の元、団体行動をして依頼に臨む。


SSランクの討伐依頼はその高額なクエスト報酬により、応募者多数の為、ギルド長がメンバーを選別してリーダーと副リーダーを決めて、遣わすのだそうだ。


今回の討伐偵察のクエスト依頼に関してはもうすでに募集と選別は終了しており、俺達がそれに混ざろうっていうならこのようにコネを使うくらいしか方法がない。


ちょうど今日、選りすぐりの冒険者たちがグリミ町に集まって第一回の会議をするという。

がんばってみんなは山を越え、谷を登りここまで来たと思うが、俺はそんな中ガリョウとくっちゃべってても集合には間に合う。



しかも、コネを使った理由はそれだけじゃなくて。ただ単に俺たちの冒険ランクがBだから、普通にクエストに応募しても落選する可能性100パーセント。

コネを使うしかないってわけだ。


まあ勇者も特例でBランクなのに参加しているし、Bランクつながりでいろいろお話しできるといいと思っている。

パイセン達が

「チッ、Bランク風情が調子に乗りやがって、お前らグラウンド100週な」

的なこという人たちであれば逆に勇者パーティとのふれあいの時間が増えて助かるんだが。


まあそんなこんなでギルドからの招待状を貰って、一旦楽園領に戻り準備とかいろいろ済ませて、今からグリミ町へ行こうっていう場面だ。



俺が行ってからするべきことは2つ。

1つは勇者と仲良くなること。

もう1つは勇者パーティの他の4人の内情を調べ、さらに他の参加者の名前ランク出身を全て記録して持ち帰ることだ。


1つ目はまあ下準備ってやつで頷ける。

2つ目に関しては、

勇者は普通に酒場とかで仲間を募ってる訳じゃなく、他の4人全員、王国などから遣わされた人がパーティに入ってるとみて間違いないのだそうだ。


問題は、誰が勇者がロード機能を持っているっていう機密事項を誰が掌握しているかということだ。

最悪全員機密事項を持っていてもおかしくはないと思うのだが、その時はその時。

とりあえず情報をかき集めるべし。今回これが一番難しそうだ。


他の討伐偵察クエストに参加したパーティにも、国王の監視の目が光っている可能性は非常に高い。

なので、そいつらの名前とかも一応記録しておく。


とまあこんなとこだな。

まあ全部ガリョウの受け売りだけど。


いい部下を持ったよ本当に。

呼び捨てるのはなんだか忍びないが、俺がずっと先生ってよんでたら呼び捨てでいいって言われた。

じゃあ俺のことも……ゾアって呼んで!てへ!みたいな恋愛漫画風な展開になるわけもなく、俺が呼び捨てになっただけって感じだ。


まあ俺としてもずっとガリョウの言葉を真に受けてそのままの行動をするって訳にもいかないので、配下として扱うのがやっぱりいいかな。



今回の討伐メンバーはいつもと変わらず、アッシュ、メイ、コロン、フラミーに加えて、ミミだ。


タケシ君は残念ながら主に俺がやるべき仕事全部押し付けたやつで忙しいし、戦闘能力が著しくゼロに近いので今回、いや、今後も一緒に旅をするってことはないだろう。


ガリョウはというと、一応ボロ屋の建築が一通り終わって暇になったゴブリン達に原始的な、先に石を括り付けたような槍や岩を持ってもっぱら戦闘訓練にいそしんでいる。


ガリョウに槍くらいいい奴を王都で調達してこようか?と言ったんだが必要ないですの一点張りで断られた。


遠慮してるのがまるわかりなので俺がこっそりちゃんとした槍をゴーズに作らせるようにいっておいたので、じきに装備だけは巨人級の強さのゴブリン槍兵部隊が完成するだろう。


マグナス、ズオウはいまいち俺も話したことないからよくわかんない。

なんでも、俺がガリョウとばっかり話しているのが気に食わないらしく、ガリョウに陰湿ないたずらをしているっぽい。

まあミミからちょっと聞いただけだから真偽のほどは不明だけど。

ガリョウは頭いいからそんな嫌がらせ程度でへこたれるような人間ではないだろう。

そんな安心感があるのがガリョウの魅力の1つだ。


出発前日、ガリョウがほしいと言ってきたので、みんなの前で俺の持っていた短剣を授けて、留守中の楽園領の命令権を渡した。


まあこれで有事の際はガリョウが動いてくれるだろう。


ガリョウは自分の分身を出したり、気配を消したりする諜報系の魔法を多く習得していて、情報収集のプロって感じらしい。


実際に攻撃魔法とかは一切覚えていないらしいので、本人曰く戦闘力はゼロだそうだ。


背後から忍び寄ってぶすり、なんてこと余裕でこなしそうだけどね。

そして被害者の携帯にはさよならの四文字が!

ってそれは違うか。



まあそんなこんなでおなじみメンバーで勇者との交流会行ってまいりましょー!

おー!



――――


「わー!マスター、たくさん人がいるね!」


「ミミ、だからマスターじゃなくてサムって呼びなさい」


俺は感嘆の声を漏らし、はしゃいでいるミミにしっかり注意した。


ミミは最初二人きりの時ですらちょっとは敬語使ってたのに、いまでは他に人がいても呼び捨てである。

いろんな人に怒られていたが、俺はあえてそれを止めた。

距離が近いのはいいことだ。

ナメられるのはいやだけど。


俺は当然のようにゴブリンの格好をしているし、さすがにゴブリンの俺がマスターとか、ゾア様とかは世間的にまずいでしょってことで、俺への呼称はサムで固定。


設定としては、コロンが貴族のお嬢様で、そのつてで参加することになった。という理由にしておいた。

みんなの冒険者カード見てみたら、フラミーの魔猫族以外は全員人間族で登録してあったからまあ普通の冒険者って感じで言ってもいいんだけど、アッシュのおじいさんがスーツ姿で、コロンがゴスロリ衣装で非常に目立つので、お嬢様、メイドの構図を利用させていただくことにした。

それ以外のメンバーはパーティの公募で参加した傭兵的立ち位置って設定だ。



俺達の目の前にはたくさんの冒険者がひしめき合っていた。


冒険者ギルド支部の近くのお屋敷のお庭を金をはらって貸切って、会議の場所としているため、あんまり暴れたりとかはできない。

暴れないけど。


全員で数えた感じだと俺らも含めて41人。


俺らが6人、勇者パーティが5人、あとは、7、6、5、6、6って感じの計7パーティ41人かな?


俺達がちょうど着いてこれからあいさつ回りをしようかというところで

「ちゅうもーーく」

という大きな声が閑静な住宅街に響き渡った。

近所迷惑。


もう始まってしまったか。

先に挨拶しておかないといろいろ面倒そうなんだけどなぁ。


開けた広い庭の中央にぞろぞろと人が集まっていく。


「よし、俺達も行こう」


皆が頷くのを確認して俺は勇者パーティの後ろに陣取る。


隣だとでしゃばんじゃねえ!ってなりそうだし。


今回のループでは、俺と勇者パーティは初対面ってことになる。

だから、「勇者さんですよね?ファンなんです!」から始めようと思う。


有名人にあったらとりあえずファン自称しちゃう奴、いるいる。


「全員集まったようだが、今回のクエストは全部で6パーティ35人の構成なはずだが?」


すぐに集まった集合の前で1人、台に上っている男が言った。

なんか体育の授業みたいだな。


大柄で茶髪、右耳に16個のピアス。

この男は事前に調べがついている。

今回のクエストリーダー、Sランク冒険者、人間族のサイラスだ。

貴族の出で、剣術を学び、何とか学園の剣術部門主席で卒業したエリートらしい。

まあ、エリートって割にはめっちゃちゃらちゃらしてるんだけど。


俺がコロンに目配せすると、事前の打ち合わせ通りコロンが手を上げて話し出した。


「少しよろしいかしら?私たち、Bランクの冒険者パーティなれど、その実力を評価され、ジュバルギルド本部副長の推薦を頂いてこの任務にはせ参じることになりましたわ。アッシュ、あれをクエストリーダー殿に」


「はい、お嬢様」


アッシュがコロンに一礼すると、前に進み出て1つの紙封筒をクエストリーダーに渡した。


「これが、本部副長からの招待状でございます」


サイラスがいぶかしげな顔をして封筒を受け取ると、びりびりと封を破り中身を確認をしはじめた。


「ふむ、どうやら本物のようだな」


「わかっていただけて何よりですわ。私は北方貴族、サムイーグル家の出のコロンと申します。若輩者ですが何卒よろしくお願いいたしますわ」


コロンは黒いスカートを少しつまんで上に持ち上げて丁寧にお辞儀をした。

流石、練習時点で完成されていただけはある。完璧だ。


「こちらこそよろしく頼む。私はギルド長より直々に指名を承ったクエストリーダーのSランク冒険者サイラスだ。とりあえずクエストの詳細を話す前に、軽く皆に自己紹介をしてもらおうと思う。SSランクのクエストは死人が出ることも珍しくない。生死を共にする仲間のことはお互いによく知っておくべきだ。協調性を重んじよう。では、右の諸君からお願いする」


「あ、はい、私は――――」


こうして長々と一時間近く自己紹介タイムが続いた。


この自己紹介を一通り聞くだけで今回の3つの目的の一つが片付くから安いもんだ。


ぶっちゃけ面倒だからメイにそれぞれの自己紹介を記録させて、前にいる勇者のパーティを観察していた。

まあ人間観察が趣味です!っていう子ではなかったけどね俺は。


まず勇者のパーティは全部で5人。

1人は言わずと知れた黒髪の冴えない青年、勇者タクヤだ。

2人目は勇者のパーティ唯一の魔族、元王国近衛兵のネコミミ少女のシーマ。

こいつは俺の「昏睡の魔眼(スリープアイ)」にもかからなかった。

近衛兵っていうくらいだし腕も相当なものなのだろう。

魔術師兼剣士で火系統を扱うらしい。

3人目はこれもまた俺の「昏睡の魔眼(スリープアイ)」が利かなかった、全身銀色の甲冑で身を包んだ小太り身長低めの男、元近衛兵のゴンドー。

盾持ちでいかにもタンカーって感じ。

4人目はギルド本部から勇者のために派遣されたっていう傭兵的な冒険者、マルスだ。

性別は男。すらっとした体形で、髭を蓄えてるから30代くらいに見える。

勇者のパーティで唯一のAランクの魔術師で、後衛で水系統の大魔法を放つのが得意らしい。

5人目は教会から勇者を守るために派遣されたというシスター、ライ。

回復魔法専門らしい。頭をフードで覆っているため、顔は見えない。

はたからみたら怪しい人にしか見えない。要注意。


まあこんな感じかな。


よく、歴史とかでは、教皇が権力をもって国王と戦うみたいなのあるが、この世界では国王が教会の実質的支配権を握っているらしい。

故に、ギルドから派遣されたという魔術師マルス以外は、全員国王の息がかかっている可能性があるだろう。

ギルドは一応独立機関だし、すべてにおいて中立だから安心だとは思う。

ここで嘘でしたってのもすぐばれるし言わないだろう。


故に、俺の「昏睡の魔眼(スリープアイ)」に耐えうるだけの実力を持った元近衛兵のお二人と、教皇から遣わされたシスター。

この4人の素性を暴いていくことが今回の目的となる。



一応他のパーティの説明をしておくと、クエストリーダー以外は勇者パーティ除いてみんなAランクだ。

Aランクにも、上と下の落差が激しいらしくて、その中でもSランク目前って人が多く来ているようだ。


クエストリーダーはちまたでも有名なパーティ赤い月と呼ばれる7人組パーティのリーダーサイラス。

クエスト副リーダーは同じくそのパーティのヒーラーの男が務める。



ちなみに、勇者はBランクにも関わらず、めっちゃ丁寧な対応をされる。

だが、俺らはというと周りから侮蔑の目で見られた。

特に魔族の俺とフラミー。


魔族は俺らと勇者パーティのネコミミのシーマってやつ以外はこの中にはいなかった。

勇者パーティと同列に下に見られるならどんと来いなんだけど、俺らだけちょっと異端って雰囲気が漂ってて最悪としか言いようがない。

勇者に近づいただけで、勇者様をお守りするのだぁ!とか来られそう。



「よし、では自己紹介も一通り終わったところで、クエスト内容、日程などについて説明していく、質問があればその都度挙手をしてからするように」


自己紹介が終わるとサイラスのクエストに関しての説明が始まった。


ちょくちょく外野の、お前それ質問しなくてもわかるだろ!っていう質問がたくさんあったので、会話の内容の子細については省くが、大まかにまとめると、


今回俺達に与えられたクエストは前半と後半で2つ。

前半は10日後に合流するSランクの冒険者3人が到着するまでに、情報収集と魔物の偵察をするということ。

後半は10日後に合流予定のSランク冒険者3人と共に魔物を討伐するということだ。


今、Sランク冒険者が魔物の大量発生の為引っ張りだこで、情報収集や偵察などの比較的軽い仕事はSランク冒険者にはさせずに、討伐だけさして次の現場へ、っていう感じだからこんなことになったそうだ。


今回の依頼は、村を襲う超強力モンスターの討伐。



詳細に関しては、今日から4日間に及ぶ襲われた集落周辺への聞き込みなどで情報を集める。


残りの6日間で情報を整理し、モンスターの補足、まだ余裕ならモンスターがどんな攻撃をしてくるかなども観察する。

ただ、前半の目的はあくまで偵察。

モンスターに攻撃することは許されない。


まあこんなとこかな。

なんでおおまかにまとめるとこんなに短いことを話すのに4時間もかかったか、俺は若干イライラしている。


あと、ひたすらサイラスはSSランククエストでは協調性が大事だと強調した。

その割に俺が挙手してもガン無視されてたんですけどその点はどうなんですかね?



まあいいや、魔族の差別にもだいぶ慣れた。

魔王の仲間の魔族は皆殺しだってならない分ましだよね。


とりあえず、全員分宿を取っているそうなのでそちらに向かうらしい。



俺達は?



途中参加だから別行動ですありがとうございました。



――――



1人の老人とそれを取り囲む村人たちの前に40人近くの冒険者たちが対峙していた。

一触即発の雰囲気が漂う。


「お前ら何しにきたんじゃ!けーれ!けーれ!」


老人がすごい剣幕で持っていた杖を振るい、目の前の冒険者たちを威嚇した。

しかし、冒険者たちの先頭に立つ男、サイラスはひるむ様子もなく言葉を返した。


「ですが、村長、このままではこの村が壊滅する可能性が、もう死人が15名、行方不明者が16人も出ているんですよ?」


「ええい!黙らんか!我らが神、古龍様に危害を加えることなど合ってはならん!早々に立ち去れい!」



2日目、聞き込みをして、情報を整理したところによると、どうやらこの土地に何百年も住み着いて土地に恩恵を与えてきた、古龍なる土地神がどうやら最近になって途端に村を襲ったという。


土地神っていうのは特定の土地に住み着いてその土地や住民に恩恵を与える魔物やそれに準ずるもので、おそらくだが、ミミのようにその場に存在するだけで周りを活性化していくようなパッシブスキルを持っているものだと思われる。


襲撃は2回のみ、目撃証言もその2回の時だけ。

どちらの襲撃も突然空から翼を羽ばたかせ飛来し、村を破壊して家畜を奪い去り去っていったという。

被害的には建物の破壊が100軒以上。

死者15名、負傷者35名、行方不明者16名。

その行方不明者は、家畜と共に連れ去られたといい、食べられちゃったってことも考えると命の保証はない。

村人の人数は200人程度。

30人っていうのは大打撃だろう。


まだ被害は2回で済んでいるが、これからどうなるかはわからない。


俺達としてはもっと詳しい話を聞きたいのだが、本日クエスト開始から3日目、団結した一部の住民たちが俺達に敵意を向けている。


どうやら、土地神は土地神らしく悪さもせずに、逆にこの地を災いからずっと守ってきたという古龍は、この村の崇拝の対象になっているようだった。


その崇拝対象を討伐しようっていうんだからそら怒りますよね。


でも、家族や親戚が密接につながる小規模な村だけあって、死人行方不明者あわせて30人。

家族とは言わないまでも、友達や知り合いがいなくなっていない人はいないほどの状況だった。


流石に崇拝しているとはいっても、家族を殺されたらそれは崇拝の対象になるだろうか。


長生きしてその神様のすごさありがたさを理解して、信仰心に篤い人ならばそれでもめげずにこのように対抗するが、特に若い人からは早く探し出して敵を取ってくださいみたいなことを聞き取り調査の時いろいろな方向から耳にした。



故に村長としても、古龍倒せって言っても村全体が信仰している神様を愚弄する行為になるし、かといって放置すれば村人が死んでいく。

その両者の板挟みで大変だろう。


俺達は村長にとめられようが止められまいが、関係なくクエストを進める。

故にここで村長が反対しておくことによって、古龍擁護派の意見も抑えられるし、古龍討伐派は結果的に古龍が討伐されることによって目的を達成する。


無常な村長とレッテルを張られるかもしれないが、村が仲間割れして崩壊するっていう可能性はなくなるだろう。


まあ、もっとも、この顔を真っ赤にして憤慨しているあまりにも信仰深そうなこの村長がそんなことを考えてるとは到底これっぽっちも考えられないけどね。

今の俺の知的解説の意味のなさよ。


「聞くところによると村長さんの息子さんも現在行方不明だとか。息子さんの捜索にも全力で当たらさせていただきますので、何卒お怒りをお沈めください」


「誰がこいつらにそんなこと話したんじゃぁ!息子がなんだ!代々ワシらはこの土地で生まれ育ってきたんじゃ!それもひとえに古龍様のお陰あってこそじゃ!それをワシらの代で滅ぼすなど不敬にもほどがあるわい!ご先祖様に顔向けできぬわ!とっととけーれ!」


老人はさっきから杖を振り回して奇声を上げている。

周りの村人たちの顔も、俺達への敵意の顔から村長を心配する顔に変わってきてる。

息子さんも行方不明になって精神も不安定になっているのだろう。


とりあえず俺達は村長との面会を断念し、聞きこみ調査3日目の夜を迎えた。





「マスター!起きてー!見つけたよー!」


ガチャッと宿屋の部屋の鍵が開く音がすると、ミミがどかどかと俺の部屋に入り込んできて寝ている俺の腰あたりを両手でつかんで体を揺らした。

ちょ、くすぐったいってば!


「うっ、むにゃむにゃ」


「マスター!起きてー!ろうほう!ろうほうだよ!」


「ん……ああ、ミミか、おはよう。いい朝だね」


俺が目を開けると目の前には青い長髪が朝の陽ざしに照らされて綺麗に輝いている美少女ミミが立っていた。


おお、これが伝説の寝起きからの美少女。


まあ、「危険察知(アラーム)」でミミが部屋に入ろうとしたくらいからもう強制的に起こされていたんだが。

危険察知(アラーム)」は、意識がない範囲で人が来ると、文字通りアラームのように知らせてくれる、まあ寝首かかれないようにするパッシブスキルと言ってもいい。


その憎々しいスキルのせいで寝起きからの美少女の効果が激減している。

普通にミミがそこに立っているだけだ。


事前に知らされていたドッキリ企画みたいな感じ。

魔王もいろいろ苦労があるんだなぁ。


「うん!おはよう!ミミ、昨日夜探し回ったら見つけたよ!古龍!」


えっへんと言わんばかりにミミはそのない胸を突き出してどや顔でこっちを見ている。

ミミは普通にしているよりどや顔が似合うな。

どや顔女子、流行るな。


俺は昨日、ミミに特別任務を与えた。

その高い索敵能力を十分に生かしてもらおうと考えて、古龍の居場所をつきとめさせたのだ。

ミミズ状態ならばすぐに見つけられただろうが、人間状態でも速さが少し遅くなるだけで、土の中は自由に動けるらしいので、誰かに見られたりぼろが出たらまずいからとりま人間状態のまま送り出した。


まあそんなことミミにはお構いなしだったらしい。

ミミは俺の中でなんでもこなすアッシュと1位2位を争うくらい活躍している。

戦闘力は列強レベルに比べれば大したことはないと思うが、その土地神のパッシブスキルと高い索敵能力には何度も助けられている。

あのミミズがまさかこんなに使える奴だったとは夢にも思わなかっただろう。


まあそんなことはともかく。


この聞き込み調査段階でなぜ抜け駆けのように敵の捜索をさせたか。

理由はちゃんとある。


それは俺達だけ、このパーティの集団の中で発言力が皆無に等しいからってのに由来する。


俺達が手を上げても無視されるし、話しかけても適当にあしらわれる。

勇者のパーティには近づくと、ギャラリーのAランク冒険者たちが俺らの行く手を丁寧な言葉遣いで阻んでくる。


さしずめ勇者と国王に取り入りたい人間の集まりだろう。


まあこのままでは勇者と仲良くなるとかいうレベルじゃないから、どうにかして待遇の改善をしなければならない。


故に、抜け駆けして古龍の居場所を探っちゃおうっていう訳。


俺が2日目の夜、「気配察知(センス)」で山の中歩き回った感じでも、全く反応がないほどだったので、普通に探させても難しいと思われる。

そこでミミの出番。

さささっと探し当てて、さあこれから古龍を探して偵察しましょうってところで俺がすかさず古龍の居場所をリーク。


え!居場所わかるなんて!やるやん!ってなる。


といいんだが。


ここまであっさりミミに見つかっちゃうくらいだから、普通に探しても案外普通に見つかりそうな気もするけどね。


まあ探して悪いことはない。


とりあえず働いて働きまくれば待遇改善されると信じよう。

ブラック企業の社員かよ。

1年後待遇改善が望めず白目向いて退職して、転職先が見つからなくて泡吹いてニートになる未来が見えた。


「よし。でかした!気取られてないだろうな?」


「う―ん、多分大丈夫?」


ミミは俺の質問に顎に人差し指をさしてうーんって考えてからあいまいな答えを返した。


あざとい!


いまどき素でそんな仕草する女子いないから!

朝から血圧上がるからやめて。


「ま、まあいいや、それで、どこにいた?」


「うーん、口で説明は難しいなー、山の奧の方の洞窟の中?」


洞窟か。


洞窟に眠る太古の龍。

龍って飛ぶよね?

洞窟って凄く響きはいいけど、そこで龍と対峙する訳だし、飛べなくなって超不利だよね。

もっと崖の上とかに住処作ればいいのに。


「それは見た訳じゃなくて、反応を感じただけってことね」


「うん!」


まあ見に行ってたら最悪やられる可能性だってあるしね。

賢明な判断だ。

なにせSSランクのクエストなわけだし、それ相応の実力があるモンスターであって然るべきだ。


「ほかに反応はあった?」


「んー?それだけだと思うよ?」


やっぱり行方不明者の命はないか。

残念だが、みんな薄々気付いていたことだろうし。

仕方ない。


まあとりあえずこの情報はでかい。

今日の定例会議でしっかり発言してやろう。

無視されたらちょっと小ばかにして、

まだ見つけられてないの?ださ!

とか挑発したり、

先に行って龍の首ゲッチュしてくれば少しは態度変わるだろう。

俺が1人で勝てる相手かは謎だし、そんなことしたら勇者とかかわる前にクエスト完了しちゃうからやらないけど。

何のために来たかって本質を見失っちゃいけない。


「おーけー。お疲れさん。じゃあとりあえず飯にするかー」


「おー!」


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