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7 賢者との邂逅

「で、君は一体なんのために俺たちを6日前から尾行しているのかな?まあ俺は6日前から気付いていたけどね」


「え、マスターはきづ、うっむぐ」


俺の威厳のある発言の虚偽申告をしようとする向かいに立っているミミの口をバッと押えて、冷ややかな目でミミを睨みつけた。


これから口を割らせようって相手の前でいきなり俺の威厳が失われたら大打撃だ。

余計なことしないでくれたまえよ。ミミ君。

俺の心の叫びを感じ取ったかの如くミミがうんうんと頷いたので拘束を解除する。


口止め完了。

これが権力者の力だ!


「最初から気付いていたんですか……はは、僕もまだまだですね」


目の前の人間状態のミミに襟首掴まれて拘束されている少年が観念したとばかりに呟いた。


目の前に跪く緑髪の少年は短パンにシャツみたいなラフな格好をしていた。

人間族で10歳くらいかな?って感じ。見た目は。

村の子供Aってエンドロールで入りそうなほど地味。

俺の「気配察知(センス)」への反応が薄かったのも頷ける。



俺は遠くからミミにまた「変身の悪魔(メタモルフォ)」をかけなおして少年との邂逅に臨んだ。

もういい!戻れ!ミミ!ってね。

ミミズのままってのはなんとなく俺が威圧されてしゃべりづらいからな。


どうやらミミは地中の中をある程度なら瞬間移動できるようだ。

追いかけっこじゃ俺に勝ち目はないな。


俺の転移門やゴブリンの正体、ミミの正体とか、いろんなとこ見られているわけだし、タダで帰すわけにはいかない。

しかし、俺の魔法の中には口割らせる系の魔法なんてなかったしなぁ。

魔王は結構物騒な魔法ばっかりの習得に生涯をささげていたようだ。

激痛を与え続ける魔法とかならあるから、まあいざとなったらさくっとやってしまいましょう。


ってあれ、若きエリート、6日前先生の家を訪ねた時から尾行されていた?


「ま、まさか、あなたが噂に聞くソーマ先生でありますか?」


「はは、いやいや、僕は先生の一番弟子です」


なんだよ、違うのか。

まあでも、これでソーマ先生が俺のことを尾行させていたってのが分かったわけか。


王国の手先とかじゃなくて助かった。


隠すつもりもなさそうだし「永遠の(カースオブ)苦痛(エンドレスペイン)」の出番がなさそうで助かる。


「で、なんで尾行していたんだ?」


「かの邪悪な英雄を欺ければお前も一人前だと、先生がおっしゃったので……」


む……邪悪な英雄だと……?


まさか俺の存在がバレてる……?


「邪悪な英雄?なんのことだ?」


「魔王のことに決まってるじゃないですか。あなたですよ。魔王アスタロス……さん」


完全にバレてるー!

まあ魔王固有スキルの転移門出してるとこ見られてたらそらそうだ。


やってしまいますか?っていうミミの視線を感じたので首を振っておいた。

とりあえず魔王を前にしてこの不敬な態度。

敵対する気もなくて、俺に殺されないってことをわかってるみたいだ。

ソーマ先生とやらに取り付けるかもしれない。


まあかまかけてる可能性あるしね、とりあえずしらを切っておく。


「な、なんのことかなぁ……?僕はしがないゴブリン、サムですけど……」


「大丈夫ですよ。僕も先生も誰かに話すつもりはありませんし、僕がもし捕まった場合は、魔王様を先生の元へ案内するように言われています」


ソーマ先生とやらはどうやらこうなることも見越していたらしい。

弟子の実力を試すのに加えて俺の実力も試したってわけか?

なんてやつだ。


俺は自分の「変身の悪魔(メタモルフォ)」を解除しながら言った。

黒いマントがばさっと現れる。


「ああ、じゃあ案内してください」


俺はミミに目配せして少年の拘束を解いた。

すると、少年はソーマ先生の家と思われていた場所とは反対方向に歩き出した。


「あれ?そっちなんですか?」


「はい、王国の監視の目がありますので」


「え?王国が先生を監視なされているのですか?」


「はい。先生は訳あって王国に監視されながらも、晴耕雨読の日々を送りながら世界各地の情報を集めています。ああ、ご安心ください。彼らには魔王様のことは見られていないはずです」


国王に先生が監視されてるってのは置いておくとして、これでいままで俺が先生に面会できなかった理由の1つがわかったような気がする。


俺に王国の目を向けさせないため?


索敵スキルが致命的な俺が山の中を魔王の姿で闊歩してたのはちょっと警戒心が足りなかったかもしれない。

まあ、みつかったからなんだって話にもなるけど、先生には迷惑は掛かるだろう。

先生としては身に降りかかる危険を回避する当然の行動だったと言える。


ってことは俺がこの山に入るころからもう俺の正体はわかってたってことか。

世界各地の情報を集めてるって言ってたし、俺の情報は筒抜けなのかもしれない。


ってか俺以上に俺を知らない人いないんじゃないかレベルで俺の事しらないんだけど。

主に400年から前の記憶だけどね。

その辺、先生が詳しいなら聞いてみよう。


それにしてもなんでこんなに魔王に対して恐れを抱いたりしないで平然と面会なんてするんだろうか。

興味本位とか?


まあ魔王に対してある程度悪印象がないのはいいことだ。


「で、今は監視の目は大丈夫なんですか?」


「はい。魔王様がお越しになることを先生は前々から見越しておられましたので、今日この日のために対策は万全です……今のは少々口が過ぎました、忘れてください。さあ、着きましたよ」


前々から見越していた?

どうして先生は俺の来訪を見越せたんだ?

未来予知系の魔法が使えたりするのだろうか。


「お初にお目にかかります。魔王アスタロス、いえ、魔王ゾア様」


後ろから突然声が聞こえて俺は背中に寒気が走るのを感じた。


ふっと振り返ってミミと共に素早く距離をとると俺の後ろには一人の男が立っていた。

腰まで流れるような長い黒髪だが、男だ。

やせ形で顔は整っており、美男子って感じだ。

10代か20代か。

確かに若い。


この人がソーマ先生か。


ミミでさえ驚いている様子だ。

気配の消し方がただものじゃないことを物語っている。


それに俺のことがゾアだってこいつは知っている。

どっから漏れた?

ミミは俺のことをマスターって呼ぶし、名前が漏れる心配はなかったはずだ。

まさか楽園領に間者が?

俺の配下たちがそれに気づかないってことがあるだろうか。


さまざまな疑問、謎が俺の頭を駆け巡る。


「ああ、驚かせてしまったようですね。ご心配には及びません。敵対の意志はございません。6度もの訪問、無下にしてしまい大変失礼をいたしました。ささ、まずはこちらに粗末ではありますがおもてなしの準備がございますので」


俺の思考もままならぬまま、俺は山の中にぽつんと建てられた小さい休憩所のような建物に案内された。

屋根と床が木でできており、側面には数本の柱が立っているだけの簡素なものだった。

中には2つの椅子とそれの間に1つの机が置かれているのが見える。

ミミとこの少年の分はないな。


「ミミ、後ろで待っていろ。俺は先生と大事なお話しがある」


「はーい!」


俺はミミを後ろに控えさせて案内されるがまま席に着いた。

机には2つの金色の金属コップなにか液体が入っているものが置いてあった。


「申し遅れました。私はソーマと申す者。昨日近衛兵の任を辞職し、この山に引きこもった世捨て人です。そんな世捨て人に天下の大魔王でもあろうお方が何用でございましょう」


「俺は魔王ゾアです。俺がこれからなすべき道に迷っていた時、ちょうどソーマ先生の御高名を聞きつけ、ここに駆け付けました。なにとぞお知恵を拝借したく思います」


適当に敬語使ってみたけど合ってるかな。

このソーマ先生の国王に監視されてたりする感じを見ると俺と敵対するより王国と一悶着あったみたいな感じだし、どうせ俺封印されるし、この人物に、すべて話してしまおうと思う。

それは最初から決めていたことだ。


もし、この男が俺の敵であったとしても、勇者以上の敵にはなりえない。

どっちにしろってやつだ。

どうしてもの事態になったら、勇者を殺しに行けばいい。


「それは、それは、この若輩に答えられることがあるならば何でも答えましょう」


俺はわらをも掴む思いで彼に事の顛末を話し始めた。


「率直に言おう。俺は魔王ゾアという、アスタロスという魔王の代変わりで呼ばれた転生者だ。

400年前、先代の魔王は先代の勇者に敗れ、彼の作った魔族の楽園はことごとく破壊され、彼は封印された。

しかし、どういう訳だか封印が解けた魔王の体には俺が転生していた。

転生した瞬間から既に、黒い宝珠というわけのわからない魔物量産機の犯人を擦り付けられて、世界の敵になっていた。

本当は、黒い宝珠は魔王が発生せているものではない。

俺は、魔王アスタロスに忠誠を誓う部下7人に俺が転生者だと、魔王アスタロスではないと悟られないようにしながら、俺の魔王人生唯一の障害と思われる勇者を打倒することにした」


俺は先生を見た。

こんな大きな話をしているのにいたって冷静だ。

情報収集していたと聞くし、もう元から知っていたのかもしれない。


俺のことを魔王だって聞いて血相を変えるようなことはないようでひとまず安心。


ふう、と一息つくと俺は続けた。


「しかし、勇者は死ぬと未来に戻る能力を持っており、不死身だった。

殺さずに無効化しようとすると彼は自爆した。

どうしようもなくなって、俺は自分の命をあきらめた。

残りの人生楽しもうって思った。

だけど、400年前の勇者は魔族の楽園を跡形も残らないくらいに消しとばした。

今回の勇者がどうなるのかは知らないが、俺が魔族の楽園を再興することに意味はあるのかと疑問に思えてきた。

しかし魔王アスタロスの部下は魔族の楽園の再興を俺に望んで離さないって感じだ。

先生に御良策をご教授願いたい」


俺は先生に回答を求めた。


「で、何をお聞きになられたいのですか」


「え?」


「具体的にゾア様はどうなされたい。それがわからなくては私もこの愚鈍な知恵をお貸しすることはできません」


具体的にどうしたいか?

いやいや、それをききたいからあなたのところに来たんですけどね?

所詮腐れ儒者、見当違いだったか。


「それを尋ねたいから先生のもとに遠路はるばる参ったのですが」


俺は半ばむすっとした声でそれに答えた。

少しの期待が打ち砕かれた気がしたからだ。


それを聞くや否や先生ははははと笑って答えた。


「では、逆にお尋ねします。あなたはなんのために生きている」


え?


なんのために生きているか。


突然俺はその問いを投げかけられ、驚いた。


それは俺が前世から考えていた俺の意味のない人生への非難の自問自答。


前世の全くの有象無象の一部だった俺、そして世界最強の実力者の一角となった今現在。

どちらにしても俺はその永遠の命題に対する糸口ですらつかめていない。


それをなぜ今この男はこのタイミングで俺に聞いた。


もしかしたらこの男もその答えを知りたいのかもしれない。


でも、この問いは他人が勝手に答えられるものではない。

実際この問いに明確な答えはない。


何のために生まれて何のために生きているのか。

そんなのは勝手に個人一人一人が決めつける。

決めつけて、納得する。


それが答えだ。


そして、俺はまだ俺の答えを得られていない。


というかそんなものの答えが分かってるならその理由に即した決断してるはずだろ。

わざわざ6日間門をたたき続けて教えを乞う必要なんかない。


「そんなものはわからない」


「そうです、私だって私がなぜ生きているのか、わからない時もあります。

しかし、それがわからないからこそ、人は生きるのです」



何のために生きているかわからないからこそ人は生きる?



その理由を探すために、か?



「では、もう一度お尋ねいたしましょう。ゾア様は具体的にどうなされたい」



俺は先生の言いたいことがようやくわかった。



「……俺は、生きたい。

勇者なんてクソくらえだ。

俺は前世、運命に流されるまま生まれて死んだ。

せっかくチャンスを貰って転生したのに、また自分の価値に絶望して朽ち果てるなんて、そんなのは絶対に、嫌だ……

先生、俺は……生きていたいです」


俺は今まで抑え込んで考えないようにしていた感情をすべて吐き出した。


俺は永遠の眠りにつくのが怖くて、それでもそれは何回考えても回避しようがなくて、どうしようもなくて。


もうそれが運命なんだと、俺は定めを受け入れろと脳に言い聞かせてきた。


でも、本当は死にたくないに決まってる。


前世でも、迫りくる死に俺は立ち向かった。

そして、すぐあきらめた。


でも、こわいものは怖いのだ。


生存本能とか、そういう科学的なことはよくわからない。

だが、いくら俺の命は価値がない、何のために生きているのかわからないとか能書き垂れていても、死は怖いのだ。


回避できるならば、それが一番いい。


「よろしい、ではその問いにお答えしましょう。

勇者は勇者特有の2つの魔法性質と2つの魔法を持っています。

魔法性質は1つに魔王様がおっしゃられた通り、死んだら未来に巻き戻り、その危険を回避することができる能力。

2つに無詠唱で魔法が使える能力。もっとも、こちらは転生者に特有のものであるようですが」


先生は俺を見てふっと笑い、また続けた。


「そして2つの魔法、1つは光魔法と呼ばれる系統の魔法で魔王に対してのみ効果を発揮する魔法だと聞き及んでいます。そしてもう1つは超封印魔法と呼ばれるもので、勇者にしか扱えません。文字通りありとあらゆるものを世界から切り離し、封印します。永遠に」


「永遠に?でも魔王は400年で復活しましたよ?」


「そうです。だから、今回の復活は故意に引き起こされたものだと言えます。

その訳はこれから調査しなければならない課題ではありますが、それは後回しでもいい。

話を戻しましょう。


勇者の未来に戻る能力、これははっきり言って無敵です。

勇者の超封印魔法でも施さないない限り、必ず勇者は蘇る。

せいぜい同じ時に足止めをするのが精いっぱい。

故に、絶対にゾア様は勇者と矛を交えてはならない」


確かに、勇者はこの人の見解でも無敵か。

自爆も防いで石化とか麻痺とかを恒久的にかけ続けても、それが永遠と続く、なんてことはないだろう。

それに、俺はもう二度も襲撃に失敗した。

その辺の対策はもっと強化されているだろう。


しかし、勇者と戦わなかったら俺は封印される。

勇者を説得するにしても、もう二度も殺している。

自分を殺した相手と友達になろうと思う奴がいるだろうか。

いや、いない。


「時にゾア様、勇者のことは何回、どのように殺しましたか?」


なんでこの男は俺のことをそんなに知っているんだ。

俺に未来巻き戻り前の記憶があることは俺しか知らないはずなのに。


まあこんなところで話を折るわけにはいかない。

俺はいつの間にか先生の話す言葉にくぎ付けになっていた。


俺は言われるがままに子細にレッサーゴブリン集落での出来事とその後の教会堂の破壊と勇者の始末について語った。


「ははは、2回ですか、これは結構。ならばまだ間に合うはずです。

勇者を懐柔するのです。

道はこれしかない。

ありとあらゆる策を講じて勇者を味方に引き入れる。

これこそが魔王様が生き残るためにできる唯一の、道でございます」


そうか。

先生の意見はほとんど俺と同じ結論に至っていた。

俺から聞いた断片的な情報でここまで推察できるのは流石先生と呼ばれているだけはある。


しかし、俺はそれがうまくいくとは思えないし、どのようにして勇者と仲直りするかそのビジョンが全く見えない。

小学校以来ケンカをろくにしたことがない俺に仲直りの方法なんて考える能力があるはずがない。

ごめんね!いいよ!ってなるなら苦労しないんだが……

ころばせちゃったとかそういう次元の話じゃないからなぁ。


「うまくいくと思いますか?」


「保証はありません。ですが、やらなければどの道永遠に封印されてしまうのです。

やり遂げるしかないと、そう思います。


勇者一行は先日、王都を出て西側の街のSSランククエストを受けに旅立ちました。

まずはそちらに、ゾア様お得意のゴブリンの姿で潜入して冒険者として勇者パーティの内情を探るが得策。

先ほどの勇者との2回目の戦闘で、麻痺状態にしたのにも関わらず装備が爆散した。というのが気になります。

十中八九それは魔法です、装備にあらかじめ内臓されていた魔法陣が発動したか、外部からの詠唱魔法かの二択。

魔法陣は使用者と触れていなければ発動せず、本当に勇者が麻痺していたというならばその発動は考えにくい。故に外部の何者かが勇者を殺した。と見るのが妥当。


彼のパーティ内部やそれを監視する何者かが勇者が未来に死ぬと戻るという秘匿されるべき情報を持ち、国王の思惑に従って動いていると考えるべきです。

勇者の懐柔に当たってもまずはその者、王国の息がかかった勇者の周りの人物をすべて排除するところから始めなくてはならないでしょう。

そのためにも、勇者が置かれている立場とその周辺に関しての情報を集めなくてはなりません」


俺は驚きつつも、彼の言葉を1つ1つかみしめながら聞いていた。


俺の心に希望が芽生えた気がする。

半信半疑ながらも、彼の言う通り、勇者の周辺を調べ障害を排除し、勇者に黒い宝珠は自分がやっているのではないということを説明すれば勇者もわかってくれるかもしれない。


俺の考えもしなかったことを先生はいくつも考えている。


勇者を味方に引き入れるなんてことは俺でさえ考えていたことだ。

しかし、その具体的な案さえもなく、俺は漠然とただそれを思いついて、すぐ無理だと心の隅に追いやってしまっていた。


俺が勇者に勝てないと絶望していたから頭が回らなかったってのもあるが、先生は俺よりもはるかに広くて深い知識をその胸に秘めている、故のその具体的な解決案が俺に提示できたのだろう。


「恐れ入りました。ご教授ありがとうございます。感謝してもしきれません。

なぜ先生はそんなに俺について、いや、世界についてお詳しいのですか?」


「私は近衛兵に所属している時に、いろいろと情報を得ました。

情報というのはどんな時代も力です。

現に私はゾア様のことを知っていますが、ゾア様は私のことを知らない。

故に会話の主導権を握るのは当然私です。

これは様々な物事にも通じましょう。


こんな話はどうでしょう。


現在の七魔将、序列一位驕りの虎、マグナス。7つの魔眼を操り、敵をなぎ倒す様子はまさに圧巻だったと言います。豪傑です。


暫定序列2位ズオウ、インプの魔剣士、彼は常に剣に触れたものの秩序を破壊する魔法を纏わせ、彼の故郷をめちゃくちゃに壊して回ったとか。豪傑です。


序列3位コロン、彼女は不死身の吸血鬼、血を飲むとその血の主の能力を一定期間行使できます。当然豪傑です。


序列4位、アッシュ。彼は400年前の勇者襲撃にて両目を失うまでは序列1位。たった1人で敵陣に乗り込み、剣士、魔術師あわせて2万の兵を皆殺しにしたという話はあまりにも有名。豪傑です。


序列5位、鍛冶屋のゴーズ。二つの大斧を振り回す彼は戦闘力もさることながら、数々の名剣を世に送り出しています。豪傑と言えます。


序列6位、メイ。彼女は暗示魔法、催眠魔法などが専門で、普段は表舞台には立たず一見戦闘力はないようにも思えますが、幻惑魔法で当時の序列3位だった男を撃退しています。豪傑でしょう。


暫定序列7位ミラ、彼女は若くして亡くなった序列7位の天才回復師の弟子。回復魔法や結界魔法を専門としており優秀です。戦闘力も人並みはずれてあるでしょう。十分に豪傑と言えます。


さて、長々と説明をしてきました。

この中の人物、それぞれが一様にして豪傑です。

しかし、情報収集に長ける人物がおりません。


もし勇者を仲間に引き入れることができたとしても、王国と敵対し、王国が私のように情報収集をきちんとなし、ゾア様がそれを怠った場合は、いくら豪傑の集まりといえども、敗北は必至でしょう」


先生は俺より深く俺の部下のことを知っていた。


情報収集能力については俺も懸念していた部分だ。


俺が情報収集なんてできるわけがない。

そんな諜報系の魔法持ってないし、聞きまわるくらいしかできない。


君、ヨーロッパの某国のトップの内情探ってきてよ。

って上司に言われたら、お前が行ってこいって思わず言い返す。

クビだ。

そんなの行く前から不可能だってわかる。


週刊誌とかの記者とかもそうだけど、情報収集なんてのはコネとかも重要になってきたりするし、とてもじゃないけどうちの陣営にそんなことができる人物はいない。

みんな脳筋だからな。


古代中国の孫子という有名な人の言葉に「敵を知り、自分を知れば100戦して負けることはない」みたいな言葉があったはずだ。

まさしくその言葉の、自分に関しても敵に関しても俺は知りえてない。

そんなんじゃ勝てるものも勝てない。


「その通り、その通りです。情報が俺の前には全くと言っていいほど不足している。先生の智謀、古の臥竜鳳雛にも勝るとも劣らない。先生のその慧眼、情報収集能力、恐れ入りました。ぜひとも俺の傍で俺を支えてくれないだろうか、お願いします」


俺は立ち上がって深々と頭を下げた。

俺にはこの人が必要だ、そう直感的に思った。

この人が俺の傍で道を示してくれたらなんとかしてくれそうだ。

そう思った。


先生は慌てて立ち上がり俺の両肘をつかんで顔を上げさせた。


「顔をお上げください、ゾア様。この凡才などでよろしければ魔王様のお傍で微力ながらお支えします」


「あ、ああ、ありがとうございます。よろしく頼みます。先生」


うれしい。

そう心から思ったのは何年ぶりだろう。


お気に入りの声優のサイン色紙が当たった時以来だろうか。

それと同列かよ。


「では、私に新たな名前をつけてください。私は一度は世を捨てた身、名前と共にその過去はここに捨てていくことにいたします」


うーん、名前か。

今までミミズだからミミとか、がっちりしてるからからタケシとか適当にしか名前つけてこなかったけど、今回は俺の命の恩人ともいえる存在になるであろう人物だ。

適当につけるわけにはいかない。


「では、ガリョウというのはどうでしょう」


俺がそういうと先生はははははと大きく笑って見せた。

なにかこの名前がこの世界の常識的におかしかっただろうか。


「この名付けの理由をお聞きしてもよろしいですか」


「俺の故郷には臥竜と鳳雛という雅号を持つ天才軍師が二人いました。それの一人になぞらえてガリョウと、なにかおかしいところがありましたか?」


臥竜というのは諸葛孔明のことだ。

今の俺はまさに水を得た魚。

この状況にぴったりなネーミングだといえる。


コーメイとか呼ぶのはちょっと厨二臭くて俺が嫌だし、雅号の方ならばそんなに慣れ親しんでないし、普通になじむだろう。


しかしなにか不都合なことがあっただろうか。


「ははは、いいえ、いいでしょう。私はこれからガリョウです。さあ、一杯飲みましょう」


ふと眼下の机に目をやると、2杯の金色のコッブが横から差し込んだ光に照らされて神々しく光っていた。

来てからそういえば一口も手を付けていない。

酒だろうか、茶だろうか。

どちらにせよもう喉がカラカラだ。


先生がコップを両手で持ち、顔の前に持ってきたので、俺もそれに倣う。


「新たなる主へ」


「新たなる導き手へ」


「「乾杯」」


2つの杯がコツンと音を鳴らしてぶつかった。


そこで鳴り響いた鈍い金属の音は、俺の中の歯車をゆっくりと動かし始めた。




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