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5 死に戻りの勇者


「久しぶりの普通の食事も悪くないですわね」


俺の目の前、豚のバラ肉と豆を炒めて特製のソースをかけた料理にふかふかとしたパンが皿に盛りつけられている。


まだ半分も飲み終わっていないミルクの入ったグラスが俺の右手に握られていた。


ガチャカチャと食器と金属が触れ合う音が俺の鼓膜を揺らす。



戻った。



俺の前には俺の配下の4人、アッシュ、コロン、フラミー、メイが同じように食事をとっている。


俺はグラスをゆっくりとテーブルに置くと眼下の皿に目をやった。

このパンと豚肉料理のセットは今日俺が朝、宿屋で選んだメニューだ。


間違いなく今朝だ。


ここから、みんなが食べ終わった頃合いに俺がゴブリン救出作戦の打ち合わせを始めるのだ。


俺は椅子に寄りかかって天を仰いだ。

天井にはキラキラとしたシャンデリアがたくさんぶら下がっていた。


俺はこんがらがる思考を整理していくうちに、最悪の、そして最も確率の高い1つの結論に行き当たった。



それは、俺が今まで体験してきたロード体験は、勇者が死ぬ度に起こっていたのではないかということだ。



よくよく考えればわかった話だ。

視界の右上にあるスキルって文字、魔王と勇者の対立構造。勇者は転生者。

どう考えてもこの世界のモデルは俺の故郷のありふれた異世界RPGゲームの一つだろう。


そしてそれらのゲームの中で、時間の巻き戻りという機能を備えていたのは魔王であったか。

否、勇者たるプレイヤーだ。


死んだらセーブポイントで蘇る。

これはどんなゲームでもおなじみの設定だろう。

この機能はプレイヤーたる勇者以外のどんな登場人物も保有していない。


RPGのプレイヤー達は死んで経験を得て、最終的には確実に敵を打ち倒すのだ。


そしてその敵は俺だ。

当然、無限ロードの勇者に勝てるわけがない。


バカだな、俺。


勝手にゲーム感覚で主人公ズラして舞い上がって、俺視点で物語が進んでると勘違いして考えて、考えて。

結局これである。


何のために俺は生きているんだろうな。


俺は転生前、こんなことを病床で考えたことがあった。

結局答えはでなかった。


最近はゲームの悪役ですら、自分が何者であって、何のために生きているかなんてことはしっかり把握して、信念を持って行動している。

それに対して、いきなり知らない世界に引きずり込まれて、あなたは魔王ですって配役を言い渡されて、それで俺はどうすればいい?


信念も夢もなにもない。


ただただ勇者に封印されればいいのか?

ふざけるな。


この世界はゲームのようでゲームじゃない。

NPCであるはずの登場人物に全員息があり、血が通っている。

それぞれの人物にはその人の人生が、生きる意味があるはずだ。


それをプレイヤーだからといって自分の気に食わない結果は何回もロードしてロードして、自分の都合のいいように世界を、他人の人生を塗りつぶす。

こんなことをやっていいのはオフラインゲームの中でだけだ。

オンラインゲームでそんなことをしていいはずがない。

そんなのは世界の救世主でもなんでもない。ただの暴君だ。


俺は自分がそんなことをやられてるとなると途端に腹が立った。


今俺のやるべきことはなんだ?

救世主様に黙って倒されることか?

否、暴君を止めることだ。


俺の生きてる意味なんて最早どうでもいい。


どうせやることもこれしかないんだ。

与えられた配役にあらがえるだけあらがってやろう。


よし、大分落ち着いてきた。


俺は目をつむって今の状況を整理した。

気配察知(センス)」のモノクロ映像も俺の思考の邪魔にはならなかった。


俺がいままでロードを体験したのは全部で3回。

一回目は目覚めてからすぐのことだ。


あれは朝方だろう。

どこにセーブ地点があったかは眠っていたからわからない。

なんなら俺の寝ている間も何回もロードが起こっていたのかもしれない。


二回目は寝た後から、領地を視察に行ってみんなを屋敷に返してからの地点に戻った時。

あれは夜から昼に戻った。


三回目は今回、勇者を殺してから、今、早朝まで戻っている。

これは昼から朝に戻った。


この並びに規則性はないな。

ロード地点の朝が二つ重なっているくらいだ。


勇者の死亡タイミングでロードされるってのは合っているだろう。

俺に都合の悪いことが起こるとロードされるって考えてた俺、完全にピエロ。


勇者の希望タイミングでロードできるってんならお手上げだな。

まあいつもは最悪の可能性を考えて動く俺だが、今回に限っては、勇者が死んだら戻る、ロードポイントは直近セーブポイントの一つだけっていう俺の現代知識と勘で構成された希望的観測に基づいて行動していくことにしよう。

なんだかそんな気がするんだ。

いや、そうでもなきゃどう考えても勝ち目はない。


セーブポイントか。

俺に心当たりがあるのは王国、教会、宿屋の三つくらいだ。


幸い、ロードしてから少ししか時間は経っていない。

いまから心当たりを当たれば勇者のセーブポイントと勇者の行動を把握することができるかもしれない。


よし。


俺は目をあけて、4人に向き直った。


「王都の城に入り込むのは難しいか?」


「はい。王城には魔王様のお力を抑制する力が働いており、さらには近衛隊には手練れが多く、我らだけでは数で不利。さらに、国王はなんでも極秘裏に禁忌の召喚術を用い、大量の強者を召し抱えているとか。それが事実ならばとてもとても、全盛期の楽園の面子ならば……まだ勝算はありましたが」


アッシュが俺の問いに対し、持っていたフォークをこつんと皿の上に置いてすぐさま答えた。


王都は無理か。

それにしても国王が禁忌の召喚術ねぇ。

そういうのは魔王がやるもんじゃないのか普通。

俺なんて配下7人。


まあ建国から時間がたった王国ってのは内部構造が大抵、昔ながらのハンバーグのデミグラスソース並みにドロドロしているってのが定跡だ。

なんでもありなんだろう。


転生者だって召喚されたものだろうし、そんなものがたくさん量産されているってことだろうか。


「では、この近場には教会とか聖堂ってのはあるか?ってかこの国に宗教はあるのか?」


「ええ、この世界を創造したと言われているベガルスル神を唯一の神とする一神教、ベガルスル教がこの国の主な宗教ですな。

ベガルスル神が人間族と異種との混血を嫌っていた、また彼の配下悪魔が彼を裏切って殺害したという故事から我々魔族は差別を受け、悪魔の召喚術は禁忌になっているというわけです。

それで、王都に教会は2つほどあります。1つは王城の隣にある大きな聖堂、ベガルスル大聖堂。もう一つはギルド本部から少し西にいった辺りにある聖バシリカ教会堂になります」


魔族を神様が嫌っていたのか。

魔族にとってしてみれば生まれながらにして嫌われ者。

理不尽な世界だ。

その神様とやらが俺をここに噛ませ犬として呼び出したなら、勇者に打ち勝ってぎゃふんと言わせてやろう。


まあ、勇者が教会でセーブしているとしたらだいたい目途が立った。


それは聖バシリカ教会堂だ。


ギルドでクエスト受注をする際、ついでにセーブしていけるから、間違いなく俺ならそこを重宝する。

さらに、初日のロード地点が朝と昼で2つある。

あの勇者パーティの移動速度ならば、朝聖堂でセーブ、ギルドでクエストを受注して、クエストを1つこなしてギルドで結果報告、昼聖堂でセーブ。

ギルドと聖堂は近いらしいし、こまめにセーブは納得のいく流れだ。


こう考えてみると聖堂に勇者がいるのがだんだんと色濃くなってきた。

王城までの距離ではさすがに、朝王城を出て、ギルドにタッチして昼また王城に戻ってくるのが精いっぱいだろう。

参勤交代かよ。


そしてここはギルド本部内の宿屋。


近い。


俺はすぐに立ち上がった。

「|全てを超越する闇の刹那オールダークファスト

万民に(オール)与えられし自然の加護(エレメンツガード)

万民を守る生気の防御(オールドレインバリア)

万民に(オール)与えられる自己修復(リジェネーション)

万民の(オールリバース)反射装甲マジックプロテクション

半透明の気配(オールクリディ)


俺は今俺が覚えている範囲の付与系魔法を片っ端からみんなにかけた。


「ゾア様何をなさいましたの?」


前の4人がきょとんとした中、コロンが疑問を吐露した。


「今は説明している暇がない、急いで聖バシリカ教会堂に向かうぞ」


「「はっ」」


俺はこの時半ば確信していた。



聖バシリカ教会堂に奴はいる。



仲間の前で無詠唱魔法をどうのこうのとかこの際はどうでもよくなっていた。


俺の真剣さを感じ取ったのか、アッシュたちは俺の無詠唱魔法に言及することなく、すぐに立ち上がると素早い手際で俺を聖堂へと誘導した。


ギルドを出て、ギルド街道と呼ばれる道を西に進んでいき、商店街の勢いがだんだんと少なくなってきて、商店が完全に無くなったというところで教会堂は俺らの視界に姿を現した。


教会堂の外観は予想通りといった感じで、真っ白でお城みたいな外観をしていた。

バッキンガム宮殿とかに近いだろうか。聖堂じゃないけど。


俺が「気配察知(センス)」を使おうと目をつむりそうになったその時、黒い大きな門を開けて5人の人が聖堂から出てきた。


あれは間違いない。勇者パーティだ。

当たった。

俺はまだ運に見放されてはいなかった。


俺は「変身の悪魔(メタモルフォ)」を解いて人間状態に戻った。


「お前らだけであの聖堂を跡形もなく消すことは可能か?」


「邪魔が入らなければ、わたくしの力をもって朝飯前ですわ」


コロンが腰からひとつの赤い液体の入った透明な小瓶を取り出してぐびぐびと飲み始めた。

命令もしてないのにやる気だな。わかってるじゃないか。


「では、他の3人はコロンのサポートに回り、あの聖堂を跡形もなく消し去れ。終わったら、俺のもとにまた来い、急げ」


「「はっ」」


彼らは答えと共に、一瞬で俺の目の前から姿を消した。

あの徒競走は手を抜かれていた可能性が高いな。

まあそんなことは置いておくとして。


俺は「半透明の気配(オールクリディ)」という魔法で体を若干透明にして気配を少なくしている。

まだ彼らからは視認されていないはずだ。


俺にロード前の記憶は残っているが、俺の配下たちは覚えていない。

勇者も同様で、勇者は記憶があるが、他の4人は記憶がないのではないだろうか。


俺の人間状態での体は勇者に魔王として認識されてしまう。

俺は再度「変身の悪魔(メタモルフォ)」を使い、適当にインプを選んでインプ族に変身し、「半透明の気配(オールクリディ)」の効果を解いた。


とりあえず最初は普通に通りかかりに話しかけて、探りを入れよう。


聖堂の破壊を確認できたら、勇者を殺さずに拘束する。


俺もいわばパッシブスキル「不死(アンデッド)」で不死身だ。

その点勇者と同じで、400年前勇者が魔王を封印するという選択は正しかった。


故に俺も先人の知恵を借りる。


意識があると、希望タイミングでロードされてしまうタイプならば厄介だ。

選択の間も与えずに勇者の意識を刈り取る。


「スキル」


俺の目の前に大量の文字が出現する。

不思議と文字酔いはなかった。

これが火事場の馬鹿力ってやつか。


俺は一応一回すべてのスキルの名前を効果を確認しているので詳細な効果説明文は出さずに、魔法名だけをざっと確認する。


敵を封印するっていう魔法は魔王でも持っていなかった。


となると役に立ちそうなスキルは

数秒間、敵パーティの動きを止める「全てを封じる闇の鎖(オールダークバインド)

昏睡の魔眼(スリープアイ)」よりも強力な睡魔を敵単体にお見舞いできる「睡魔への誘い(スリープ)

敵を麻痺状態にする鱗粉をまき散らす蝶を無数に出す「麻痺の鱗粉(バタフライパラライズ)

あとはパッシブスキルの石化の蛇眼、「大蛇の魔眼(ゴルゴーンアイ)」を使えば耐性がなければ石化させられるだろう。


とりあえずこのくらいか。

あといろいろと便利そうなスキルはあるが、多分そんなにスキル発動の暇はない。

この3つを発音できるかさえ怪しい。

なんせ相手は無詠唱魔法の使い手。

使いやすいものに絞っていったほうがいい。


拘束が無理そうならばすぐ殺してしまおう。

まだ、俺のが速さも強さも勇者に勝っているはずだ。

聖堂が消しとばされてロード機能が正常に機能するかどうか。

うまくいくといいけど。


さて、そんなことを考えている間に勇者一行が近づいてきた。


俺は適当な距離で「半透明の気配(オールクリディ)」の効果を切る。


黒髪の少年、勇者タクヤは疲れたような表情で俯いていた。

魔王のいきなりの襲撃で相当精神きちゃってますって顔にも見える。

記憶が勇者側も残ってるとみていいだろう。


「あ、もしかして勇者さんですか?」


俺がゴブリン姿で気さくに勇者一行に話しかけると、俯いていた勇者が顔を上げ、その顔を恐怖でゆがませた。

後ずさりしながら、くるなと捨て台詞を残し、後ろに慌てて走って行ってしまった。


あれ、なんか間違ったかな。

気配でわかっちゃうとか?


あ……


前回と同じ道を同じ時間に通ったのに急に変なイベントが来たらそれは誰かの介入を意味するか。

俺もロード体験してるのにうっかりしてた。


ま、まあ敵に後ろを向けるってのは自殺行為だ。

こっから俺の独壇場。


「ど、どうしたんですか?」


白々しく俺が他の4人に言うと、他言無用で頼むと一言残し、勇者を追いかけて行ってしまった。


パーティのお仲間さんたちは俺の真の正体には気づいていない。

やはりロード前の記憶共有は転生者の特権らしい。

つかなんで俺転生したし。

今更だけどさ。


俺と勇者との距離が10メートルくらいになった頃、突然爆音が聖堂のほうから鳴り響き、視界に見える聖堂が砂のように崩れ落ちた。


きたか。


勇者が今起こったことに反応して自分の足に急ブレーキをかける。


勇者らと俺に砂埃と風が波のように到達する前に、聖堂の残骸たる砂が地面に吸い込まれるかのように消えてなくなり、元聖バシリカ教会堂は完全なる更地になった。


この間数秒である。


流石、列強3位。

格が違う。

コワ。


全てを封じる闇の鎖(オールダークバインド)


この魔法の有用性はすぐさっき確認済みだ。

勇者は流石に対策してきてるかと思ったが、まさかここですぐ襲撃されるとは思わなかったのだろう。

後姿のまま動けないでいるようだ。

付与系魔法は持続時間があるしな。

そう対応できたものではないか。

まず抗う術がこのBランク冒険者にあったかどうかが疑問だけど。


麻痺の鱗粉(バタフライパラライズ)


俺は続けざまにスキルを打ちこむ。

初めて使ったが、金色の羽をした綺麗な蝶が無数にその羽をばたつかせて粉をまき散らしながら、勇者パーティの一人一人の顔にまとわりつく。


パーティ全員が「全てを封じる闇の鎖(オールダークバインド)」の効果で抵抗することすらできずに、ばたりと地面に倒れこんだ瞬間にその蝶は役目を終えたと言わんばかりに飛散して空に消えて行った。


うし、全員麻痺成功したか。


まあ所詮勇者の卵。

ちょろいもんだ。


だが、麻痺はもって数分だ、耐性があればもう少し時間は短いかもしれない。

石にして永遠と魔王の屋敷の石像になってもらおう。

多分俺の魔法レパートリに石化を直す魔法もあったから、石化状態は死んでいる扱いにはならないはずだ。

俺は勇者があおむけで倒れているところまで文字通り飛んで行き、勇者の顔を見て言った


「眠れ、発動!蛇眼開眼!」


俺がそう言って「大蛇の魔眼(ゴルゴーンアイ)」をオンにするかというその刹那。


勇者のあらゆる装備が爆散し、俺が勇者の返り血を浴びる間もなく世界は光に包まれた。



――――



「久しぶりの普通の食事も悪くないですわね」



あれ、戻った。



だめだ。


うっ……


「おぇ……」


俺は吐き気がしてブツが口まで出かかるが、それを無意識で飲み込んだ。


右手に握られていたコップを無造作にテーブルにたたき置く。

ミルクが周りに飛び散らかり、その場に似つかわしくない音に周囲の目線が集まったが、気に留めている余裕はない。


「はっ、は、はあ……はぁ……」


動悸がする。

ここまで自分の心音が耳に響いたのは生まれてから初めてだ。


4人がどうしたのか、と驚き、席を立ちながら聞いてくるが今の俺にはそれに反応する気力がなかった。


あんな化け物に勝てるはずがない。


勝てるはずがない。


「くそっ……やろうが……っ!なんで、なんでこうなるんだよぉお!」


俺はいつの間にかぼろぼろに泣いていた。


俺の頭が働く範囲で手はすべて打ち尽くした。


教会を破壊しても全く意味がなかった。


勇者は不死身。

殺すと戻る。

殺さずに飼い殺しにしようとする。

なにか仕掛けようとすると自爆。結果不死身。

時間経過で俺は勇者に封印される。

この条件で、何回考えても俺に勝ち筋がまったく見えない。


俺ができることと言ったらここで毎回勇者を殺してこの時の中に足止めをするくらいだ。

なんなら幻惑魔法とかも試してみながら、まあ結果自爆されるから何にも効かないんだけど。

こんな時間を繰り返したって何のメリットもない。

死んだほうがましだ。


所詮、俺は物語の上で踊らされる存在。


勇者に光を当てるために生き、そして葬られていく。


ま、他になにか手があったとしても、それを行使する気力がもうすでに俺にはないし。

どうせ失敗する。


そういうふうに世界ができてるんだよ。



だってそうだろ。

魔王が突然城を飛び出して低レベルな勇者に襲い掛かるなんて、ありえないだろ。


そんなありえないことが起これば、世界は巻き戻る。

全ては予定調和。


勇者が旅立ち、冒険し、魔王を封印するのだ。


そこには一切のつけ入る隙もなく、ただただゆっくりと物語は俺を侵食していく。



俺は何のためにここに生まれた?


何のために転生した?


神様の気まぐれか?


冗談はやめてくれよ。

何が楽しくてNPC役をやらされなきゃいけないんだ?


一見俺の行動は自由なように見えて自由じゃない。


俺は太い道の中で右往左往することしかできない羊。

横の細い道には小さな赤ちゃんの虎が見える。

その道はずっと先で、俺が歩いている太い道と合流しているのが見える。

俺が虎のいる細い道にいこうとすると、そっちじゃないですよーと襟首をつかまれてもとの道に引き戻される。

何回も、何回も。


俺はふと周りに目をやると、俺の部屋で、4人に背中をさすられながら、心配の声をかけ続けられていた。


いつの間にか俺の部屋まで連れてこられていたみたいだ。



こいつらだってそうだ。


勇者にめちゃくちゃにされた魔族の楽園の再興を目指して400年魔王を待ち続け、その待っていた主人は別の人物にすり替わっていて、結局その魔王ですら勇者にはかなわない運命にある。


俺のかわいい配下(子羊)達。



「なぁ、俺って何のために復活したんだと思う?」


俺ははぐらかされるの覚悟でみんなに問いかけた。


「陛下は魔族の楽園再興のために、魔族のために、その身を粉にして戦ってこられました。これからもそうあるべきと、そうわたくしめは考えます」


アッシュが子供に諭し聞かせるようにゆっくりと俺の問いに答えた。

他の3人もその通りと言わんばかりに俺を見て頷く。


「そっか。みんなは何のためにここにいるんだ?」


「「すべては魔王様の御心のままに」」


配下たちが一様にテンプレートな回答を俺によこす。



こいつらは俺のために生き、俺は魔族の楽園のために生きる。


そうであるべきなのかな。


俺は魔族の楽園を復興して、そして散っていく。


少なくともここで俺が何もしない引きこもりニートになり果てるよりは、俺の命にも意味が宿るかな。


俺は涙でぐっしょり濡れた服で顔をぬぐった。

いつの間にか涙は止まっていた。


「アッシュ、コロン、フラミー、メイ、ありがとう。もう大丈夫だ。今日はレッサーゴブリンの集落へ向かう」



俺にはもう勇者にあらがうだけの精神的余裕はなかった。




流されて、流されて、流される。


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