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1 魔王への転生

初投稿です。

一話1万字目安で二日に一回以上は更新予定です。

良かったら読んでいってください。

「なんのために生きるのか」



そんなありふれた問いを誰しもが一度は考えたことがあるだろうと思う。


ある人は愛する人のために生きると言い、ある人は生きいてよかったと思える一瞬の幸せのために生きると言った。


人それぞれに答えはあるだろう。


でもこの問いに共通した正しい答えなんてものはない。


皆が皆、長いようで短い人生の中で、自分なりの答えを出し、それに納得するのだ。



俺の人生は本当に退屈なものだった。


たまにほんのちょっと少しだけ自意識過剰気味の人が、自伝なんてものを書いているが俺がそんなものを書いたら多分一冊も売れない。

自分ですら読みたくない物語を誰が読むっていうんだ。


普通に生まれ、普通に学校に入り、普通に勉強し、普通に就職した。


そこには俺の意志はなかった。

その場その場に流されただけ。

みんなが勉強していたから勉強したし、みんなが就職したから就職した。

そして、みんなが生きているから、生きた。


生きることが決して苦痛だったわけじゃぁない。

よくあるいじめとかだって受けたことはないし、そこそこ協調性もあったほうだとおもう。

週末のアニメは楽しみだったし、RPG系のゲームは趣味だったし、ラノベとかも結構好んで読んだ。

それらは確かに楽しかった。

でも、そのために生きてるのか?と言われるとちょっと違う気がした


そんなこんなで既定路線の中、俺はついに思ってしまった。


「なんのために生きているんだ」と。


考えるだけ人生損。

そんなこと誰かに言われたような気がする。

確かに考えなければ幸せに逝けたかもしれない。

知らぬが仏さまってやつだ。


でも考えてしまったのだ。

深い深い森の中へと迷い込んでしまったのだ。

そこから抜け出す気力も体力もそのときすでに俺にはなかった。


せめて死ぬ前にその問いに対する自分なりの答えを出せていたらなぁと今では思う。


俺の最後はなんの変哲もない病室のベッドの上だった。

白いベッドにうっすらと黄色く変色した天井。

小さいテレビと音質の悪いイヤホン。

そこそこぬるい食事を運んでくるそこそこの顔した看護師たち。


流されるままそこにいた。



流されて、流されて、流される。



「はぁ……」


運命に流されるまま、なんのために生きてきたんだと最後まで考えながら、

俺はその短い人生に幕を下ろした。







はずだった。




――――――




目覚めると、なぜか目が開かなかった。


だんだんと意識がはっきりしてくるとその原因が分かった。


柔らかななにかが瞼の開閉を抑えてつけているようだ。

その柔らかななにかは俺の顔をもそもそと、ぐりぐりと動き回る。


俺は無意識のうちに顔の上にあるものをどけようと手で払おうとした。


そして手に触れたもの……このパターンはまさか……胸……?


俺の淡い期待は一瞬で裏切られた。


これは、足?


「おお、お目覚めになられたか」


「ひっ……ご、ごめんなさい……あの、私……」


洋画の吹き替えさながらの渋い声が聞こえたかと思うとすぐに、俺の手と顔から生あたたかい肌の感触がなくなり、若い女の子の声が聞こえた。


「400年間お待ちし続けておりました。陛下」


少女の声を遮るようにまた、渋い声が言葉をつむぐ。


400年、陛下、うん。

意味が分からないぞ。

とりあえず俺は寝起きで思考もままならないまま瞼を開けた。


俺がよく読んでいた物語とかではよく、驚くべきことが起こると

これは……夢か……?

なんて言ってヒロインにほっぺをつねられる

なんてシーンがあるが、実際は夢と現実の区別は絶対につく。


肌に感じる空気の温度、鼓膜をゆっくりと揺らす自分の鼓動、ほのかに香る獣のにおい。


現実では目の前に認識できるすべてが子細に捉えられる。

夢では五感すべてがあいまいに捉えられる。区別がつかないはずがない。


そして目下、極めつけはそう。

俺の解き放たれし両目に映るこの光景である。

ベッドで寝ている俺の目の前に、顔が虎の大柄な男が跪いて頭を垂れているのだ。


「これは……夢か……?」


思わず禁句を言ってしまった。

ドンマイ、今の俺の力説。


「我らはまだ陛下の魅せられた夢の中におります。400年の月日を経てもなお、陛下がその夢を現実にするであろうことを我々、配下一同確信しております」


目の前の虎男から余韻を残す声が部屋に響いた。

どうやらさっきの声の主はこの虎男だったらしい。


さっき夢か、なんて言っちゃったが、実際夢には到底思えないほど意識がはっきりしている。

大柄な人間の顔を虎にしたかのような風貌。

全身には鈍い銀色の装備、腰には帯剣しており、武人だということが一目でわかった。


しかも、俺の視界には右上にスキルという小さい表示があった。

顔を動かしてもそのスキルって文字は視界からなくなることはない。

たまに視界に黒い点が動き回ることってないだろうか。あんな感じだ。



これはもしや異世界転生ってやつでは。



いままで読んできたラノベの数々が俺の脳裏にすかさず浮かんだ。

どの本をとってみても、異世界に勇者として転生した主人公が世界を脅かす魔王を討伐するために女の子とイチャイチャしながらイチャイチャしながらイチャイチャするという。

許すまじ、勇者。


ではなく。


魔王を討伐するために呼び出された勇者が現代知識をチート並みに使用して世界を救うっていう話だ。

端的に言えばよくあるRPGの世界に迷い込んだらどうする?

っていうお話。

その爽快感が俺も好きで結構いろんな作品を買って読み込んだっけ。


でも今回の俺とは少し状況が違う。

その話の流れだと、周りにいる人の反応は一様にして「おお!救世主よ!」とか「召喚成功じゃ!」とか「チェーン!奈落の落とし穴発動!」とかいうものである。

最後のは違うか。


しかし、今回は俺への呼称が“陛下”だ。


しかも400年間待ってたとか言われる始末。


話の流れからすると400年眠っていた国王にでも転生したか。


どんな国王だよ。

お寝坊さんにもほどがあるだろ。


「陛下、お目覚めすぐのことで申し訳ございませんがお目通りさせたい者が二名おります」


虎男のすぐ後ろに控えている執事風の黒いスーツの細身のおじいちゃんが目をつぶったまま頭を軽く下げながら俺に向かって言ってきた。

と同時にそのすぐそばで跪いていた二人が少し前に歩いてまた跪いた。


俺がなんにもしゃべらないことをいいことにどんどん話は進んでいく。


あまりのことに混乱してよく回りが見えていなかったが、どうやらこの部屋には俺の他に7人の人間が……7人のなにかがいるらしい。

さっきの顔が虎の男に加えて、唯一この部屋で立って壁に張り付いて控えている執事風の白髪頭のおじいちゃん。

このおじいちゃん、さっきから目をずっとつぶっている。


執事は目を開けてはならないとかそういう文化が根付いているのだろうか。

どんな文化だよ。


そしてさっき歩いてきた二人、堂々として歩いてきた男は浅黒い肌に耳が尖って少し大きい。

俺の記憶からいくと、インプってやつだな。

一本の長い剣を帯剣しており、いかにも剣使えますよ的な気概に満ちた青年である。


そして、もう一人はなんとネコミミ美少女である!

異世界お決まりテンプレートキタコレ。


ぎこちない歩きでよっぽど緊張しているのだろうと傍からみても一目瞭然。

ぱっと見かわいらしいのだが、肩くらいまであるふわふわした茶髪に茶色いネコミミがいまいち映えていないのが玉に瑕だ。


ミニスカートにブーツ、上はなんかローブの短いバージョンみたいなのを羽織っている。

へそ出しの要素があればいかにも盗賊少女!って感じの格好だ。

非常に惜しい。


残りの三人は虎男の後ろで全員跪いている。

一人は銀髪のツインテールでゴスロリの服を着ている小柄な少女。

もう一人は黒髪ポニーテールの女の子って感じかな。

跪いているので顔は見えないが、とりあえず人間っぽくて安心、安心。

もう一人、虎男の二倍くらいある巨体が跪いているのは見なかったことにしよう。


とりあえず王様っぽくふるまっとけばいっか。


「面を上げよ」


おお、さっきは気が付かなかったが、自分の声が転生前とは違う。

少しかっこよくなってる。

でも王様って割には若い声な気がする。

なんていうかな、もうすこし渋いほうがよかった。

ま、いっか。


「「はっ」」


先ほど前に進み出たネコミミとインプ剣士の二人は顔を上げて、俺のとても威厳のある命に答えた。

きちんとロールプレイングできている。

俺、天才かよ。


「オレ……私はヘクター地方の出身のインプ族の末裔。ズオウという。空席だった七魔将序列2位の位をマグナス殿から推薦されている。魔法剣士だ……です。魔王アスタロス様にお目通りできる機会を心待ちにしておりました」


ん?魔王アスタロス……?

ああなるほどね。

王様に転生したってとこまでは正解だったけど、人じゃない王様に転生しちゃったってことね。


再度自分の手や足を見える範囲で確認した。

うむ。手とか足はとりあえず人間っぽい。


俺は黒いマントに赤い服を着ていた。

いかにも魔王って感じ。

ちょっと恥ずかしいからあとで着替えたい。


あ、そういえば顔とかは……?


怖くなってさりげなくひげを撫でるかの如く顎を触ってみるけど大丈夫だ。顔も人っぽい。

まあ髭は生えてなかったんだけど。


魔王っていっても外見が人間ならばオールオッケーだ。

これで醜い豚の王様とかだったらもうどうしていいかわからないよ。

笑えばいいのかい。


それにしてもやっぱりインプだったのね。

インプの魔法剣士か。なんかいいね。

俺の故郷のインプ像ってのはやっぱ小柄で姑息な小悪魔って感じだったから、こんな立派な等身大で帯剣している青年インプはなんか新鮮だ。


ゆっくりと視線をインプのズオウからネコミミ少女に移すと、少女は口を開いた。


「わ、私は、あのぅ……フラミーって言います。魔猫の血が流れています。回復魔法が専門で、その……足の、裏で施術を行います。ですから先ほどの無礼を、お、お許し下さい……一応、七魔将列強6位の空席にみなさんから推薦されていましゅ……はぅ……」


少女は自己紹介が終わるや否や赤面して跪いたままうつむいてしまった。

ネコミミ少女はフラミーっていう名前らしい。

最後の最後で噛んじゃうところとか全部ひっくるめて愛くるしいペットみたいな子だ。


なるほど俺が最初に受けていた足裏マッサージ(顔面)はこの子によるものだったらしい。

足の裏で治療とは、ドMの紳士一同にはご褒美以外のなんでもないだろう。

でも性格的に内気な子に踏まれても彼らは果たして満足するのだろうか。


俺は断然内気な子に慣れないSをやらせるなんて大好物だけどね!

配下にそんな危険物がいるとか……

天国かよ。


……ごほん。


今のは嘘だ。忘れよう。

列強6位だったっけ。よくわからないけど、あとで1位と交換してやろう。


それはともかくこの場をどうやって切り抜けるかだな。

どうやら俺が目覚める前にも魔王アスタロスって人物はこの体を使って機能していたらしい。


自分は転生者だと正直に言うか。

記憶がなくなったと嘘をつくか。

はたまた、適当にはぐらかしてどんどん情報を引き出して普通にふるまうか。


転生者だって正直に言ってしまうのは多分今はまずい。

400年主人の目覚めを待ち続けていたら中身が変わってましたってか。

シャレにならないな。


この配下たちが反旗をひるがえす可能性だってある。

本気でやられたら、小学生の時以来ケンカしたことない俺なんて多分一瞬で殺される。


三番目の案、適当にはぐらかすはちょっと無理かな。

もう次の俺の発言でぼろが出そうなくらい情報がない。


ってことは2番目の記憶をなくしたパターンが一番よさそうだ。


「お前らには悪いが、少々記憶が混乱していて、一人一人の名前すら思い出せない。ここまで何があったかも説明してくれると助かるんだが」


俺がそう発言すると場は一斉にピリッとした雰囲気に静まり返る。

いや、元から静かではあったけど、なんていうか雰囲気が変わった。


やばいか?選択肢をミスったか?


「我は、魔王アスタロス様配下、七魔将が列強1位。マグナスと申します」


少しの静寂のあと、虎男がそれを俺の期待にこたえるかのように破り、顔を上げて説明し始めた。


虎の顔の大柄な男、魔王配下七魔将の列強1位マグナス。

七つの魔眼を持っている剣士だという。

なにそれカッコいい。

彼には鋭い眼が二つしかついていないように見えるが、多分2つで7個分役割を果たすのだろう。

こまけぇこたぁいいんだよ。


彼は自分の紹介をパパっとすませてすぐに歴史の話を始めてしまった。


えー歴史とか生きていくうえで必要ないじゃん!


……などとはいえるわけもなく、俺は黙ってマグナスの話を聞いていた。


なんでもマグナスがいうには、


俺、というよりも魔王アスタロスは400年ほど前、この世で差別されるという人間の純血ではない者、いわゆる魔族――世で言う亜人の類もこれに含まれる――を集めて、今俺たちがいる領地に魔族の楽園を作る野望を抱き、それをついに実現させたのだという。


しかし、突如、魔族の楽園領のはるか上空に巨大な黒い宝珠が現れる。

その宝珠からあふれ出る瘴気の影響でたくさんの理性のない化け物、いわゆる魔物が世に跋扈するようになってしまう。

魔王はその黒い宝珠を除こうとしたが、当時絶大な力を持った魔王の力でもってしても破壊することは不可能だったという。


少しするとこれを魔王のせいだとして大陸全土で魔王討伐軍が発足する。

しかし、魔王アスタロスの力は強大で、とても人間族では太刀打ちができなかった。

そこで最終手段として異世界から勇者を召喚することに成功した国王は、勇者とともに魔王を封印し、宝珠は消え去り世に再び安寧が取り戻せた。


というお話だ。


マグナスいわく、宝珠は魔王ではない別のだれかが発生させていたのだという。


さしずめ、魔族を迫害したかったか魔王に恨みがあった誰かが罪を魔王になすりつけ、それを滅ぼそうとしたってとこだろう。

この裏設定さえなければまんまドラポン任務の設定そのものだな。

ドラポン任務ってのは俺の前世で一世を風靡した言わずと知れたRPGゲームの超大作である。


魔王かわいそすぎだなこれだけ聞くと。

迫害されて新天地を開拓するが、それすらも滅ぼされてしまうのか。


勝てば官軍。勝者が歴史を作る。

なんて言葉があるが、本当にその言葉の通りだな。


一部の魔族以外には、魔物を呼び出した邪悪な魔族を勇者様が打倒してくださった!


とまあこんなかんじに見えているだろう。

恐るべきは人間か。


ってか400年前の勇者が転生者だったことに驚きだ。

俺がもしこの場で転生者です~なんて言おうものなら即座に勇者だと疑われるだろうな。

選択肢は間違えてなかった。


「話はこれでは終わりません。本日より五日ほど前、黒い宝珠がまた我らが領土上空に現れました」


ん……?


俺の復活(?)とともにまた魔物量産機が発動したってことか?


あれ、これもしかして……


「ってことは、近いうちに勇者が俺を封印しにやってくるってことか?」


「それは否定できません。我ら諜報や情報収集に関しては疎い者ばかり故、今王都がどういう状況かなどというものは想像がつきませぬ。我らの不徳の至りであります」


オウマイジーザス。


俺の勘からすると確実に400年前の物語をなぞることになる。

こんな設定のRPGは世にありふれているからな。


このままだと俺は勇者に封印されてしまうってわけだ。

勇者が魔王討伐に旅に出て、最終決戦激闘の末、魔王は打倒される。

っていうおなじみのパターン。

オレヤバイジャン。


勇者がもし転生者だっていうなら俺が勇者の体に宿るべき魂で、魔王と入れ替わった……とかもあり得るんだろうか。

でもそしたら魔王はたぶん勇者の責務なんてすっ飛ばしてここに来るだろう。

そしたら世は安泰だ。

だが、常に最悪なケースを考えて動かねばならない。


さしあたってすべきはまず、勇者の存在の確認とその排除、さらには宝珠の出どころ調査だろう。

後者は当面放置してもいいとして、勇者の排除は早ければ早いほうがいい。


俺の現代知識をもってすれば、勇者といえども最初はレベル1なのだ。


俺は同郷のよしみなど微塵も感じんぞ。

レベル一桁の勇者の前にスライムばりの出現率でラスボス自ら出向いて瞬殺してやるのだ。

最低だな。


そしてそれには戦闘力がいる。


さっきからずっと気になっていた

視界の右上に表示されているスキルってのが気になるな。


多分だけど、これでスキルを発動して敵をぶっとばすんだ。

オラ、ワクワクしてきた。


「そうか。ところでマグナス、視界の右上にあるスキルってのはなんだ?」


すると途端に虎の顔がしかめ面になる。


「はて、スキルとは聞いたこともないですが」


ん?

マグナスの鋭い瞳に金髪好青年の困った顔が映し出される。

これが俺か、金髪でDQN臭がすごいけどまあカッコいい部類に入るだろう。

ひとまず安心だ。

とまあそんなことはどうでもよくて。


じゃあこれはなんなんだ?

先ほどから視界の中からついて離れないスキルという文字。

指で押そうともしてみるが、その伸ばした指の上にプロジェクターで投影したかのようにスキルという文字が浮かぶだけだ。

なら発音がカギか?


「スキル」


俺が声を発すると同時に大量の文字が視界を埋め尽くした。


「うっ」


目をとっさに閉じてしまった。

超至近距離で新聞を読んでるようなそれでいて文字以外はすべて透けていて、とてつもなく不思議な感覚だ。


これは慣れないと厳しそう。


しかし、発音がやはりカギか。

戦場でスキルと叫ぶ俺。

絵になりそうだ。


「大丈夫ですか、陛下」


慌てたようなマグナスの声がするが俺はそれを手で制し、ゆっくりと目を開けた。

相も変わらず視界は文字にジャックされてしまっている。


うっ……文字に酔ってしまいそうだ。


しかし、なれなければ始まらない。

頑張ってよくよく文字を見てみると、どうやらこれはやはり使える魔法の一覧のようだ。


睡魔への誘い(スリープ)」だとか「大地を潤す水(ウォーターボール)」なんて生ぬるそうな魔法から、

死の宣告(デス)」なんていう物騒な技も多くあるから気軽には使えないな。

この「破壊光線(デスビーム)」ってのは人差し指から光線が出たりするんだろうか。

私の戦闘力は53万ですか。


よし、試しに一つ使ってみよう。

ふと目に留まった「飲み干す重力(グラヴィティボール)

よし、これでいこう。

なんか名前がかっこいいし。

多分吸引力の変わらないボールを出すんだろうけど、現代知識からするとこのほにゃららボール系の魔法はたいてい雑魚だ。

牽制とかによく使われる……はず。

まあもし危険でもこの配下たちがなんとかしてくれるだろう。


飲み干す重力(グラヴィティボール)


俺がその言葉を放つとすぐに目の前に黒い小さな球体が現れ大きくなり始めた。

かと思いきやそれは一瞬でそれは掻き切れ、インプの魔法剣士ズオウの剣が俺に対して向けられていた。

よく見たら配下全員が立ち上がってこちらを睨んでいる。


いや、すべての光景が俺の目にはしっかりとさながらスローモーションで撮影したかのように子細に映っていた。


見れてはいたが、その速さに驚きのあまり思考が追いつかなかった。


俺がボールを出し始めた途端に配下全員が一斉に立ち上がり、インプの魔法剣士が剣を抜き、ボールをたたき切ったのだ。


そして七人全員が俺を警戒するような目で見つめてくる。


しかし、この配下たちが血相を変えるほどそんなに危険な技だったか。


えへへ、ごめんごめん。てへぺろ。


……とか言ってられる雰囲気じゃない。

普通になんか敵対してる人に向ける視線を感じるんだが。


これは、非常にまずいんじゃなかろうか。


謝罪しようにも、声がうまく出ない。

手も震えていた。


今の一瞬の出来事を見た後だからこそはっきりと言える。


こいつら全員化け物だ。

あの一瞬で皆が皆一様に警戒の反応を素早くしてみせた。


一歩間違えれば、殺される。


「魔法陣も、詠唱もなしで重力魔法を……まさか……勇者?そんな……」


銀髪でツインテールのゴスロリ少女が今日初めてしゃべったのを耳にした。

その困惑と警戒に満ちた二つの赤い瞳には恐怖に怯える金髪青年が映る。


「貴様、何者だ」


ズオウが俺に剣を向けながら鋭い口調で俺の素性を問う。


終わった……


どうやら銀髪ツインテの発言からすると魔法の発動には詠唱、魔法陣が最低でも1つは必要らしい。

転生者はこのスキルの欄から口にするだけで発動できると。

そして、この世界で最も有名な転生者。

それは、この空間でもっとも憎むべき相手、勇者に他ならない。


軽い気持ちで魔法を使ってしまったが最後。


味方だった配下がすべて敵になってしまった。


しかし、落ち着け。俺は勇者でもなんでもない。

自覚がないだけかもしれないが、頼まれても魔王封印なんてことはしない。

俺関係ないし。


とりあえずどうにかして説得するようにするしかない。


最悪配下に去られてもいい。


とにかく死なないように。


慎重に言葉を選ぼう。


すうっと息を吸うと彼らに顔を向けてゆっくりと説得を始める。


「俺はどうやら転生者らしい。だが、勇者ではないし、みんなと敵対する気もないんだ。逆に協力したいとも思ってる。でも、魔王アスタロスではない。すまない」


彼らが警戒の目を用心の目に変え、困惑の表情を動揺の表情に変えたのが分かった。


さてどうなる。


「それでは、アスタロス様の御魂はどこに……私の400年は一体……」


銀髪ツインテゴスロリの横にいた黒髪ポニテの女が呆然と天井を見上げて言ったその言葉と同時に世界は真っ白に塗りつぶされた。




――――




ああ、また俺は死んだか。


さしずめ、主を失って半狂乱になった誰かが俺の存在を滅却したんだろう。


なんのために転生したんだか。


俺をバカにしたかったのか?


ほら、今だって俺の顔を足蹴にするネコミミ少女が――


あれ?


天国にいけたんだ!やったぁ!


「おお、お目覚めになられたか」


「ひっ……ご、ごめんなさい……あの、私……」


俺が起きたと知るや否や、ミラは足をすぐひっこめるとペコペコと俺に謝罪してきた。

決して俺をバカにしていた訳じゃなくて治療の一環だったらしい。

あとでケガをしに外で転げまわってこよう……


じゃなくて。


非常にデジャヴ感がすごいんですけど。


「400年間お待ちし続けておりました。陛下」


つまりあれだな。


このゲームにはロード機能があったらしい。



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