死にゲーにモブ転生したので、勇者を助けます
──なにが、どうしてこうなったんだ。
目の前の光景が信じられなかった。
村から幾つもの火の手が上がる。轟々と炎が燃え盛り、劈くような悲鳴がそこかしこから聞こえてくる。そうして命からがら逃げてきた村人に追い打ちをかける無慈悲な雷光が、命を無慈悲に刈り取っていく。地獄だ。まごう事なき地獄である。
その日いつも通りに畑を耕していた俺は突然の悲劇を受け入れることが出来なかった。鍬を抱えたままただ目をかっぴらき、呆然と立ち尽くしていた。
俺は隣の家に住むおばさんが、降り注ぐ雷を受け黒焦げになるのを見て、そしてその雷を放った存在の方へとゆっくりと視線を向けた。
空に浮かび、何十もの魔法陣を同時展開させている、その人物。
見覚えがあった。
いや、見覚えがあるなんてものじゃない。
彼は、数年前にこの村を旅立った勇者、その人なのだから──
その瞬間、俺は前世の記憶を思い出した。
……あれ? これ、あの死にゲーのバットエンディングじゃね?
そして俺は死んだ。
***
前世の記憶を思い出した瞬間に、呆気なく死んだ間抜けは俺です。
今は真っ白い部屋の中にぽつんと座っている。多分あの世だと思う。
目の前には大量のゲーム画面みたいな、フォログラムが浮かんでいる。なんだこれ。
軽く触るとタッチパネル式らしく、画面を動かせた。画面に写っているのは映画のDVDを借りるとよくある、内容を何分割かされ、途中から見ることが出来るあの画面によく似ていた。
一歳から十七歳まで一枚ずつ画面が浮かんでいる。
ふわふわ浮かぶそれらを眺めながら、俺は人生を振り返っていた。
俺は村の魔法道具屋の長男として生まれた。とはいえ、村全体が貧乏だったので、収入は雀の涙ほどしかなかったから、結局畑を耕していることが多かった。
そして、勇者……最期に村を滅ぼしたアイツは俺の、義理の弟だった。小さい頃は一緒に薬草取りに行ったり、同じ布団で寝たりした。
元々捨て子だったアイツを親が引き取ったのだと大きくなってからこっそり聞いた。ショックというよりは、通りで全く顔付きが似てないわけだと納得した。
そんなアイツは十三歳の時に勇者に選ばれた。
その時は納得すると同時に非常に心配したものだ。
剣技の腕前は村の大人の誰もが敵わないほどだったし、魔法の才能だって義兄の俺なんかが足元にも及ばないほどあった。
だが、十三歳だ。
剣術や魔法の腕前は確かに凄いが、それはこの村の中の話だ。王都にはもっと凄い奴らがごろごろいる。
それに、アイツは魔法道具屋の息子なのに未だに細かい作業は不器用だし、薬草と毒草の見分けも完璧じゃない。
何より、アイツは……死亡フラグ建築機だったのだ。
茸を取ってきたと思えば速やかに永遠の眠りにつける猛毒だったり、好奇心に動かされ気がつけば一週間迷子になるのは当たり前。
一度森に入れば、ヒュドラに追いかけ回され、世界に数体しかいないドラゴンに出くわし、命からがら逃げてきたりする。(流石に勇者になる逸材とはいえ十歳そこそこで狩れるほど、ドラゴンは甘くない。指先で殺されそうだったと後に言っていた)
死亡フラグ建築機は女性関係でも効果を発揮する。
幼い頃から女性関係も割と爛れており(それは勝手に周りが爛れているだけだが)所謂ヤンデレ、と呼ばれる人達に好かれやすいのだ。
そんなこともあって激しい不安に駆られたが、結局アイツは魔王を倒す旅に出た。
死亡フラグ建築機とはいえ、今まで何だかんだで生き延びてきたのだ。そこに対する信頼もあった。
ここから先は前世の知識になるが、恐らく勇者は死んだのだろう。
あのバットエンディング、出身の村の破壊は勇者が死ぬ度に飽きるほど見てきた。
魔王はネクロマンサー、死体を操るラスボスなのだ。
魔王に殺された勇者は自身の手で育ってきた村を破壊するという救いようもないバットエンディングを起こすことになる。
主人公、勇者が死ぬと自動的に仲間をプレイヤーは操ることになり、魔王の手下と化した勇者と対峙する。
勇者は軒並みステータスが数倍以上強化されており、魔法使いなどの遠距離タイプだと一撃死確実。近接タイプでも二度は持たない。
挙句の果てに元勇者に攻撃するのを戸惑うのか、何度も『震えて動けない』『攻撃を失敗した』と表示されるのだ。
その戦いに更に負けるとあの、村を破壊するイベントにうつる。このイベントを見たネットの住民達は『勇者がラスボス』と呼んだ。わかる。俺もそう思った。
明らかに魔王より桁違いに強いのだ。
当たり前だが、主人公は基本的にパーティーメンバーから外すことは出来ない。そして主人公である勇者の固有スキル『成長速度アップ』により、仲間よりもレベルが上がりやすい。そこから更に強化されたラスボス勇者。
控えめに言って無理ゲーだ。またの名をクソゲーとも言う。
そうして世界の敵になったラスボス勇者に今世の俺は殺された、というわけだ。
「……まじかよ」
弟も俺も死ぬわ、世界滅びるわで、なんだこの今世。良いとこなしかよ。
タッチパネル式の画面をくるくるしながら、重いため息を吐く。
浮かぶ画面には俺の人生の一瞬をカットした写真が載っている。そこには死んだその日の写真も写っていた。畑で新田をせっせと耕している姿だ。その奥には芋畑が広がっている。
「芋の収穫の方はあともうちょっとだったのになあ」
冗談めかして俺は、その写真を指で押してみた。すると画面が光り始めた。
『コンテニュー を 選択しました』
そう表示され、俺の意識は途絶えた。
二週目 開始
……という感じの序章の話。
今書いてる長編が落ち着いたら連載したい。