真夏の事情4
千歳さんとの話がまとまって数分した頃、やっと私は千依達の存在を思い出す。
異常に長い時間この部屋に帰ってこない3人。
何かがおかしいことにやっと気付いた。
「あー、うん、協力してもらったから。今頃リビングで何か食べてるんじゃない?」
「はい?ちょ、ちょっと待った千歳さん。協力って何」
「いい加減焦れてきたし、最近真夏ちゃん男どもの目にとまるようになって危機感持ってたしでちーに相談してたんだよね」
「そ、そうなの!?全っ然聞いてないんですけど!」
「…あのね、本人にその相談内容バラしちゃう馬鹿がどこにいるわけ」
そんな会話をしながら下に降りると、確かにリビングに3人の姿。
何故か大きなホットプレートを使ってたこ焼きパーティを開催していた。
「あ、ち、千歳くん、真夏ちゃん!」
「お、その様子だと成功しましたチトセさん?」
「本当お疲れ様です千歳さん」
ようじでたこ焼きをつつきながら3者3様の返事がくる。
相談を受けていたという千依はともかく、何もかも察している様子の萌と宮下に疑問を抱く私。
「萌、宮下。まさかアンタ達も知って」
「…あのね、真夏。分かってなかったのアンタだけ」
「な、ち、千依も自力で気付いたのまさか!」
「え、そ、そうなの!私、聡くなったの!」
「ちー、嘘はいけないよ。俺に言われて初めて気付いたくせに」
「……千歳くん、たまには私も自慢したかった」
「まあ、良かったじゃん山岸。正直お前にはチトセさんくらいしっかりした人じゃないと危なっかしいからな」
「どういう意味だ、宮下」
そんな感じであっさり受け入れられる私達。
「というかさ、もういい加減俺に敬語とかいらないと思うんだけど」
その後一緒に混ざってたこ焼きパーティをしていると、千歳さんがそんなことを言った。
その言葉に千依以外が首を傾げる。
「俺一応ちーと同い年の双子なのに、ちーにはタメ口で俺には敬語ってなんかすごい違和感」
「あー…、そういうもんですか?」
「でも正直ここまで何年も敬語だったからつい癖で」
「うん、まあそれは分かるんだけどさ。この際良い機会だから敬語なくそうよ。俺もこの先ここに加わることになりそうだしさ」
そうすれば、宮下も萌も納得したように笑って了承していた。
ああ、関係が変わっていくってこういうことなんだなと妙に感動してしまう私。
「あ…ということは、あれか?ゆくゆくここにぼたんのタツとかも加わる感じなのか?」
「げ…本気で嫌だそれ」
「…噂通り本当チトセさんってシスコンなんだな」
「今さら何言ってんの、央。でもこのままだと普通に千歳さんの義弟コース確定だよねあのおっさん」
「え!そ、その、まだ先のことは」
「ハハ、まあそう簡単には許さないけどね。交際認めてやってるだけでも感謝してほしいくらいだよ」
「……チトセさん怖いって。しかし、あれだな、よく考えてみりゃこのままチトセさんと山岸が上手くいけばお前らも姉妹になるんだろ?すげえな、それ」
「ああ、確かに。…びっくりするほどしっくりくる姉妹ね」
「は?ちょ、そこの熟年夫婦なに言って…!」
「真夏ちゃんと姉妹…!ち、千歳くん…!」
「…ちー、頼むからその期待に満ちた目止めて」
「おい、チトセさんの顔真っ赤だぞ」
「爽やかイケメンも恋をすると動揺するのね」
「うるさい、そこの熟年夫婦」
それは私と千歳さんの関係が大きく変わった日のこと。
私達の関係性はこうして少しずつ変化していきながら、前に進んでいく。
いずれ、私は千歳さんのことを千歳と呼び捨てするようになって。
千歳もまた私のことを真夏と呼び捨てるようになって。
2人でいることも、何気ない触れあいも当たり前になっていくようになる。
…まあ、そこまで到達するにはかなり時間がかかったけど。
「ん、真夏?なに見てるの。ってああ、これ例のたこ焼きパーティ」
「うん、いやー…この時は大変だったねえ」
「…大変だったの俺なんだけど。というか現在進行形で大変なんだけど」
「は?私なんかしたっけ」
「ハハ、いい加減もう慣れたけど本当無自覚にも程があるよね真夏。この前声かけられてただろ、ナンパ野郎に」
「はあ?記憶ないよ。ああ、道聞かれたことならあるけど」
「その後ご飯とか誘われてただろ?ったく、あと少しで飛びだす所だったよ俺」
「だ、駄目だって!千歳有名人なんだよ?女の子とのデートとか見つかったら大騒ぎになるでしょうが!」
「…だから大変だって言ってるんだよ」
その当時のことを思い返して私は、懐かしい気持ちになったりもするのです。
人生何があるか分かったものじゃない。
一体全体どうしてこうなったと思うような出来事は、案外目の前でゴロゴロしていて。
それでも、今日も幸せな日々はこうして平和に続いていた。




