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ぼたん  作者: 雪見桜
番外編
81/88

真夏の事情2




「はい、もしもし?」


『もしもし、真夏ちゃん?駄目だよ、見知らぬ番号からの電話なんて気軽に取っちゃ』


「え、え…!?ちょ、ま、まさか千歳さんですか!」


『うん、そう。あのさ、真夏ちゃんの番号俺のスマホに登録しちゃったから事後報告しとこうと思って』


「え、いや、なぜ」


『ほら、ちーに何かあった時相談できる先とか必要かと思って』


「はあ、まあそれは確かに」


『ということだから、これからもよろしく』



そんな電話がかかって来たのは、大学1年の冬のことだった。

今思えば、別に私の番号なんて登録しなくても良かったんじゃないかと思う。

何しろ千依のことで千歳さんから相談されたことなんて皆無だったから。


けどさらりと言う千歳さんに流されるまま頷いて、そこから千歳さんと妙なやり取りが始まった。

いつの間にやらラインでフレンドになり、何かにつけて千歳さんからトークが来るようになったのだ。


そりゃ、私は元々チトセの大ファンだし嫌なことなんてない。

けど超多忙なはずの千歳さんがやたらと私に構ってくるのは何なのかと疑問に思ってしまうこともまた事実で。

だって同じ立ち位置にいるはずの萌とは連絡先の交換もしていないと聞いたから。


特に最近は本当に千歳さんからのトークが多い。

ほとんど毎日と言って良いほどの頻度で連絡がくるんだ。

そのほとんどが返事をしなくても良いような内容で送ってくるから、煩わしさもないんだけど。


でもそんな状態がこうも続けば、今起こってることは何事なのかと思っても仕方ないと思うのだ。




「…ちなみに、そのトークの内容は?」


「本当、普通の内容だよ。誕生日だとおめでとうって来たり、テレビの出演情報くれたり、あと大学の話とか聞いてきたり。あとただおはようとかお休みとかの時もあるかな」


「……カップルか」


「ん?」


「何でもない」




細かく説明すればするだけ、何故か萌のため息が重なる。

その理由が私には分からない。


もしかして萌には分かるのだろうか、なぜこんな事態に陥っているのか。

期待を込めて見つめたら、スッと視線をそらされた。




「…千依、千歳さんに伝えといて。真夏相手に策巡らせても無駄だって。壊滅的に鈍いから」


「う、うん」


「あと自覚も遅いから多少強引に攻めた方が上手く行くとも言っておいて。流石に不憫だわ」


「え、えーっと…はい」



なにやらすごい失礼な話をされている気がする。

「酷い!」と抗議してみれば逆に「酷いのはあんたでしょ」と怒られた。

少し理不尽さを感じる私。


萌はため息ひとつ落として私に言う。




「あのさ、真夏。正直あんた千歳さんのことどう思ってるの?」



そうしてされた直球の質問に私はピキッと固まった。


あれ、と自分でも思う。

少し前までなら遠慮なく「完璧なアーティスト!」と答えられていたはずなのに。

いや、今でも完璧なアーティストだと思っているんだけど、どうにも最近そう即答できない。




「ど、どうって、千依のお兄さんで、奏のチトセで」


「それはただの事実。感情を聞いてるんだけど」


「す、素晴らしいアーティストだと、思うな」



ちょっと腹黒だけど。

そして素直じゃなくて意地悪くて子供っぽいところもあるけれど。


千歳さんとの何度かのトークを交わすうちにそんなことをも知って来たからだろうか。

昔のように純粋にカッコ良くて良い歌を歌って完璧なアーティストとは即答できなくなってきた。


嫌いじゃない。

勿論嫌いなんかじゃないんだけど、妙に気恥かしさを覚えてしまうんだ。

純粋にチトセを素晴らしいアーティストだと胸を張ることに。




「…これは、千歳さんに頑張ってもらうしかないかな」


「は?何言って」


「……う、うん。私はすごく応援してるから、ハラハラドキドキ」


「え、千依?千依までどういう」


「まあ真夏最近本当綺麗になったもんね。焦る気持ちもよく分かるわ。本当無自覚って怖い」


「も、萌ちゃん言ってることが千歳くんとそのまんま一緒」




本当に2人が何を言ってるのか分からない。

まるで異次元の話をしているようだとも思う。


けど、その言葉の意味を私はその1カ月後に身を持って知ることになった。







「…で、何で俺まで呼出受けてんの。別に今日オフだから良いんだけどさ」


「央は私達のストッパー。正直最近焦れすぎてやきもきしてるから」


「は?」


「ご、ごめんね宮下くん。千歳くんのためにここまで呼んじゃって」


「はあ、仕方ないな。分かったよ、協力してやる。その代わり、歌の指導頼むぞ中島」


「任せて!」


「……なんかすごい大ごとになってるんだけど。君達そういうキャラだっけ」


「千歳くん?でも、力貸してって言ったの千歳くん」


「ちー?俺が協力申し出たのはちーであって、そこの2人にまで頼んでないんだけど?」


「…おお、チトセさん顔真っ赤」


「へえ、千歳さんも照れたりするのね」


「ちょっと、そこ2人うるさいよ」





ちなみに私が中島家にやってくる前、そんな会話がされてたことなんて知らない。

ただ純粋に今回は有名人になった宮下も混ざるから人の目立たない誰かの家に集まろうと言う話になって、千依の家集合になったと聞かされただけ。

仕組まれていただなんて勿論知らない。


千依がオフということは必然的に奏としての活動もないということで、千歳さんも家にいた。

その姿を認めた瞬間に、何故だかせわしない気分になる。

何だかむずがゆいような、ジッとしていられないような、そんな気持ち。




初めいつも通り話していたのは良かったけど、気付けばいつの間にやら私と千歳さん以外が部屋からいなくなっていた。


宮下が仕事先から連絡入ったからちょっと電話してくると部屋の外に出て、次に萌がトイレに行った。千依は何やら怪しい手つきで、お菓子の継ぎ足しと食器替えしてくるねと言って部屋を出る。


そうして、気付けば千依の部屋に千歳さんと2人きり。

というか、何で最初から千歳さんがいたのか、そこから疑問に思うべきだったのかもしれない。

もやもやした気持ちのまま気を張っていたからそこまで頭が回らなかった。



意識し始めるとどうにも緊張してしまう。

おかしい、今まではそんなことなかったはずなのに。

千歳さんを間近で見るのは久々で、その整った顔を見るとどうにも落ちつかない。

顔が熱くなってしまって、手汗とかかき始めて、心臓がバクバクする。

多少ぎこちなくなっている自覚はあったけどどうしようもない。


そんな私に千歳さんは軽くため息をついた。




「あのさ、真夏ちゃん。俺、いい加減そろそろ距離詰めたいと思ってるんだけどさ。それは、多少俺のこと意識してくれてる証と取っても良いわけ?」


「へ。な、なんの」


「…なるほど、萌ちゃんやちーの言うことが正しかったか。あまり強引に行くのは好きじゃないんだけど、仕方ないよね」


「はい?」


「ねえ、真夏ちゃん。俺と恋人になってくれないかな」


「…………は?」




そうして、状況は今回のお話の冒頭に戻る。

千歳さんにまさかの告白をされ、壁ドンをされるという理解不能の事態。


ジッと見つめられて、私の頭は飽和寸前だった。





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