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ぼたん  作者: 雪見桜
番外編
79/88

萌の事情4




「山崎さんって、何か変わってるよね」


「というかオタク?」


「美人なのに勿体ない」




そんな評価がされるようになったのは、中学生に上がった頃くらいのことだったか。

私はいわゆる普通の女子とはどこかズレた人間だった。


社交的な性格にはなれなくて、女子特有のグループなんてものも好きではなくて、1人でいることが多かったように思う。

宮下家は圧倒的に男が多くて、そんな彼等と接していた私には、女子同士の友情やグループ意識なんてものが少し煩わしかったのも否めない。



協調性というのが必要なのは分かるけど、どうにも皆が皆右向け右な感じの空気に馴染めなかった。

別にいじめなんて無かったし、私のことを変だと評する人達も別に蔑んできたわけではない。

けど、いまいちクラスに馴染んでいる感じも私にはなかった。



漫画の世界にあるような女子同士の友情に憧れがなかったかと言われるとそういうわけではない。

ああいう風に授業の合間に好きなことを話して、楽しく笑って、時にはけんかもしてというシチュエーションに人並みに憧れはあった。

けど、私の持つ趣味は一般的にはオタクと言われる部類のもので、そして私は決定的に女の子が興味をもつようなことに興味を見いだせなかった。

見た目が人より多少は良いらしく服装もそれなりに気を使ってはいたからそうは見えなかったようだけど。


普通の女子が楽しいと思える話題がどうにも楽しいと思えない。

むしろ私は男子が楽しげに話すゲームや漫画の話の方が好きだった。

けど、こんな微妙な年ごろの時期に男子に混ざって会話に入るなんて女子たちから白い目で見られるのが分かっていたから出来なかった。



そう、私はそんな面倒臭い性格だった。

女子達に話を合わせて楽しげに笑えるだけの協調性もなければ、自分の趣味を全開にできるほどの勇気もない。

必然的に、親友と呼べるだけの人との繋がりを築ける機会が訪れなかったのだ。




そんな私の前に表れたのは真夏という女の子。

高校2年のクラス替えで同じクラスになった真夏は、名字が私と近く席が前後だった。

明るい性格の真夏が私に声をかけてくれたのは本当にラッキーだったと思う。



「ね、ね、山崎さんって奏知ってる?」


「奏…ああ、確かあの男子高校生の」


「そう!それ!私めっちゃハマっててさあ」



何と言うか初めから真夏は全開だった。

自分の好きなことを好きだときっぱり大きな声で言える子。


一度好きになるととことん深くまで追及してしまう性格らしく、そして黙ってもいられない性格らしい。

周りがドン引きするくらいの勢いで真夏は熱く自分の趣味を語る。


そんな姿が、私には眩しく映った。

自分の好きなものや考え、価値観をはっきりと示せる真夏がすごいと思った。

私にはできなかったことだから。



「山岸さんは自己主張がはっきりしててすごいね」


「う、ごめん。よくうるさいって言われたりする」


「別に良いと思うけど。私、山岸さんみたいな人好きだよ」



そんな言葉がきっかけだったのか分からない。

分からないけど、私達は席替えまでの少ない時間で自分でも驚くほど仲良くなっていった。

そう、今まで宮下家の人以外とはやったこともない名前の呼び合いができるくらいに。


真夏の隣は息がしやすかった。

何しろ好きなものを好きだと言える、嫌なものは嫌と言える。

素の自分でいられる感じが好きで、真夏と一緒にいるといつも楽しいと思える。

央の仕事が多忙になってきて密かに感じていた寂しさも、真夏は埋めてくれた。


そうして心に余裕が出てきて周りにも目が向く様になって気付いたのが千依の存在だった。

学年で言うと本来は1年上のはずの女子生徒。

私以上に社交的とは言えない性格で、いつも1人でいた。

悪い人じゃないのは分かる、いつも返事も裏返りながらしてくれたから。

けど、うまく話しかけるきっかけがつかめなかったのも事実で。




「話しかけても怯えちゃうからなあ中島さん。私なんて声でかいし性格大雑把だからかえってストレスかけちゃいそう」


「…人と話してプレッシャーになってしまう人もいるからね。どうしたらいいかな」



そんな話を真夏としていたのを覚えている。

1人だけクラスの端でぽつんといる彼女のことを勝手ながら気にかけてもいた。

うちのクラスはお人よしが多く、誰もが気にかけつつも距離を上手く掴みかねていたあの頃。


ちょうどそのタイミングで、千依が見知らぬ男と歩いているところを発見する。



「ちょ、み、見た萌?今の中島さん、だよね?」


「…うん。一緒にいた男誰だろう」


「まさか、誘拐…とか?」


「まさか」


「いや、でもさ。中島さんフラーッて付いて行っちゃいそうじゃない?」


「………」



真夏の言葉を否定なんてできなかった。

よく教室で転んだり話すのに必死で荷物をぶちまけたりするところを見ていた私達は、彼女がわりと鈍くさいと呼ばれる方の人間であることは察していたから。


そうして追いかけて、それがきっかけで仲良くなった千依。



人と話すことが苦手でいつも声をかけられただけで震えるくらいなのに、それでも千依は必死に言葉を返す。何事にも一生懸命前を向いて頑張ろうとする彼女をすごいと思うようになるには時間がかからなかった。


千依は温かくて優しい。

いつだって私や真夏の普通とは少しズレた深い趣味の話をしたって、興味深そうに聞いてくれる。

人の価値観を否定することなく、尊重してくれる子。

だから私だって自分の好きなことは好き、駄目なものは駄目だと思うままに言えるようになった。

千依が必死に頑張っているのを見ているから、私も頑張ろうと思えることも増えていった。



真夏も千依も、私にとってはとても大事な恩人。

女の子同士の友情だなんて憧れのものを私に与えてくれた。







「…私も勉強しなきゃ」


「お?何だ、回想終わったか」



友人を思い返すたび、私にもやる気がみなぎってくる。

それを知っている央はあっさりと私を放した。




「それにしても、何でまた公務員志望?お前文章書く能力あるんだから文学部行ってそのままそういう方面目指せば良いのに」


「央が給料不安定な職種なのに、私までそっち方面行くわけいかないでしょ。路頭に迷いたくないし。良いの、私は仕事と趣味はきっちり分けたいタイプだから」


「…何気に酷いこと言うなお前」


「いま現実見ないでいつ見るのよ。央は好きなことやって、私はそれ見るのが好き。仕事失敗しても経済面ではちゃんと支えるから、あんたは夢を追いなさい」


「へいへい、すっかり逞しくなっちゃって。そろそろ兄貴分も終了かな。結構気に入ってたんだけど」


「……別に、央の妹でいたかったわけじゃない」


「おう、頼りにしてるわ。まあ俺もそう簡単にはヒモにならないけどな」




私の目標は、千依や央のような道とは少し違うかもしれない。

でも私は私なりに、将来の道を大事な人に使っていきたいと思った。


央が思う存分好きなことを追いかけられるように。

そしてそんな輝いている央を傍で見続けられるように。

そんなこと恥ずかしすぎて親友達には言えなかったけど。


央はやっぱりお兄ちゃんのような安心させる笑みで私を見つめる。




「なあ、萌。俺は、お前のそういうとこが好きだよ。不器用で愛情深いとこ」


「………なに、急に」


「たまにはな。お前、どこか自信不足なとこあるから」





皆未来に向かって頑張っている。

私も負けずに自分の足で歩いていきたい。


央の予想外の告白に赤くなりながら、私は参考書を開いた。








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