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ぼたん  作者: 雪見桜
本編
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40.喜びの報告


「ねえ、私のことも真夏で良いよ!真夏。言ってみ?」


「ま、なつ…さん」


「“さん”いらない!真夏!ほらっ」


「真夏……………ちゃん」


「……真夏、この子にはハードル高いわ。ちゃん付けで手打っときな?」


「くそう、あのおっさんには呼び捨てなのに、悔しい」




そんな何とも分からないような会話すら嬉しかった。

相変わらず反応するのは上手くできなかったけれど、2人共笑いながら許してくれる。

そう、タツやシュンさんみたく2人は私を受け入れてくれた。


同い年の同性でも、こういう人はいる。

私に呆れることなく、いらつくこともなく、付き合ってくれる人が。

またひとつ、大きなことを見つけた気持ちになる。


…大事にしたい。

私にこうして手を差し伸べてくれた人達を。


今度こそ、ちゃんと先に繋がる友情を育みたい。







「ちー、上機嫌だね。いいことあった?」



2人と別れて事務所に行くと、一仕事終えた後なのかヘロッとした状態の千歳くんに会う。

彼は相変わらず私の変化にすぐ気付いた。


えへへと笑いながら私も大きく頷く。




「…まさか“また”リュウ?」


「うん、タツもそう、かな?」


「……ふーん」



どうやら私以上にタツにライバル意識のあるらしい千歳くんが拗ねたように声をあげる。

その素直な音にひと笑いして、千歳くんの手をとった。

きょとんとして私を見上げる千歳くん。


この報告は、誰よりも一番に千歳くんにしたかった。

だって、今まで私の一番の理解者でいてくれた彼だから。



「あのね、友達、できた」


「え?」


「友達になろうってね、言ってくれた人達がいたの。友達、できたんだよ」



きっと満面の笑みなんだと思う。

だってすごく嬉しかったから。

そうすると千歳くんの顔もみるみるうちに輝いていった。




「良かった!本当に良かったね、ちー!」



こうして手放しで喜んでくれる兄。

自分のことのように嬉しそうな顔をする千歳くん。



「あのね、千歳くん。本当にありがとう」


「お礼を言われるようなことなんて俺なにもしてないけど?ちーが頑張ったからでしょ」


「違うよ!千歳くんがずっと大丈夫って背中押し続けてくれたから私はここにいられるの。千歳くんがいてくれたから。だからありがとう」


「…敵わないなあ、本当」


「うん?」


「何でもない!それより、どんな人なわけ?」




向かい合ってテーブルに座って千歳くんが興味津々そうに聞いてくる。

何だか私も誇らしくなって気持ち胸を張りながら言った。




「2人共クラスメイトでね、1人はね、スポーツが得意でサバサバしてカッコよくて可愛い人なの」


「へー、さっぱりしてるのは良いね」


「うん!それでね、もう1人は読書家で綺麗で落ちついていてお姉ちゃんみたいな優しい人」


「…えらく正反対な組み合わせだな」


「あ、それでね!真夏ちゃん…あ!スポーツ少女の子はね、千歳くんの大ファンなんだよ!」


「はあ?俺?まじで」


「うん!千歳くんの出てる雑誌やテレビ全部チェックしてた。すごく好きなんだって」


「…また厄介なところと仲良くなったね、ちー」




話せば話すだけ千歳くんが何故か頭を抱えている。

それが私には分からなくて、首を傾げる。

すると千歳くんは小さくため息をつきながら私に視線を合わせた。




「俺のファンってのは嬉しいけど、それつまり俺達のことその子にバレる可能性格段に増したってことだからね、ちー。バレても大丈夫な子なら良いけど、サバサバしてるってことはきっと嘘ついたり誤魔化したり、苦手だろ?」


「へ…?」


「話し聞く感覚だけでは何とも言えないけど、ちーがそこまで褒めるってことは悪い奴じゃないってのは分かる。けどちーは高校卒業まで周りには奏のこと内緒なんだろ?そいつらにバラさないなら隠し通せるる?バラすならそいつらちゃんと秘密隠せる?」


「か…」


「か?」


「考えてなかった…!どうしよう…!」



途端に真っ青になる私に、「やっぱりか」と千歳くんが再びため息をつく。

2人に隠し通せる自信も、上手く説明できる自信も皆無だった。


私は嘘が壊滅的に下手だ。目が泳ぐから。

そして人に何かを言葉で説明するのもあまり得意じゃない。

今までは必要最低限の会話しかなかったからただ黙っていればバレなかったけれど、これからはそうもいかない。


それはとても嬉しいことではあるけれど、同時にハードルがすごく高くなるということ。




「あー、ファンなあ…。嘘吐くのが下手な奴じゃ興奮してすぐ反応して一発で不審がられんぞ千依」


「あ、大塚さん。いつの間に」


「少し前にきたら何やらいつもと違う会話してるから聞き耳立ててた」


「いい年して盗み聞きとか趣味悪…」


「あー、本当。そのダチお前のその性格知ったらドン引きすんだろうな、千歳」



気付けば大塚さんがドア付近に体を預けこっちを見ていた。

そして私の傍まできて、ぐしゃぐしゃと頭を撫でてくる。



「ま、そっちはおいおい考えてくか。さすがのお前でも1日2日でバレるほど馬鹿でもないだろ」


「う…、が、頑張ります」


「千依。良かったな」



面倒そうな顔をして、それでも大塚さんは結局そう言って笑ってくれる。

私は本当に恵まれた環境にいるのだと実感する。




「さて、じゃあそのファンの友達も喜ぶような仕事しなきゃな、2人共」


「あー…ちーが大好きな子に幻滅されたら俺きっついな」


「…何だかんだ言ってそれが本音か、千歳」


「当たり前じゃんか。俺ちーと仲違いしたら寝込む自信あるんだけど」


「……お前ら本気で仲良くしろよ。兄妹喧嘩で仕事の質落ちるとか勘弁してくれ」




そんな会話と共にその日の仕事は始まった。








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