プロローグ
「たった1年の短い間でしたが、本っ当にありがとうございました!!」
それは、とあるアイドルグループのライブ映像。
たくさんの光を浴びて、たくさんの声援を受けて、彼は笑っていた。
悔し涙を目一杯に溜めて、それでも笑顔で歌う彼。
『フォレストのリュウ脱退』
そんなテロップと共に大々的に報じられた1人のアイドルは、この日を境にテレビから姿を消した。
まだ小学生だった私は、その笑顔とまっすぐな歌声に恋をしたんだ。
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音が大好きだった。
音楽教室で生まれ育ったからか、人見知りで内気な性格だったからか。
言葉を発するより音を紡ぐ時間の方が多いくらい私の人生は音楽一筋で。
だから自分はとんでもなく運が良くて果報者なんだと感じている。
「ちー、今度出す新曲のことなんだけどさ…」
優しい兄に支えられて、音楽の世界で生きているこの事実
私の我儘を押し通して好きに音楽をさせてくれる大事な仲間がいること。
いま、私は本当に幸せで。
「…ちー?聞いてる?」
「あ、ごめんね千歳くん。新曲だよね、どうしたの?」
今の私は夢の中にいるような毎日だ。
有り得ないほどの幸運の中で自分のやりたいことをやりたいだけやらせてもらっている。
だから、これ以上の願いなんて贅沢かもしれない。
でも、たったひとつ。
そう、たったひとつだけでも願いが叶うなら、お礼が言いたい。
この世界に強烈に惹き付けてくれた、あのアイドルに一言だけ。
素敵な音をありがとうって。
そんな思いを密かに胸にしまいながら、私は毎日を過ごしています。