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最凶チート殺しの英雄迷宮  作者: 神楽 佐官
外伝・邪神を倒したのにまったり学園生活(しかも兼経営者)
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052 クロエの学園

第二部は第一部の続きですが、第一部を読まずとも内容がわかるようになっています。

また、作風を変えて文体を一人称にしています。

作品世界をより理解したいという方は第一部から読むことをおすすめします。


シリアスな話の合間の掌編ですので、気軽な気持ちでお読みください。


「突然なんですけど、アルブレヒトさんにはあたしの学校の生徒さんになって欲しいんですよ」


 クロエ・ポンメルシーが真顔で俺に言った。

 突然の入学要請に俺はすっかり面食らってしまった。


「それは真面目な話?」

「真面目も真面目、大真面目ですよ」


 床に座布団を敷いてその上に正座しているクロエは、母親が淹れてくれたハーブティーを、ずずずい、と音を立てて飲んだ。


(そんなことのために俺を呼んだのか?)


 これでも俺はこっちの世界では大魔術師なのだ。

 昔はいじめられっ子だった。俺の学園生活は暗黒そのものだった。光さえも吸い込むブラックホールのようにおぞましいものだった。学園生活に楽しい思い出など一つもない。

 だから学園生活など二度と送りたくない。


 せっかく家に招待してくれたのは嬉しいが、この話は断ろうとして立ち上がろうとしたが、

(待てよ?)

 俺の心に一つの小さな疑問が浮かんだ。


 この世界に義務教育なんてあっただろうか?


 俺は二十一世紀の日本じゃ全然勉強ができなかったが、それでも中世ヨーロッパが義務教育がなかったことは知っている。俺たちがいるパルニスという国も義務教育はなかったはずだ。そもそも、パルニスに滞在してけっこうな年月になるが、学校なんか見たこともない。


「学校はどこにあるの?」

「ないですよ。えへへ」


 クロエはにこにこと笑って答えた。


「これから創るんですよ」


 一片の曇りもないにこやかな笑顔である。俺は眩暈を覚えた。


「建物は?」

「そんなものありません」

「先生は?」


 クロエは自分自身を指差した。


「学校というよりも、個人塾のようなものを創りたいのかい?」

「いいえ。何千人も何万人も通うようなでっかい学園を創りたいんです」


 クロエは両腕をいっぱいに広げた。

 俺は部屋を見回した。本棚には立派な本がいっぱいある。妖魔学者と名乗るだけあって読書家だ。俺も魔術師だから多少の学問はおさめているが、ここに置いてある本のレベルが高いことは一目瞭然である。クロエは頭がいいのはよくわかる。


「でも、どうして俺に生徒になれと?」


 するとクロエ・ポンメルシーはとても十五歳の少女とは思えないような営業用のスマイルで揉み手をして、


「そりゃあアルブレヒトさんが生徒になってくれたらうちの学校の評判もうなぎ上りですから。黒水晶の邪神を倒した英雄ですもの。そんな人がうちの学園に入学してくれたら、みんなも入学してくれるんじゃありませんか?」


 たしかに俺は黒水晶の邪神を倒してパルニスの国を救った。

 一言で邪神を倒したというが、それはそれは大変だったのだ。

 異世界にやってきたのはいいが、俺はこっちの世界でも裏切られて身体を失った。


 いまの俺の身体は本当の身体ではない。ヌジリという偉大な魔術師によって与えられた神の金属オリハルコンでできた身体なのだ。こんな身体だからこそ邪神を倒すことができたのかもしれないが。


「クロエ。君はパルニスのレイウォン王と友人だったよね? 王に援助してもらってはどうかな?」


 するとクロエは渋い顔をして、


「レイウォン王には断られましたよ。あたしが学園を創ろうとすると『それってすごいね! クロエちゃん頑張ってね!』。ぽんぽん、と肩を叩いてそれで終わり。資金援助を頼んでも『忙しいから』といわれてそれっきりですよ。たしかにレイウォン王だって使えるお金が無限にあるわけじゃないけど……」


 そっか。学校を経営するにはお金が必要だもんな。


「いまのところ自由に使えるお金は五千タルザンなのよ。もちろんこれだけじゃ全然足りないけど……」


 五千タルザンというと50万円。結構な額だと思うけど、さすがに学校経営となると難しいらしい。


「そもそもクロエは授業できるの?」

「そりゃもう。これでも妖魔学はもちろんのこと、数学や薬学、医学は教えられますよ」

「じゃあ、数学を教えてもらおうか」

「いいですよ」


 そして十分後。


「……もういいよ」


 俺は頭が痛くなったので、クロエに授業を止めるよう頼んだ。


「えっ? もういいんですか?」

「うん。君の実力はわかったから……」


 正直、何を言っているのか内容はさっぱりわかんない。俺は数学がめちゃくちゃ苦手なのだ。

 ただし、クロエがすごくレベルの高い授業ができるということはわかった。


「ねえ、アルブレヒトさん。あたしの学校の生徒になってください! 特別に特待生待遇で授業料一切払わなくていいから!!」

「そういわれてもね……」

「最初だけでいいです! 生徒がたくさん入ってくれたら籍だけの幽霊生徒でもいいんで!」


 そこまで言われると断りにくい。


(ヘレネの生活の面倒を見てくれているからなぁ……)


 ヘレネというのは俺の奴隷だ。

 ただの奴隷ではない。ホムンクルス、人造人間だ。

 彼女は俺と違う。食事がなければ生きていけない。


 クロエは、レイウォン王に頼んで王宮で面倒をみてもらっているのだ。

 断りにくい恩義があるわけだ。


 こうして俺は自分で通う学園をこれから創設することになったわけである。

 現在のステータス


 教師一名 クロエ(数学・医学・薬学)

 生徒一名 アルブレヒト(特待生)


 教室なし 設備なし


 資金 五千タルザン(50万円)



 ※ お知らせ


 文章の修正のため次の話の投稿が遅れるかもしれません。

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