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最凶チート殺しの英雄迷宮  作者: 神楽 佐官
第二章 黒水晶のダンジョン編 邪神・大松清明
49/54

049 最下層

「……まあいい」

 大松清明は顎をさすった。


「確かに百階には到達された。だが、奴が目的を到達することはないだろう」

「はい?」

「細かいことは気にするな。この大会で予選を通過できるものが一人もいないということだけ理解すればいい」

「は、はい……」


 戦士Aたちはうなずいた。

 その理由を訊くことなど到底許されていなかった。口ごたえをすれば『死』が待っているからである。


「さて……」


 大松清明がリウィアたちの方を見た。


 リウィアたちはぞっとした。


 目の前にはおぞましい怪物がいる。


 黒水晶の邪神の恐ろしさは知っている。


 古代魔術エンシェントの力さえ通用しない邪神である。


 即座に皆殺しにしてしまうだろうと思われた。


 だが、大松清明は意外な対応をした。


「帰りたまえ」

 素っ気ない口調だった。

「僕たちの目的はあくまでも魔人武道会の予選の参加者を足止めすることです。どうぞお引取りを」


「そうはいかないわよ! あたしたちが何でここに来たと思っているのよ!?」

 と、リウィアが叫ぶ。


「なら、即刻殺してあげてもいいのですよ」

「くっ……」


 黒水晶の邪神はパルニスの精鋭五千をほとんど壊滅状態に陥れた化け物である。

 一介の武道士ごときなど胡麻粒のように消し去ることができるだろう。


「でも、アルブレヒトに逃げられたじゃないの!? あんたらの仕事ぶりは完璧じゃなかったわけよ」


「断言しよう。この大会の予選通過者は一人もいない」

「まだ、あんた以外にも化け物みたいな奴がいるわけ?」


「いや、僕以外に彼に太刀打ちできる人物は『俺たち最強伝説』のなかにも一人もいない」


「じゃあ、どうするつもり?」


「どうもしないさ」


「え?」

「これ以上は聞かない方がいい。これ以上聞くと死ぬことになる」


 両肩の犬の首が恐ろしい笑みをうかべた。


「今逃げるなら命だけは助けてあげよう。大事な取引先であるエセルリアの王子に傷つけたくもない……。どうする?


 ※


「すごいな……」


 地下百階に足を踏み入れたアルブレヒトは、おもわず溜め息を漏らした。


 熱気化爆弾に比すべき爆発を受けても、地下百階は天井には傷一つない。


 すべてが黒水晶でできている。


 黒い水晶がきらきらと輝いている。ここでは魔法を使わずとも光で周囲が見える。


 アルブレヒトは後ろを振り向いた。


 敵の気配はない。


 大松清明は追ってこない。


 アルブレヒトの呪文でつくった爆発で、穴の底に溜まった土砂に落ちたとき。


 敵の追撃がやってくるものと思ったアルブレヒトは、地面に着地したと同時に臨戦態勢をとった。


 しかし、大松清明はやってこなかった。


(どういうことだ……?)


 砂埃だらけの服をはたきながら地下への階段を捜したが、結局、百階に到達するまで敵と遭遇することはなかった。


(それにしても綺麗だ)


 アルブレヒトは黒水晶に見惚れた。


 かつてはこの地で黒水晶を採掘していたらしい。


 詳しいことについてはアルブレヒトは知らない。あくまでもイサキオスから聞いた話である。

 広間に出た。


 すると、巨大な黒水晶の柱が中央にあった。


 ただの水晶の柱ではなかった。


 水晶の中に人間が埋まっているのだ。


 アルブレヒトが近づいた。


 その男は大男だった。青い鎧を身に纏っていた。2メートル近くある。


(どこかで会ったことがあるような……)


 しかし、いくら考えても面識などないはずだ。


 あっ、とアルブレヒトは声をあげた。


 よく見るとトーライム卿に似ている。


 顎の角ばったところなど瓜二つだ。


(ひょっとして、最下層にいるというトーライム卿の息子か?)


 しかし、なぜ黒水晶の中に閉じ込められているのか。

 アルブレヒトは巨大な黒水晶の柱に近づいて触れた。


 その瞬間、痛覚がないのに身体じゅうにビリビリと電流が流れるような感覚に襲われた。

(こりゃあ呪いだ……)


 呪いには二種類ある。


 『怨念』による呪いと『魔術』による呪いである。


 アルブレヒトが見たところでは、これは『魔術』による呪いである。


 トーライム卿の息子は死んでいない。おそらく仮死状態だ。

 ただし、強引に黒水晶を破壊すると中にいるトーライム卿の息子が死んでしまう。


(でも、これなら解除できるな)

 ただし呪いが強力なのでたいへんな時間がかかる。


 ひょっとすると一週間の期限を過ぎてしまうかもしれない。


 誰が呪いをかけたのか?

(大松清明)

 それ以外にあり得ない。


 そもそもこの魔人武道会の予選は最下層の地下百階までいけば合格である。


 判定者であるトーライム卿の息子が決めるのだ。


 だが、その判定すべき人物が黒水晶に閉じ込められてしまったのだ。


 先ほど呪いには二種類あるといったが、『怨恨』の方が呪いが強い。


 『怨恨』による呪いは術者が死んでも呪いの効果が続くことがある。

 ちなみにアルブレヒトは呪いを解く術は学んだが、呪いをかける術は教わっていない。


 独学で知ることもできないこともない。しかし、

『そりゃあ、お前。呪いなんてのは二流の奴のすることだよ』

 と言ったヌジリの言葉を思い出す。


『魔術の本質は神と一体化することにある。お前、神さまが他人を呪うと思うかい?』


 だからアルブレヒトは呪いを使わない。

 結局、大松清明を倒すのが一番てっとり早いのだ。


 なぜ、大松清明はトーライム卿の息子に呪いをかけたか?


 予選通過者を一人も出さないためだ。


 黒水晶の邪神と一体化した大松清明の強さは尋常ではない。


 しかし、アルブレヒトのように戦わずに地下百階までたどり着くものがいるかもしれない。


 そのための予防だろう。


 理由は『俺たち最強伝説』と名乗るふざけた名前の冒険者ギルドの発展のためだ。

 結界を張られているので呪文で脱出することもできない。


 事態を解決する一番の方法は大松清明を倒せばいい。


 だが、どうやって倒すか?


 魔法は通用しないのだ。このままでは勝てない。

(ヌジリさん、どうすればいいのか……)

 内臓迷宮から救ってくれて、オリハルコンの身体を与えてくれた恩人のことを思い出した。


 ヌジリがいなければ、アルブレヒトは内臓迷宮から出ることもできなかった。そのまま狂っていたことだろう。不知火凶がアルブレヒトになれたのはすべてヌジリのお陰だ。

 たまたま古代王朝の研究のためにやってきたから、アルブレヒトは助かったのだ。アルブレヒトは、ヌジリが内臓迷宮にやってきた時のことを語ってくれたことを思い出していた。


「あっ……」



 その時、アルブレヒトに電流のような閃きが起こった。

次で第二章は終わりです。

読んでいただいてありがとうございました。

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