045 戦闘
次の瞬間、小人族Dの手が動いた。
刹那の出来事だった。
短刀がアルブレヒトの胸元目がけて投げつけられた。
「危ないっっ!!」
リウィアがいち早く反応した。
「!!!!」
すんでのところでアルブレヒトが避けた。
オリハルコンの身体なので、刺さったところで傷はつかないが。
しかし、己の身体がオリハルコンで、
(人間の身体ではない……)
という事は絶対に隠しておきたかった。
「おやおや。魔術師だから一番最初に殺そうと思ったのに」
小人族Dはさも残念そうに肩をすくめてみせた。
しかし、その態度には余裕が感じられる。
「やっぱり彼はただ者じゃなかったね。たった一人で迷宮を探索する魔術師なんて滅多にいないもの」
「あと、そこの武道士も反応していたわね」
と、エルフBが言う。
「なるほど。じゃあ、そいつら二人から片付ければいいわけか」
ドワーフCが傍らに置いていた斧を手に立ち上がった。
「ちゃんとサインはもらったからね」
と、嬉しそうに小人族Dがサインの束を高々とかかげる。
「僕たち、食材の名前をちゃんと取っておくんだ」
「やっぱり食うからにはどんな奴が美味かったかちゃんと覚えておきたいからな」
戦士Aが心の底から嬉しそうな表情で言うのだ。
見た目は平凡な冒険者に過ぎない。
だが、一般人と区別がつかない狂人ほど、
(恐ろしいものはない……)
おそらく。
王子たち一行のなかで一人でヴァンパイアロードのイサキオスに勝てる人物はいないだろう。
リウィアでも対等に戦えるかどうか。
だが、この四人は違う。
全員がイサキオスを余裕で倒せるほど強い。
もしも戦えば、王子たち一行の誰かは死ぬ。
あるいは全員死ぬかもしれない。
なにしろ、小人族Dのナイフ投げに反応できたのはリウィアとアルブレヒトだけだ。
(これはみんなを戦わせるわけにはいかないな)
「みんな、手を出さないでくれ!」
アルブレヒトが前に進み出た。
「ここは僕が一人で片付けるから」
「本気なの? 相手は4人よ」
エルフの女剣士のローリエが心配そうに訊ねる。
「あたしたちの方が数が多いのよ。みんなで戦った方がいいわ」
(悪いけど質は違いすぎるんだよなぁ……)
ローリエが十人いても、エルフBには勝てないだろう。
アルブレヒトはそう見ている。
一人で戦っても、みんなで戦っても一緒なのだ。
(この際だから、古代魔術を使うか……)
勝負事には鉄則がある。
なるべく手の内は見せない。
そもそも古代魔術はすでに滅んだ魔術ということになっている。
見破られる可能性があるのは、エルフの魔術師だけ。
(だったら、速攻で片付けるか……)
呪文を唱えた。
すると光輝く蜂のような物体がアルブレヒトの手から4つ現れた。
大きさが二十センチほどの銀色に輝く蜂だ。
「なにあれ?」
エルフBが仰天して目を丸くした。
「あんな魔法あたし知らないわよ!」
「なんだって!?」
「そもそもあたしたちの知らない魔術言語よ! これでも二百年生きているんだ
けど、あんなの見たことも聞いたこともないわよ!」
「魔術言語じゃなかったら、どうやってあんなの召喚したんだよ!?」
「知らないわよ!」
蜂は加速して襲い掛かった。
さすがに熟練の冒険者たち、蜂がやってくるとすぐに戦闘態勢をとった。
戦士AとドワーフCはそれぞれバスタードソードと斧を身構える。
だが……。
4匹の蜂は戦士とドワーフの頭上を矢の如き速度で通り過ぎた。
「しまった!」
戦士Aが叫ぶ。
アルブレヒトは後衛から倒すつもりなのだ。
即座にエルフBと小人族Dが身構える。
エルフBの呪文の詠唱が間に合うような速度ではない。
蜂だから刺してくると思ったのだ。
ところが、蜂は予想外の行動に出た。
光輝く蜂は針からビームを出したのだ。
「ぐあああああああっっっっ!!」
四方からビームを食らった小人族Dの身体が爆発した。
「フェインチャック!!」
エルフBが叫ぶ。
本名で呼ばれた小人族Dは文字通り黒焦げになった。
蜂はすぐにエルフBを狙う。
しかし……。
「ぐはっっ!!」
ドワーフCが瞬時にエルフBの身代りになったのだ。
「大丈夫!?」
「心配せんでもええ……。ドワーフは頑強なんじゃ!」
「くそっっ!! 後衛の人間から狙うとは卑怯だぞ!!」
戦士Aが吼えるように叫ぶが、
(人のことを言えないだろう……)
真っ先に魔術師を倒そうとナイフを投げつけてきたのはどこの誰なのか。
蜂は続けて剣士Aに襲いかかった。
避けなかった。
ビームは戦士Aに直撃した。
だが……。
ビームを四方から食らいながらも、
「ふうん!」
同時にバスタードソードで蜂を斬る。高速で動く蜂を真っ二つにした。
肉を切らせて骨を断つ戦法である。
(ちっ……)
一瞬、視界が真っ白になる。
アルブレヒトは蜂を精神力で操っている。蜂を斬られると精神的なダメージを受ける。といっても、蜂を全部潰されても死ぬわけではない。そのようなリスクの高い魔法は使えない。
ともかく銀色の蜂は残り三匹。
攻撃力が四分の一減った。
(蜂たちだけではこのパーティーを全滅させるのは無理だろうな)
「エリオット!! これはわしらだけで勝てる相手ではないぞ!」
ドワーフCが戦士Aに向かって言った。
「あいつ、まだ本気を出しとらんはずじゃ。わしの勘じゃ」
「そうですね。仕方ない。こっちも死にたくないですからね」
戦士Aは笛を取り出した。
そして力いっぱい吹いた。
笛の音が迷宮いっぱいに響きわたる。
仲間を呼んだのだろう。
「君たち四人もいるのに、僕一人相手に助けを呼ぶのかい?」
アルブレヒトが挑発する。
どう答えるか知りたかった。それをきっかけに、
(敵のレベルがわかる……)
「めずらしいですね。『俺たち最強伝説』のなかでも一、二を争うほどの強さを誇る貴方たちが援護を求めるなんて」
その人物は、あっという間に現れた。
しかも、アルブレヒトのすぐ背後に立っていた。
それは大松清明だった。
次の瞬間、アルブレヒトから光線が発せられた。
イサキオスと対峙したときに発した光線よりもさらに巨大な光の渦であった。
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