044 冒険者の食事
「ロートガルド伯が言うのなら間違いないのでしょうね」
リウィアは溜め息をついた。
「証拠はないが『俺たち最強伝説』を食い物にしているのは間違いないというわけね」
「きっと兄は騙されているのだろう。僕たちは大松清明を討ち取ることに決めたんだ。このままだとエセルリアは滅びてしまう」
王子の覚悟は悲壮であった。
が、無謀ともいえた。
(彼らじゃ勝てないよな……)
「そういうことでしたら、僕でよければ力になりますよ」
「ありがとう」
王子は手を力強く握りしめた。
「あれ? そこで何をしているんだい?」
戦士が、声をかけてきた。
古びたフルプレートの鎧を着込んでいる。
金髪で体型ががっしりしている。
なかなかの大男だ。190センチあるだろう。
「彼、強いな」
つぶやくようにアルブレヒトが言った。
「おそらくこの中の誰よりも強い」
「何ですって?」
驚いたようにリウィアが反応する。
「ひょっとしてレベル500以上あるんじゃないかな?」
「馬鹿も休み休みに言いなさいよ! 国の英雄レベルよ! そんな奴滅多にいないわよ」
「この大会なら、あり得る」
アルブレヒトは言った。
そもそも古代魔術をおさめたオリハルコンの身体を持つ奴が出場しているのだから、その程度の強さの戦士がいてもまるで不思議ではない。
「君たちは参加者?」
「ええ」
戦士はジェームズ王子をじろじろと見る。まるで店頭に並ぶ魚の良し悪しを見極めるかのような眼差しで。
「ひょっとして、エセルリアのジェームズ王子?」
「ええ……」
「ふうん……」
「やっぱり! なんか冒険者と雰囲気が違うと思ってた!! そうかそうか!!」
肩をバシバシと叩いた。
王子であるにもかかわらず、である。
ジェームズ王子は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「どうして僕を?」
「そりゃあ有名人ですもの!」
嬉しそうな顔をして は言った。
「ジェームズ王子といったらイケメンでモテて男の憧れじゃないですか! あとでサインくださいよ!」
「君の名前は……?」
「いやいや、王子相手に名乗る名前なんてないですよ! 戦士Aでかまいません……」
だが。
戦士Aはアルブレヒトを見ると胡散臭そうな眼差しを投げかけた。
「君は?」
「アルブレヒトです」
「そうじゃなくて、職業は?」
「魔術師です」
「魔術師ぃ?」
呆れたような声を出した。
「たった一人で迷宮を探索する魔術師なんて聞いたことないんだけど」
「ぼっちで一緒に組む仲間がいないもんで」
「君みたいなのは、絶対に吸血鬼たちは襲うよね。よくここまで降りてこれたよね」
「まあ、なんとか」
「どこで魔法習ったの?」
「師匠に」
「その師匠って誰?」
戦士Aはずいぶんとアルブレヒトを警戒している様子である。
王子を見たときのような友好的な態度ではない。
「ふうん。ティターンの王立魔術院じゃないと思うけど」
戦士Aは困ったように金色の髪を掻いた
「イヤだなぁ。君みたいなのがいると」
「僕は頼りにならないですか?」
と、アルブレヒトが言うと、
「たぶん、君はヴァンパイアロードよりは強いなぁ」
やはり。
(これは今までの相手とはレベルが違うぞ……)
「マズいだろうな……。いろんな意味で」
「強ければ強いほどいいんじゃないですか?」
「……まあ、そうなんだけど。やれやれ、仕方ないか。あなたたち食事は?」
「まだです」
ポーリーンが答える。
「だったら一緒に食べよう。乾パンと干し肉ばかりの食事だと味気ないでしょう? ちょうどいい肉があったので」
「肉!?」
それを聞いたフルシュが嬉しそうに飛び跳ねた。
もしもこの場にフアナがいたら喜ぶだろうな、とアルブレヒトは苦笑した。
「でも、よろしいんですか? あたしたちまで食べたら数が……」
「いいんですよ! ご飯はみんなで食べた方が美味しいんだから!」
野暮ったい雰囲気を漂わせているが、人を引っ張っていく統率力がある。
エルフの魔術師、ドワーフの戦士、小人族の盗賊。
皆、焚き火を囲んで腰を下ろしている。
典型的なパーティーである。
「お~い! みんな、王子を連れてきたぞ!」
「王子って誰?」
「ジェームズ王子だよ。エセルリアの」
すると髪をシニヨンに巻きつけたエルフの魔術師は、
「ああ、あのハーレム作って自分が手をつけた女を連れまわしている王子さまね」
と、憮然とした表情で言った。よく見るとここにいる誰よりも顔立ちは美しかったが、どこか田舎臭さが残っていた。
ジェームズ王子をはじめ、誰もがひきつった表情のまま言い返すことができなかった。
リウィアは愕然として口をへの字にしているジェームズ王子を見た。
「ん? めずらしいのう。男もおる」
「えっ? 嘘でしょ? あの王子に?」
ドワーフCとホビットDは互いに顔を見合わせる。
「髪が紫色じゃ」
「そんな髪の人間なんかいないけど?」
「人間ですよ」
アルブレヒトが嫌な顔をした。
「なんか変わっているわね」
エルフBがじろじろとアルブレヒトを見る。
「この子、今までに見たことがないような匂いがするわね」
すこし気まずい空気が流れたが、皆仕方ないと納得した様子だった。
「紹介するよ。エルフBにドワーフC、そして小人族Dだ」
ずいぶんといい加減な紹介である。
戦士Aの仲間であるBとCとDは、一同を見回した。
「人数多いわね?」
「その分、食べる量が増えるからいいじゃろ?」
(ん? 増える?)
人数が増えれば、食べる量が減るのではないか?
単なる言い間違いだろうと思って、気にしないことにした。
地面には火が燃えている。これで食料を焼くのだろう。
しかし、薪がない。
燃料がないのに火を燃やしている
よく見ると、火のなかにとかげが見える。
火の精霊サラマンダーだ。
「精霊が使えるの?」
アルブレヒトがエルフBに訊ねる。
「まあ、いちおうエルフだから。あなたたち、肉はよく焼く派? それとも焼かない派?」
エルフは訊ねる。
「焼いた方がいいな。衛生面を考えて」
と、小人族が言うと、
「僕は焼かない方がいいな。生のほうが肉本来の味があじわえる」
と、戦士Aは言った。
「どっちでもいいにゃ」
フルシュはそう言ってお腹をさすった。
「なんでもいいから早くお肉が食べたいにゃ」
「ご要望じゃから、さっそく食事にするか」
ドワーフが袋のなかに手を突っ込んだ。
一同も腰を下ろす。
すると、小人族Dが王子に一枚の紙とペンを突きつけた。
「これ、お願いします」
「なに、それ?」
「サインです。王子さまなんて滅多に会えないですから」
まるで芸能人のような扱いである。
ポーリーンが呆れたような顔をしている。
だが、ジェームズ王子は黙ってサインをして小人族Dに渡した。
「やったぁ。これ、家宝にしますね」
小人族Dはもらったサインを大事そうに抱えた。
「食材をどうやって手に入れたの? 迷宮に置いてあったのを頂戴したわけ?」
「あはは。そんなことせんでも食材は向こうからやってくる」
袋から取り出したのは、人間の腕だった。
「ちょっと待ってくれ。いますぐ焼くから」
ドワーフCは無造作に腕を鉄串に刺して焼き始めた。
「やはり人間の腕を焼くならサラマンダーの火に限る。火力が違う」
――――本当の地獄が始まる。
読んでいただいてありがとうございました。




