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最凶チート殺しの英雄迷宮  作者: 神楽 佐官
第二章 黒水晶のダンジョン編 邪神・大松清明
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043 大松清明の営業

「最初に大松清明と会ったのは私でした」

 と、ポーリーンが言った。


「国王陛下に会いたいと言う事で大松清明がやってきたのです。しかし、陛下は多忙ですし、武術師範ということもあってまずお前が会えと。


 そこで私の事務室に通すことにしました。


 大松清明は見たこともないような格好をしていました。


 ビジネススーツ……と本人は言っていました。


 私が知っている冒険者のイメージとはかけ離れていました。まるで商人のようでした。


『本日はわざわざ貴重な時間を割いていただいてありがとうございます』


 私は彼に椅子に座るよう言った。


 彼は席に座ると、お茶が来るのも待たずにバッグから紙の束を取り出した。

『どうぞ。お読みください。我が社の資料です』

『我が社?』

『我が社はただの冒険者ギルドではないのです。我々『俺たち最強伝説』は社員教育のいきとどいた会社なのです』


 と、大松清明は胸を張って言いました。


 資料を読むと、ギルドの設立の歴史や理念などが書かれているんです。

 驚きました。

 ここまでしっかりと商売に徹する冒険者ギルドは見たことがありません。


 資料には所属している冒険者のレベルまで書かれているのですよ。

『……レベル300以上が100人?』

 武術師範の私でさえレベル200程度なのです。


 しかも、レベル500以上が三十人もいるのです。

 レベル500以上など英雄レベルの強さです。

 

 書かれていることが事実だとしたら、冒険者どころかエセルリアと戦争できるほどの力です。にわかには信じがたいことでした。


『我が社の冒険者の強さには絶対の自信をもっていますから』

 と、大松清明は身を乗り出して、机に肘をついて指を組んだ。


『これだけ優秀な冒険者を抱えているギルドは他に存在しないでしょう』


『たしかに素晴らしいですね。事実だとしたら』


『事実です。お望みとあらばいつでもその力をお見せしましょう』

『しかし、いまのエセルリアにはこれほど強力な冒険者たちは必要ありません』

『なぜ?』


『武力を必要としないからです。我々は現在戦争をしていませんし、討伐を必要とする魔物もいません』


『戦うばかりが冒険者の仕事とはかぎらないでしょう』

『たとえば?』

『警備の仕事です』

『それなら王宮を守る兵士がいます』

『警備が必要なのは王宮だけではないでしょう』

『というと?』


『ぶどう祭り。あれなんかは警備の人手が足りないでしょう』

 大松清明の言うとおりです。


 ぶどう祭りは年に一度行われる祭りです。

 七日間にわたって町中で大々的に祝うのである。


 しかし、その分犯罪が多い。

 大陸各地からぶどう祭りを楽しみにやってくるのですが、治安が悪いとなると観光客も来なくなる。


 国王もこれには頭を悩ませている。


『陛下にぜひとも会わせていただきたい』

『陛下はご多忙ですぐに会わせるわけにはいきません。ですが、上に話は通しておきましょう』


 私は大臣たちにこの話をしました。

 ですが、大臣たちは取り合いませんでした。

 なぜ見ず知らずの冒険者たちに金を払わなければならないのか、というのがその理由でした。


『それにその者の言っていることが本当だとしたら大変だぞ』


 と、大臣が不安を隠さずに言った。


『エセルリアと戦争しても勝つだろう。それほど強い奴を我々の国に呼び寄せたら、我々の国が乗っ取られかねん。断固として反対するぞ』



 ところが、それから『俺たち最強伝説』が必要となる日がやってきました。


 国で窃盗事件が多発するようになったのです。


 窃盗やらスリが出るようになりました。しかも、犯人は一向に捕まりません。

 たったの一人も逮捕できないのです。


 結局、国王の命で大松清明を呼ぶことになりました。


『お呼びいただき有難うございます』


 大松清明は冒険者ギルドの人間とは思えないほどの恭しい態度で頭を下げた。


『治安の維持もお任せできるということですが』

『もちろんです。それなりのお金をいただけるのなら』

『泥棒も防げるというのですか?』

『蛇の道は蛇ですから』


 大松清明はにやりと笑いました。


『冒険者ギルドには盗賊も所属しているので、 


 というわけで『俺たち最強伝説』に依頼すると、あっという間に泥棒はいなくなりました。


 ぶどう祭りも彼らの警護のおかげで無事に終わることができました。


 その警備ぶりは見事だったので、王太子が宴に呼んで招待しました。もちろん、その場には我々もいました。


『他に仕事はあれば何でも仰ってください』

 と、大松清明は言った。

『しかし、今の世の中には退治すべき怪物はいない。ほかに何ができるのかね?』

『なんでもできますよ。たとえば暗殺でも』


 それまで和やかだったパーティーの空気が一変しました。


『もちろんそれなりのお金はいただきますが』


 それまで穏やかだった大松清明はすさまじく邪悪な笑みをみせました。

 しかし、すぐに元通りの顔に戻りました。


『では戦争するといったら戦争するのかね?』

『お望みとあらばパルニスとでも』

『暴虐無比の騎馬民族国家ケイロスに勝った大陸屈指の強国だぞ! その気になったら我が国などあっという間に滅ぼせるんだぞ!』

『存じております。しかし、やれと言われたらやります。もっともそれに見合うだけのお金はいただきますが』


 みなぞっとして、その日の宴は盛り上がりませんでした。


 しばらくして、パルニスから外交使節がやってきました。


 ロートガルド伯ジェロームです。


 レイウォン王が一目置く人物が三人います。

 イブロン公、トーライム卿、そしてロートガルド伯ジェロームです。

 国王陛下との挨拶がすむと、ロートガルド伯はすぐにジェームズ王子に挨拶に行きました。


 王子はケイロス戦役の際にはケイロスにつくことを最後まで反対したので、パルニスにとっては最重要人物なのです。

 ロートガルド伯はジェームズ王子に丁重にお礼を言いました。


 その夜、王子はロートガルド伯のために宴を用意しました。

『ところで大松清明に会ったそうですな』


 ワインを飲みながら、ロートガルド伯は私に訊ねました。

『ええ』

『止めた方がいいですな。あのギルドはあまり評判がよろしくありませんな』

『しかし、実績があるのですから。彼らを雇ってから治安は良くなりましたし……』

 と、私が言うと、

『ギルドというのは冒険者の集まりですな』

 不意に、当たり前のことを言い出したのです。


『冒険者には色々な職種があるらしいですな。戦士とか魔術師とか僧侶とか……』

 ロートガルド伯は己の無精髭を撫でました。

『あと盗賊とか』


『……まさか、泥棒たちは彼らの仕業だと仰りたいのですか?』


『おかしいと思いませんか?急激に治安が悪化する要因がないのに窃盗が多発するなんて。

 彼らは特に高レベルの盗賊をたくさん抱えているようですね』


 押し黙る私に、ロートガルド伯は囁くように言いました。


『気をつけた方がいいですね。彼らは皆さんが思っているような甘い連中ではありませんよ』



 ※



「それで忠告に従ったのですか?」


 リヴィアが訊ねると、


「最初は従いませんでした。窃盗が彼らの仕業だという証拠はありませんし、それに彼らの警備のおかげでぶどう祭りが無事に行えたので、契約を解除するつもりはありませんでした」

「でした、というと?」


 アルブレヒトが聞きとがめた。


「彼らは契約料を十倍に上げたのです」


 げえっ、とリウィアが呻き声をあげた。


「そんな無茶な要求聞き入れるわけないでしょう!?」

「ところが王太子は払ったのです」

「足元見られ過ぎでしょう!?」

「ですが、『俺たち最強伝説』になら治安を任せられるといってきかないのです。結局は十倍の契約料を払うことにしました」

「なんと弱気な……」

「それだけならまだいいのですが……」


 ポーリーンの表情が曇った。


「彼らがエセルリアで麻薬を売っているという情報をつかんだのです」

「役人がつきとめたんですか?」

「いいえ」


 ポーリーンは残念そうに首を横に振った。


「それもパルニスからの情報なのですよ。ロートガルド伯から」

読んでいただいでありがとうございました。

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