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最凶チート殺しの英雄迷宮  作者: 神楽 佐官
第二章 黒水晶のダンジョン編 邪神・大松清明
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042 ジェームズ王子

「じゃあ、どうすればいいんだ俺たちは……」


 『俺たち最強伝説』の入団希望者はあきらかに怖気づいていた。

 死に怯えている者の顔だ。


「二日はここでじっとしているといい。飯は我慢してくれ」

「そんな……」

「他の出場者たちと出会っても決して戦ってはいけない。腹が減っているからといって食料を奪おうという考えは捨てるんだ。そうすれば、しばらくしてトーライム卿がなんとかしてくれるだろう」

「待ってくれ」


 泣き声を言う入団希望者たちを尻目に、アルブレヒトたちは迷宮の奥へと下りていった。



 ジェームズ王子は五名の女性を従っている。


 一人は武術教官のポーリーンである。

 年齢は二十五歳。剣士だが鎧はつけていない。

 剣士にしてはめずらしく丸い縁の眼鏡。青い服に白いスカーフ。


 次はフルシュ。狼の獣人である。

 姿はほとんど人間と変わりないが、頭部に獣の耳がついている。

 指の間に長い鉄の爪をはさんでいる。


 三人目はエシー。女性のドワーフである。

 背丈はクロエよりもさらに一回り小さい。小学生くらいの大きさである。

 しかし、大の男でも持つのに苦労しそうな巨大な斧を軽々と抱えている。


 四人目はローリエ。エルフの剣士である。

 髪は茶色でウェーブがかかっている。既婚者であったが去年夫を亡くしていまは未亡人である。


 五人目がネクテル。弓使いである。

 あどけない村娘のような顔立ちをしている。


 彼女たちを束ねているのがジェームズ王子である。

 前髪が長く垂れていて、

(すぐ前が見えないんじゃないのか……)

 と心配になってしまうほどである。


「あなた、王子ですか?」


「いちおうエセルリアの第二王子だ」


「よく大会に出れますね?」


「王太子の兄がいるからね。俺の身になにかあっても、兄が王位を継いでくれるから問題ない」


 しかし、仮にも王族である。

 ジェームズ王子の何かあったら大変なんじゃないだろうか……。

 そうアルブレヒトが考え込んでいると、


「……僕の顔になにかついている?」


 エルフの女戦士のローリエが不思議そうにアルブレヒトを見ているのである。


「あなた、人間じゃないの?」

「人間だよ」


 アルブレヒトは低い声で答えた。


「化け物みたいに見えますか?」

「やだ。そんなに怒らないでよ。でも、人間が二人一緒ということはないでしょう? どちらか一人が魔物と認定されないと……」

「冗談はよし子ちゃんですわ!?」


 リウィアが突然怒鳴り出した。


「誰がこんな男と……」


 綺麗な顔からは想像できないような口調である。


 いかにユリウスと血がつながっていないとはいえ、本当に貴族の子供かと小一時間ほど問い詰めたくなる。


「じゃあ、二人とも最初から一人で出場したの?」


「そうですわ」


「ふうん……。たしかに人間以外の生物に見えないわね」


 ふう、と溜め息をついた。


 オリハルコンの身体だと見抜かれたわけではないのだ。


 ドワーフやエルフのようなほとんど人間と姿が変わらない者たちもこの大会では『怪物』と見られているらしい。


 アルブレヒトは、

(自分は『怪物』じゃない……)

 と、心の底では思っている。

 だが、傍目からは決して ではない怪物なのだ。

 その正体を知っているのは恩人であるヌジリとメデューサのみである。


「しかし、魔術師なのに一人とは珍しいにゃ」


 フルシュが興味ぶかそうにじろじろと見る。

 魔術師は間合いを詰められたら終わり。

 それが常識である。

 リウィアのように素早さを武器にしているのならまだ一人で冒険するというパターンはある。


 しかし、アルブレヒトのように白兵戦が苦手な魔術師が一人で探索するというケースは滅多にない。


「たった一人でよくこんな迷宮の奥深くまで潜れたにゃ」


「今回の冒険はほとんど戦わずに済みましたから」


 実際にはヴァンパイアロードのイサキオスと戦っている。

 しかし、そんなことまで言う必要はない。


「よかったら、僕たちと一緒に行動しないか?」


 と、ジェームズ王子が提案した。


「この魔人武道会の予選は最下層までたどりついたら予選突破だ。みんな、力を貸して欲しい」


 ジェームズ王子の頼みに、リウィアはすぐに同意した。


「もちろんですわ。王子の力になりますわ」


 行動をともにすることについてはアルブレヒトも異論はなかった。

 しかし、気がかりな点がある。


「みんな、具合は悪くないのか?」

「なにがですか?」


 赤死病のことについては誰も知らないらしい。


 アルブレヒトは赤死病のことを説明した。


 魔女の母娘をはじめとして、山賊百名あまりが赤死病に倒れたことを。


 ただし、アルブレヒトが|『逃走の翼』≪エスケープ・ウイング≫で脱出したことは言わずにいた。


 みんな、ぞっと顔色が蒼ざめた。

 それでも平然としているのはリウィアである。


「身体が貧弱なだけですわ! 最後に必要なのは気合いですわ!」


 己の武道士としての身体の頑強さを心から信じている様子である。


(馬鹿は病気にかからないからな)


 とは、さすがにアルブレヒトは言わない。

 一方、ポーリーンは心配そうな顔をしている。

 それは己の身よりも、守るべき王子の身を案じてのことだった。


「だとすると我々も罹病する危険性がありますね」


 本来なら引き返した方がいい。

 王太子がいるとはいえ、王族に無理をさせるわけにはいかない。


 だが……。

「進もう」

 と、ジェームズ王子が言った。


「ここまで来たんだ。せっかくだから最後まで進もう」

「|『逃走の翼』≪エスケープ・ウイング≫は使えませんよ」

 と、アルブレヒトが口を挟んだ。


 しかも、六十階から下に降りるエレベーターまで壊されている。

 もちろん六十階までたどりつけば、エレベーターで上に上がることは可能だ。


 エレベーターの存在は秘密だが、

(命にかかわるほどの出来事だから教えてもいいかも……)

 とも思う。


 地上まで行けば赤死病の治療はできる。


 しかし、迷宮では治療ができずそのまま死んでしまうかもしれない。


「王子、この際、一度は退くのもいいかと……」

「このまま逃げ帰るわけにはいかないんだ! なんとしてもあの大松清明を討ち取らないと……」


 それを聞いた途端、アルブレヒトの眉がすこし動いた。

 しかし、その変化を読み取れる者はこの中にはいなかった。



「それを詳しく聞かせてもらえませんか?」



 それまで王子にさほど興味を抱かなかったあるブレヒトは、とても丁寧な口調で訊ねた。



「ひょっとしたら力になれるかもしれません」

読んでいただいてありがとうございました。

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