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最凶チート殺しの英雄迷宮  作者: 神楽 佐官
第一部『最凶チート殺しの内臓迷宮』迷宮編 第一章 不知火凶からアルブレヒトへ
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004 最弱スライムでイケメン戦士に勝つ方法(下)

 まさかスライムを投げてくるとは思わなかった。

「なんだ、今のは……」

 スライムの粘液で濡れた顔を押さえた。


 

 次の瞬間、アルブレヒトは意外な行動に出た。

 敵に背を向けたのだ。

 これには唖然とした。

 完全に虚を突かれた。


「待てっ!!」


 ユリウスは細身の剣を振りかざして追いかける。

 だが……。

 追いつかない。

 いくら走っても追いつかない。

 すっかり頭にきたユリウスは、


「卑怯だぞ! 正々堂々と戦え!」


 と怒鳴るが、どうしたらいいかわからない。

 十分に距離をはかったところでさらにスライムを投げる。

 今度は顔に当たらぬよう、腕で受けとめた。

 ぴちゃり、とスライムが腕にまとわりつく。


「くっ……」


 スライムは弾けて、服に粘液が付着する。

「なんだ、ありゃあ……」

 トーライム卿はすっかり呆れていた。

「あれでは子供の鬼ごっこではないか」

 クロエも、ははは、と苦笑いする。

「しかし、アルブレヒト君も逃げてばかりですね」

「そりゃあ、間合いに入られたらユリウスの剣の餌食だ」


 それにしても、

(おかしい……)

 幾多の修羅場をくぐり抜けた歴戦の勇士であるトーライム卿はすぐに異変に気づいた。

(あの少年、いくら走ってもまったく疲れん)

 まるで少女のような細い身体つきをしているのに、空を飛んでいるかのように軽やかに動いている。

 疲労の気配がまったくない。


(見た目によらず鍛えているのか……?)


 だが……、

「たとえ悪魔だろうが、魔王だろうが」

 超勇者とユリウスの追いかけっこを見た。

「あれで勝てるものかね?」


 スライムをぶつけているだけである。スライムの身体はほとんどが水分でできている。 当たれば痛いかもしれないが、たいしたダメージもない。

「あのスライム、まさか毒を持っているとか……」

「たしかに沼沢地には毒をもつスライムは存在します」

 と、クロエは答えた。

「しかし、あたしの考えは違います。ひょっとして……」

「どうした? クロエ殿?」

「ええ。私の勘が正しければ……」

 ユリウスは、怒りで我を忘れていた。

 もしもユリウスが冷静であったなら、早い段階で異変に気づいたかもしれなかった。

 気づいたときには遅かった。

「ん……?」

 身体が重い。

 スライムのドロドロの体液が、ユリウスの身体にへばりついていたのである。

「これは……」

 妖魔学者であるクロエは異変の正体に気づいた。

「粘性の強いスライムを投げたんですよ」

「なに?」

「要するに糊を投げていると思ってください。でっかい敵が縄張りにやってくると、一斉に体当たりして敵の動きを封じ込める種類のスライムがいるんです」

「そんなスライム聞いたことないですぞ」

「そりゃあ、そうでしょう」

 クロエは、驚きを隠せなかった。

「絶滅したはずなんです。古代王朝の頃までは生きていたらしいんですが……」

「なにぃ?」

 一方、ユリウスはというと、結局、動けなくなってしまった。

「お、おのれ……」

 足にへばりついたスライムを取り除けようとする。

 が、へばりついた粘液はなかなか落ちない。

「こんな小細工に私が負けてたまるか……」

 スライムを剥がすのは無理だと悟ったユリウスは、そのまま襲い掛かろうとした。

 が、身体がますます重く感じられる。

「あのスライムの一番厄介なところは、敵にへばりつくと、身体のなかで化学反応を起こして固まるんですよね。こうなると敵は動けなくなってどうにもならなくなる」

 クロエの説明など当然ユリウスの耳には届いていない。

 無我夢中で固まったスライムを剥がそうとするが、

「ユリウス! もう止めんか!」

 ついに、トーライム卿が叫んだ。

「トーライム卿……?」

「それ以上やらんでいい! おぬしの負けじゃ」

「しかし……」

「実戦でそんな目に合ってみよ。とっくに殺されとるぞ」

 そのとおりだった。

 ユリウスはすっかり我を忘れていた。隙だらけだった。戦場だったら敵に斬られている。

「いまのは油断しました。もう一度機会を……」

「たわけが!」

 トーライム卿は獅子のように吼えた。

「戦場に二度目があると思ってか!」

 そのとおりである。

 油断したらいけない。それは実戦でも練習でも同じことだ。

(まさかスライムに負けるとは……)

 ――史上最弱のスライムに負けたという屈辱。

 すっかり打ちのめされたユリウスは、その場で崩れ落ちるように膝をついた。

 その時だった。

「いまユリウスに勝ったの誰だ?」

 それは、ターバンを巻いた小柄な男だった。

 美しい緋色のマントを羽織っているが、顔は美男子とはお世辞にも言えなかった。鼻が大きかった。

「陛下……!」

 トーライム卿が驚いたのも無理はない。パルニスの国王であるレイウォンが練兵場に姿を見せるのは滅多にないことなのだ。レイウォンはクロエに気づくと、

「クロエちゃん元気?」

 にっこりと微笑みかけた。

「はい! おかげさまで」

 レイウォンはトーライム卿の方を向いた。

「卿に用があってきた」

「陛下がお召しにあれば、すぐに飛んでまいりますのに……」

「私が直接足を運んだ方が早い。それよりも、ユリウスに勝ったのは誰だ?」

 トーライム卿はアルブレヒトのことを説明した。

「アルブレヒトか。魔人武道会にねえ……」

「興味がおありのようで」

「ああ。彼と話をしたい」

 レイウォンは勝負を終えた二人に近づいた。

「陛下……」

 ユリウスは愕然とした。

 まさか国王のレイウォンにこの醜態を見られるとは思わなかった。

 ライトゲープ伯ユリウスは、恥辱のため顔を真っ赤にした。 

「ユリウス。仕方がない」

「陛下……」

「スライム投げてくる奴なんて大陸中捜しまわってもいないぜ。その格好では職務が勤まらないだろう。服を変えてこい」

 ライトゲープ伯ユリウスは、がっくりとうな垂れた。

 すっかり打ちひしがれたユリウスが、クロエの助けを借りながらスライムを剥がしているのを尻目に、

「君は強いね! ユリウスに勝つなんてたいしたもんだ!」

 レイウォンは感動をあらわにして、アルブレヒトの手を両手で握りしめた。

「この方は……?」

「パルニスの国王、レイウォン王陛下にてあらせられる」

 と、トーライム卿が勿体ぶった口調で言った。

「それは大変失礼いたしました」

 紫色の髪の少年アルブレヒトは恭しく頭を下げた。

 しかし、レイウォンは気さくな態度だった。

「魔人武道会に出るんだって? どこの出身なの?」

「北の方の名もなき村です。庶民です」

「でも、すごい指輪しているよね」

「冒険者をしていた頃に手に入れたものです。よかったらあげますよ」

「いや、結構。パルニスの男は指輪を嵌めない」

 レイウォンは笑った。

「それに贈り物にしても高価過ぎる。それは古代王朝時代の魔法の指輪だろう?」

「よくご存知で」

「古代王朝時代の魔術師は指輪のなかに怪物を飼うことができたと聞いている」

 レイウォンは握手したまま手を離そうとしない。

 超勇者アルブレヒトにとても興味を持っている様子だった。

「手が冷たいね」

「冷え性なもので」

「ふうん。さっきまでユリウスと激しくやりあっていたのに、汗一つかかない」

「そういう体質で」

「どうして魔人武道会に出ようと思った?」

「己の力をためそうと思ったんです」

 しかし、レイウォンは、

「私にはそれが理由には思えないなぁ」

 と、言った。

「君はなにか激しい恨みを抱いているように私には思えてならないんだ。社会を恨んでいる。べつに私やパルニスを恨んでいるようには見えない。でも、君は本当の自分を隠して生きているような気がする」

「気のせいじゃないっスか?」

 が、どうにか自制して平静をたもつことができた。 

「ふうん。そういうことにしておこう」



 ※



 アルブレヒトは無事に出場の許可をもらえた。

 クロエと肩をならべて街の中を歩いていた。


「すごい人なの? レイウォン王って」

「そりゃあ大変な名君ですよ! 人間と怪物が共存できるよう世界を創ろうとしている立派なお方なんですよ」

「へえ……」

「ありがたやありがたや。あのお方のおかげであたしは研究できるようなものですから……」


 そう言って、クロエは城のある方向を向いて、手を合わせて拝んだ。


「それよりも、宿とかないの?」

「ありますけど」

「よかったら案内してくれる? この世界の宿ってどんなの?」


 クロエはおかしな顔をした。


「ひょっとして、宿に泊まったことないんですか?」


 怪物の研究のために世界各地を旅してまわっているクロエからすれば、驚くほかない。

 もちろんこの異世界にも旅をした事がない者は大勢いる。

 むしろ現在の日本よりも旅をしない者は多い。

 車もなければ、電車もバスもないのだ。

 だが、アルブレヒトは冒険者なのだ。

 冒険していて、宿を使わないことがあるのだろうか……。


「俺、いつも野宿」


 アルブレヒトはそう答えた。


「俺、食べなくても寝なくても平気なんだ」


 クロエは、アルブレヒトをまじまじと見た。


「べつに町の中で寝てもいいんだけど、夜、ぶらぶら歩いていたり道端で寝ていたら変な人だと思われるだろう?」

「宿だったら酒場にありますよ」

「なんで?」

「なんでって、普通宿屋は酒場にあるものでしょう」


 この世界ではそういうものなのだと、アルブレヒトは納得した。


「それともうちに泊まる? 宿賃なら格安にしておきますよ」

「酒場で」

「そうですか……。せっかくいい小遣い稼ぎになると思ったんですが」

「苫小牧幸太郎って言うんだけど」

「知りません」

「『神の国』から来たんだけど」



「知りません。そういえば、『神の国』なら坂上利一という人が魔人武道会に出場するらしいとは言っていましたが……」



「それ、間違いないの?」


 アルブレヒトは真顔で訊ねた。


「え、ええ……。レイウォン王から聞いたんですが」

「クロエちゃん。デザート好きなんだってね」

 アルブレヒトは、クロエの肩をつかんだ。

「その話、もっと詳しく知りたいな。甘いもの好きなんでしょ? 何でも食べさせてあげるから……」

 いまふと思いついたんですけど、スライム風呂って気持ちいいんですかねえ?

 スパとかに置いてあったら人気がでるのでしょうか?


 読んでいただいでありがとうございました。

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