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最凶チート殺しの英雄迷宮  作者: 神楽 佐官
第一部『最凶チート殺しの内臓迷宮』迷宮編 第一章 不知火凶からアルブレヒトへ
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024 ヴァンパイアロード

 アルブレヒトは後方の吸血鬼の群れに視線を向けていた。

「まさか百匹全部集まったとか……?」

 フアナは恐怖のあまり、アルブレヒトの肩をおもわず掴んでいた。

 手が震えているのがわかる。


「いや、そんなにいないでしょ」

 と、アルブレヒトはのんぶりとした口調で答えた。


「せいぜい二十といったところでしょう」

「にじゅう……」

 フアナが絶句するのも無理はない。

 並みの冒険者が吸血鬼一人と戦うのも死を覚悟するほど大変なことなのだ。

 それが二十人。

 最初に会ったときとは違う。殺気を身に纏ってる。


(今度は俺たちを殺す気だな)


 アルブレヒトは、女砲兵を見た。

「これは……」

 呻くように砲術士が言った。

「最初から狙われていたね」

「どうしてあたしらを狙うのさ!」

 フアナが叫ぶ。

「それは君が我々の同志を最初に倒したからだ」

 と、吸血鬼どもの一人が言った。

「仲間がやられたら報復をするのは人間の世界でも同じことではないのかね?」


「こいつが殺ったんだよ! あたしは関係ないよ!」

 フアナは女砲兵を指差した。

「おばさん、あんたって人は……」


「あたしらは最下層まで降りて、レイウォン王と会うことができればそれでいいんだよ! 戦う必要なんかどこにもないんだよ!」

 一人を見殺しにして、自分は助かろうという魂胆である。


 しかし、

(無駄だよな)

 アルブレヒトは紫色の髪を掻いた。


(そんなに優しい連中じゃないだろ)

 予感は当たっていた。


「どのみち逃がしはしないよ。僕らはトーライム卿から参加者を奥へ入れないように命じられているのを忘れては困る。たっぷりとお礼をしないとね」

「君がリーダーか?」

「そうだよ。自己紹介が遅れたね。僕の名前はイサキオス」

「最近の子供は堂々としてるなぁ」

「いちおう三百歳だよ。ただしくは三百十二歳。偉大な始祖にくらべればずいぶん若輩者だが」


 ここにいるアルブレヒトたち四人の年齢を足しても全然及ばない。

「いちおう世間ではヴァンパイアロードと呼ばれているよ」


 ひっ、とフアナが悲鳴を上げた。

 ヴァンパイアロード。吸血鬼たちの主である。

 ただの吸血鬼とは格が違う。

 その力は魔王に匹敵すると言われている。

 断じて、断じて、迷宮の地下一階にいるような小物ではない。


「吸血鬼って、どうして血を吸うか知っているかい?」

 ヴァンパイアロードは微笑した。


「餌としてという理由もある。でも、一番の理由は仲間を選別することさ。我々はトーライム卿から出場者の行方を阻むよう命じられた。だが、正直な話、予選なんてどうでもいいのさ。僕としては友達が欲しかったんだ。新しい友達がね。吸血鬼は人間のように生殖をすることができいないんだよ。だから仲間を選別するしかないんだ」

 イサキオスは視線を向けた。


「でも、見つけたよ。僕のお気に入りの友だちをね」

「冗談じゃないよ! うちの娘を渡すわけにはいかないよ」

「できるかな? たかが人間の力で」


 イサキオスの背後に大きな影が浮かんだ。

 影は色がついて、らくだに乗った魅惑的な女性だった。

次の瞬間、猛烈な睡魔が襲った。

 女砲兵には、どうして眠くなったのかわからない。

 だが、魔女のフアナにはわかった。

 悪魔召喚である。

 魔法には様々な種類がある。

 が使ったのは暗黒魔法だ。

 悪魔の力を借りて敵を倒す魔法だ。

 恐るべき魔王の一人『ゴモムラ』である。

 ゴモムラは愛欲と眠りを司る魔王である。


「くっ……!」

 フアナは杖を握りしめて耐えようとした。

 だが、魔王の圧倒的な力には勝てなかった。

 眠りの世界へと落ちていった。

 フアナと女砲兵、そしてアルブレヒトは次々と倒れていった。

「お母さん!」

 カリアナは駆け寄った。

 フアナは安らかな寝息を立てている。

 カリアナの華奢な手首をつかんでいた。

「闇の世界は楽しいよ」

 カリアナの魔女としての力は強大である。

 炎の魔神イフリートの力を借りれば、ヴァンパイアロードにさえひけをとらない。

 しかし、年齢差は三百歳。

 戦いの経験の数が違いすぎる。

 さらにカリアナには戦闘経験がない。。

 この黒水晶の迷宮で戦うのは初めての戦いなのである。

 フアナさえも戦ったことがない。

 母娘ともに実戦が初めてなのである。

 その相手が、ヴァンパイアロードなのだ。

 勝てるはずがない。 


「君を僕の友達にしてあげるよ」

「ひいっ!!」

「そこの寝転がっている奴らは好きにするといい。新鮮な血を啜ったことがないだろう」

 吸血鬼どもが、いまにも涎を垂らしそうな顔で獲物たちに近づいた。

「お母さん!」

 そのときだった。

「よっこいしょっと」

 眠っていたはずのアルブレヒトが突然起き上がったのだ。

 吸血鬼どもの動きが止まった。

「馬鹿な……呪文が効いていなかったのか?」

 吸血鬼どもが驚くのも無理はない。

 ヴァンパイアロードの魔力は絶大である。

 尋常な人間では到底太刀打ちできないはずのだ。

 それなのに、アルブレヒトはまったく平気なのだ。

「俺、寝ないんだよ」

「はぁ?」

「吸血鬼は夜起きて、朝寝るんだよな? ところが俺は朝も夜も寝ないんだ」

「君は何を言っているんだ?」

「ヴァンパイアロードだったら俺を眠くさせてくれるのかなと思ったんだ」

 沈鬱な顔をしていた。

「いや、こういう状況だから、魔王にも匹敵すると言われる君の魔力だったら、俺に眠りを味わわせてくれると思ったんだよ。でも、寝ることができない。寝れないんだよ。いや、寝れないとかそんな甘いもんじゃないんだ。眠くならないんだよ。よく考えたら当たり前か。俺は睡眠の必要のない身体になっちまったんだから」

「眠りの魔法が効かないのか……? だったら……!」


 イサキオスは、地面を蹴った。

 接近した。

 目を瞬かせるほどの時間でしかなかった。

 アルブレヒトの身体に触れた。

 触れるだけで十分だった。

 麻痺攻撃だからである。

 四肢の神経を痺れさせて動けなくする。ヴァンパイアロードの麻痺攻撃は象の巨体が相手であろうと瞬時に運動機能を奪う。

 しかし……。



「無駄だから」

 両腕をぐるぐると回すアルブレヒト。

「俺は肩こりもしないし、筋肉痛もしないから」

 やっと話がチートっぽくなってきました。


 読んでいただいてありがとうございました。

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