021 美しすぎる少年
その少年の髪は栗色の巻毛だった。
カリアナよりもすこし背が小さかった。
天使のように美しい。
惚れ惚れするほどの美貌で、女性たちはしばらく言葉を失った。
「ねえ、こんなところで何をしているの?」
少年は、ひどく怯えていたが、カリアナが声をかけると、味方がきたと思って、
「うわああん!」
カリアナに抱きついた。
突然のことにカリアナはびっくりしたが、
「吸血鬼に襲われて……。怖くて……」
「落ち着いて」
カリアナが少年の巻き毛の髪を撫でた。
やさしいお姉さんがいて、巻毛の少年も安心した様子だった。
「それにしても綺麗な子だね」
フアナはまじまじと見た。
「見ていて吸い込まれるような美しさだよ。こんなにかわいい子を見たことがないよ」
しかし、フアナはどうも腑に落ちない様子だった。
「あんたみたいな子供がどうしてここに?」
「僕も出場者なんです」
フアナが呆れた顔をした。
「なんであんたみたいな子供がこんな危険な場所にいるわけ?」
「僕、お父さんが冒険者なんです」
それを聞いたフアナは、
「だから着ているものがいいんだね」
「どういうこと?」
「見てごらんよ。これは絹の服だよ。上等で高価な代物さ。冒険者でうまくいけば儲かるよ。王侯貴族のような生活だって送れるさ。だからみんな命をかけて戦うのさ」
「でも、お父さんいなくなっちゃったんです」
子供は急に沈んだ顔をして、
「冒険に出かけたきり、帰ってこなくなったんです。ギルドに問い合わせてわからないって……。僕が有名になれば、お父さんの居所がわかるかもしれないと思って……」
そう言って、少年はうつむいてしまった。
「お父さんがいなくなって何年になるんだい?」
「三年です」
「それだけ経っても帰ってこないってことは、もうとっくに死んでいるんじゃないの? あるいは他に女を作ったか……」
「お母さん!」
カリアナが怒鳴った。
巻毛の少年は目に涙を浮かべていた。
「可哀相……」
カリアナは少年の頭を撫でた。
「だからって、一角獣だけで吸血鬼と渡り合えるわけないよ! さっさと帰った方がいいわよ」
「ねえ、この子を一緒に連れていくことはできないの?」
ねだるように カリアナは言った。
「予選通過者は人数制限ないでしょう? 全員通過したってかまわないわけでしょう?」
「そりゃ、そうだけど……」
「ねえ、あんたはどう思う? こんな子供が迷宮を歩くなんて危ないと思わない?」
フアナはアルブレヒトに話を振った。
「受付の人は止めなかったの?」
「受付の人も心配そうだったよ。でも、僕が事情を説明したら『頑張って』といって認めてくれたんだ」
十歳の少年の参加をよく認めたものだと思う。
いちおう魔人武道会に出場資格はない。
誰でも参加できる。
だが、
(こんな子が戦えるわけがない……)
というのは誰の目から見ても明白なのだ。
しかし、それを言ってしまえばカリアナは十三歳だ。
「カリアナの場合はどうだったんだ?」
「あたしたちは魔女だからね。普通のお子様とは違うんだよ」
フアナが口をはさむ。
「それを言ったら僕だってユニコーンがいるし……」
ユニコーンは見た目よりも凶暴だ。
穢れなき者にはおとなしいユニコーンだが、そうでない者は容赦なく頭の角で突き殺すという。
「でも、ユニコーンって吸血鬼よりも強いのかい?」
少年は黙った。
吸血鬼に勝てなかったから、こうして泣いているわけだ。
「たぶん、あいつらは怖がらせて楽しんでいるのさ。殺そうと思えたら殺せたんだ。考えてごらんよ。吸血鬼にかかったら、ユニコーンなんてとても太刀打ちできないだろう?」
「その点については俺も同意しますが」
「奥にはもっと恐ろしい怪物だっているんだよ? やっぱり帰らせた方が身のためじゃないのかい?」
「べつに連れて行ってもいいんじゃないのかい?」
と言ったのは意外にも女砲兵だった。
「あんた、決勝進出者は一人でも少ないほうがいいだろう?」
「それはあくまでも強い奴の話」
と、砲術士は言った。
「ユニコーン連れの子供なんか怖くないさ。レイウォン王に父親を探してくれっていうのも健気じゃないか。親子の絆は大事だよ」
「でも、食べ物はどうするんだい?」
フアナはなおも食い下がる。
「僕、小食ですから」
と、言った。
「もらった三日間の食事だけで十分です。皆さんで分けてもらって結構ですから」
女砲兵は、フアナの顔色を窺うように見た。
ここまで言われて、
「わかったわよ。好きにしなさい」
「よかったね」
子供は心から嬉しそうな顔をした。
だが、フアナは渋い表情をしている。
「あたしは反対したことをよく覚えておくんだよ」
「その子供が嫌いなのか?」
「違うのさ。その子が美しすぎるのが問題さ」
「……なんで?」
「あたしたち魔女の世界では、美しすぎるものは不幸を招くといわれているのさ。この子は綺麗すぎるんだよ。災いを呼ぶかもしれない」
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