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最凶チート殺しの英雄迷宮  作者: 神楽 佐官
第一部『最凶チート殺しの内臓迷宮』迷宮編 第一章 不知火凶からアルブレヒトへ
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017 迷宮に突入

 参加者たちは黒水晶の迷宮の前に集まった。

 が……。


「さて、誰から入るのか」


 誰も入ろうとしないのだ。

 最初に入った人間が、一番危険だから。

 真っ先に怪物どもの標的になる危険性が高いわけだ。

 誰だって、できることなら不必要な危ない目には会いたくない。

 じろじろ、と、お互いに横目で見る。


「あんた、男だろう? 入らないのか?」

「俺はレディーファーストなんだよ」

「はっ。よく言うよ。山賊のくせに」

「それを言ったらそっちだって魔女じゃねえか」

 などと我が身かわいさゆえのゆずり合いをしていると、


「嫌な臭いがしますわ」

 と、とある女性が言った。

 その女性はフアナたちよりもさらに奇抜な格好をしていた。


 全身に宝石をちりばめている。

 水着同然のすがた。

 マントにサンダル。豊満な肉体。


「寒くないんですか?」

「ええ。むしろ暑いくらいですわ」

 奇妙な女だね、とフアナは言った。

「いやな匂いって、あんたの体臭じゃないんだろうね?」

「これは魔除けの薬草を肌にすり込ませているのですわ」

 近づいてみると、たしかに柑橘系の臭いがした。


 フアナは魔女なので、薬草の知識がある。


「初めまして。私はアカンサと申します。魔術師ですわ」

 杖が、フアナたちとは違う。

 フアナとカリアナの杖は木でできた素朴なものだ。

 しかし、アカンサの杖は金でできている。杖の頭部には巨大な蒼い水晶がついている。


「どこの魔術師だい?」

「ティターンです」

「ちっ。エリートさんか」

 だが、アルブレヒトはいたく興味を抱いた様子だった。


「王立魔術院ですか?」

「はい。今でも在籍しています」


「では、ヌジリさんは知ってますか?」

「それはもう! 伝説ですわ!」

 アカンサはすっかり興奮して、

「私たちの間では偉大な魔術師ですわ。皇帝に疎まれてティターンを去ったのですが、どこにいるのでしょう……」

 師であるヌジリが褒め称えられているのを耳にして、アルブレヒトは誇らしい気持ちになった。


「それにしても魔物の臭いがすさまじいですわ」

「迷宮なら魔物が棲みついて当たり前だろう?」

「でも、こんな入り口から濃厚な瘴気が漂っているなんて滅多にありませんわ。私も魔術師ですから、迷宮についての知識はありますよ」

 口に手をあてて、不安そうにしている。


「あんた、いくつ?」

「二十一歳です」

 二十一歳といえば立派に大人だが、それにしても色香がある。

 三十歳と言っても驚かない。


(さて……)

 あまり時間を潰すわけにもいかないので、

(俺としてはどっちでもいいんだけど、入っちゃおうかな)

 アルブレヒトが迷宮に入ろうとしたそのとき、

「皆さん、怖気づいているようですな」

 一人の人物が前に進み出た。


「それでは私が先陣を切りましょう」

 そういって、前に進み出たのは、白い羽のついた大きな帽子をかぶっている黒服の男だった。

「あんた、剣士か?」

「ただの剣士ではない。魔法剣士だ」

 魔法剣士が笑うと、白い歯がキラリと光る。

「そして冒険者」

「冒険者には見えないね」

「それはきっと私が貴族出身だからだろう」

「貴族?」

「さよう。これでもエルセリア王国の男爵でね」

「ああ、そう」

 フアナはあまり興味なさそうな様子だった。


 男爵といえば立派な貴族、教会に捕まったら火あぶりになる人間以下の存在のフアナたちとは天地ほどにも身分が違うが、

(小国の男爵じゃあね……)


 欲の深いフアナにとっては格の低い相手だった。

(それに冒険者になる貴族ってのは、たいてい嫡男じゃないからね)

 つまり結婚しても財産を継げるとはかぎらないのだ。


「見掛け倒しじゃないんだろうね?」

「正真正銘の貴族です。私の家は二百年続く由緒ある家柄で……」

「違うさ。あたしが言っているのが腕のほうさ」

「マダム。よく考えていただきたい。見掛け倒しがサイクロプスを連れて歩けると思いますかね? この腰のレイピアで斬った怪物は千匹を超えるのですぞ」

 魔法剣士の背後には、大きな棍棒を手にした一つ目巨人サイクロプスが立っていた。

「うわ……」


 思わず見上げてしまう。

 その膂力はトロールをはるかに凌ぐ。

 当然、フアナはサイクロプスの強さを知っている。

 たとえ知らなくても、数メートルの大きな身体なのだから一目で強いとわかる。


「この大会に出ようとしたのは金が目的かい?」

「とんでもない。私は貴族ですぞ。金よりも浪漫のために戦っているのです」

 尊大なところもあるが、サイクロプスに勝ったということはその実力はハッタリではない。

「パルニスは尚武の国だと大陸中に名を轟かせておりますが、エルセリア王国の武もパルニスに劣らぬものだと証明してみせましょうぞ。それではいざ参らん」

 そう言って、サイクロプスとともに迷宮のなかへと入っていった。


「じゃあ、僕も行くか」

 背の高い、気品のある青年が前に進み出た。

 美形なのか、そうではないのか……。

 さっぱりわからない。

 なぜなら前髪が垂れていて、目元が見えないのである。

(ちゃんと前見えるのかな……)

 と、心配になってしまう。


「お待ちください。王子」

 青年が迷宮に入ろうとするのを、女剣士が押しとどめた。

 その女剣士は眼鏡をかけていた。金髪で額が広い。

「どうも嫌な予感がします。もう少し待って様子を見た方が……」

「王子?」

 フアナが反応した。

 驚いた顔をしたが、

「どこかの国の王子なの?」

「失礼……。あだ名です。商人の息子ですから。王子がそう呼べって言うから……」

「王子は王子だにゃ」

 と、言ったのは獣人の少女である。

 長い金属の爪を装備している。きっと王子という人物の連れなのであろう。

「というと、お金持ちの家なの?」

「それについては何とも……」

 曖昧に答えた。

 が……、

(嘘の下手な女だね)

 フアナは、相手の女が何かを隠しているだろうと思った。

「あんた、怪物いないの?」

「必要ありませんわ」

 は胸を張って答えた。

「これでも元軍事教官ですから」

「ほう……」

 フアナは、女性剣士の身体を上から下まで舐め回すように見た。

「それにしちゃあちょっと体型がぽっちゃりなんじゃないの?」

「失礼なことを言わないでください!」

 元軍事教官の女性は顔を真っ赤にして怒鳴った。

 二人が話し込んでいるところに、



「ひいっ!!」



 悲鳴が迷宮から聞こえてきた。

 先ほどの魔法剣士の声だった。

 つづいて、断末魔のような声が聞こえた。


「おい……」

「ひょっとしてやられたか……」

「まさか。サイクロプスがそう簡単にやられるかよ」

 やがて、フランソワが這うように逃げ戻ってきた。

 手にしている剣は折れている。

 先ほどまでの威勢は無残に消え失せていた。


「おい、どうした?」

 真っ青になって逃げ戻ってきたフランソワを見て、他の出場者たちが嘲笑った。

「サイクロプスはどうしたんだよ?」

「それが……」

 フランソワは首を横に振った。

 誰も信じなかった。

 サイクロプスを瞬殺できるような怪物など滅多にいない。

「どんな怪物が棲みついているというんだ?」


「吸血鬼だよ……!」


 挑戦者が恐怖のあまり幻覚を見たのかと思った。

 吸血鬼。夜の貴族と呼ばれる。

 冷酷で残忍な魔物として知られている。魔物たちのなかでも恐ろしく強い。

 吸血鬼なら、サイクロプスを倒しても不思議ではない。


(でも、まさか吸血鬼など……)

「事実じゃ」


 出場者の視線がトーライム卿に集まった。

 皆の顔色が青くなった。

「だとすると大変なことだな……」

 先ほどの黄金の鎧の戦士が頭を抱えた。

 吸血鬼は並みの戦士が太刀打ちできるような生やさしい相手ではない。

「諸君に言っておく。今のうちに逃げた方がいい」

「そりゃあ、あんたは逃げた方がいいだろ。人前でこんな醜態をさらしてしまったのだから」

「私はこれでも魔物を千匹以上倒したんだ!」

「スライムでも千匹倒したのか?」

 誰かが言うと、皆がどっと笑いだした。



「私だって冒険者だ! 危ない橋はいくつもわたってきた! いいか、問題なのは吸血鬼が一階にいるということだ!」



 皆、一斉に笑うのを止めた。



「百階ある迷宮の一階でいきなり吸血鬼が出てきているんだ! 諸君はそんな迷宮を聞いたことがあるかね?」



 皆、静まり返った。

 フランソワの言うとおりである。

 吸血鬼というのは魔物の世界でもとくに上位の存在なのだ。つまり、

(一階に住んでいるような……)

 雑魚ではないのだ。


 つまり、奥にはもっと強い奴がいるということなのだ。


「いくらなんでも吸血鬼よりもヤバい奴らがいることは……」

「そいつの言うとおりじゃ」

 トーライム卿だった。

 大会の主催者が認めたのだ。

「吸血鬼が一番弱い。吸血鬼程度でビビっとるようじゃ生きていけんな。ちなみに迷宮には吸血鬼は百匹いるぞ」

「ひえっ……」

「もう一度言う。帰りたい奴は帰っていいぞ」

 それを聞いて、参加者の十分の一は即座に逃げ去った。つづいて十分の一が逃げた。そして十分の三が悩んだ末に去っていった。



 出場者のうち半分が命が惜しくて、迷宮に突入することなく去っていった。

 読んでいただいてありがとうございました。


 やっと、戦闘の場面に入れそうです。

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