校舎前、プロムナードにて
「門を抜けて校舎の根本までやってきたわけだけど」
「…………」
「こりゃまたデッカイ建物だこと。なんでまたこんな高い建物がゴチャゴチャしてるところなんかに学校を作るんだか。もっとだだっ広い土地があるようなところに作りゃあいいものを」
「…………」
「この建物……っていうよりビルって呼んだほうがしっくりくるか。このビルがワルキューレ女学院の校舎なんだってさ。パンフレットかなんかに書かれてたけど、地上が70階、地下7階もあって、その中に教室とか体育館とか食堂とかゼーンブ収まってるんだよ」
「…………」
「こんな超リッチっぽいところを、一学年が150人ぐらいだっていうから全校生徒が450人ぐらいでしょ、450人が学ぶためだけに創られたっていうんだから常識をぶっ飛ばしてるよね」
「…………」
「……さぁ、結良に問題です! ウチは今、どのような話を結良にしていたでしょーか?」
「……へ? な、な、何か言った?」
「やっぱし……。聞いてよー、ウチの話。せっかくこの学校の凄そうなところを予習しておいて、結良のために発表してあげてるんだからー」
「…………」
「……あのー、結良さん?」
「……へ? な、な、何か言った?」
「ダメだこりゃ。緊張し過ぎで歩くのがやっとって感じになっちまっとる。結良? プリーズウェイト」
「へ? へ? さささ沙織? どどどうしたの?」
「お手本通りの噛みっぷりだなー。ウチの名前は"さささ沙織"ちゃんかい。いい? 結良。とりあえずちょっと立ち止まって」
「た、立ち止る? こう?」
「うわー、ウチ、立ち止り方を確認されたの初めてだ。そうそう、結良。上手に立ち止れてるよ」
「本当?」
「ホントホント。それだけ上手だったらオリンピック代表候補ぐらいにだったらなれるかも。よーし、そしたら大きく息を吸って深呼吸ー」
「しん、深呼吸? スー」
「いいねー。そうやって心を落ち着かせていこう」
「スーー」
「そうやって、そうやって……?」
「スーーー」
「ストーーップ! 結良! 深呼吸ってのは息を吸うだけじゃダメなの。息は吸ったら吐かないと」
「ごほっごほっ。そそ、そうだよねー。ハハ。おかしいな。わたし何やってるんだろ? 世界にはお花畑がたくさんあって海賊たちがトッポギを食べながら……」
「ストーーップ! 結良! それよくわかんないけど、よくわかんないけど多分それ幻覚だから。自分の世界の中に迷い込んじゃダメだって。帰ってこーい、結良ー」
「…………は! あれ? わたし、今まで何してた?」
「おー、戻ってきた。よかったよかった。結良さんね、今ね、意味不明なことを口走ってましたよ。お花畑とか、海賊とか、いろいろ」
「! わ、わたしがそんなこと言ったの? ……そういえば学校の門をくぐってからの記憶が全然ない」
「きっと緊張のし過ぎでエキセントリックなガールになってたんだな。一応確認だけど、今の結良は結良ってことで間違いないかな?」
「……うん。きっと」
「なぜに自信がないのさ。まぁいいや。こんなとこでずっと立ち止ってたら、ホントに不審者だと思われちゃうかもだから。とりあえず歩くよ」
「……これからどうすればいいんだっけ?」
「ん? これから? ウチはこのまま校舎に入らないで、結良の緊張してる表情をずっと独占してよっかなー。なかなか面白いから」
「これからどうするの!?」
「はいはい。それぐらいこの前来た手紙に書いてあったでしょ?」
「……記憶が飛んじゃってるみたい」
「ありゃりゃ、それはご愁傷様。それじゃ親切な沙織様が教えて進ぜよう。これから校舎に入って一階のエントランスロビーに貼られてるクラス分けを見る。そしたら案内に従って第一体育館へと向かう。まぁ簡単」
「…………あぁ、そうだ。思い出した。ちなみに向かうのは第一体育館じゃなくって第二体育館だよ」
「そうだっけ? でも案内に従っとけばいいんでしょ? 別にどっちでもいいや」
「……わたしと逸れて迷子にならないようにね」
「吹くじゃん? なかなか普段通りの結良に変化してきたみたいだ」
「変化って。わたしは化けないから。……なんか緊張のし過ぎで吹っ切れちゃったみたい。さっき意識が戻ってから、少し落ち着けてる」
「そっかー。あの意味不明な言動も結果オーライってことか。それじゃちょうど落ち着きを取り戻せたみたいですし、この訳わからんドデカい入り口から中へと入ってみましょーかね」
「…………それでも緊張する」
「でも今はまだマシなんでしょ? じゃあ今がチャンスだ! 突撃ー!」
「待って! 沙織。まだ心の準備が……」
「うるさーい。準備なんてしてたら緊張を増し増しにするだけなんだから。ほら、一緒に来ないと置いてくよ」
「~~! わかったよ。行くよー」