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初登校

「あのさ、結良(ゆら)? ……結良ってば!」


「……え!? 何?」

「そんなさぁ、下ばっか向いて歩いてたら人とか電柱とかにゴッツンコしますぞ。危ないよ」

「…………だって緊張しちゃって……気分が……。沙織(さおり)は大丈夫なの?」

「そんな、当然でしょ? ウチが緊張するような人間かどうかなんて結良が一番知ってるじゃないっすか」

「まぁそうだけど……。いいよね、沙織は。そんな胸を張って、こんな大きい建物ばっかりの大都会東京を歩いていけるんだから。羨ましいよ」

「ふーん。胸を張ってとか乙女が口にすると、なーんかちょっとエロいなー」

「! や、止めてよ、沙織! そんなこと言うの! ……わたしが恥ずかしいことを言ったみたいになっちゃう」

「そんな顔を真っ赤にしちゃってー。初心(うぶ)な奴よのう。公然で猥褻(わいせつ)なことを言ってたくせになー」

「ぃ、言ってない!」

「そんな怒りなさんな。冗談冗談、ゴメンって」

「だって、だってさ……もしこんなことを同じクラスになるような子に聞かれちゃって、わたしが学校で変な噂をされるようになっちゃったら?」

「うん。それはそれで面白い」

「もう知らない!」

「わーって! ちょっ待って! そんな早歩きするとホントに電柱とゴッツンコからのガッツンコとかするって! おーい、結良ー!」


「…………まったく。すぐ沙織は調子に乗るんだから」

「ゴメンってー。反省します、反省しますよ。グスン」

「……本当に謝る気、あるの?」

「そりゃーもちろん。今なら逆立ちできちゃうぐらいに頭を下げられるよ」

「…………」

「ちょっ結良ー。そこで無視はないよー。今のはツッコミありきのボケだったんだからさー」

「もう沙織となんて話さない」

「そんなこと言わないでよー、悲しくなるじゃん。ほら、これまでの楽しーいジョークは結良様の緊張を少しでも解いてあげようと思う、ウチの親心みたいなやつなんだからさー」

「……わたしの親が沙織なんてゼッタイに嫌!」

「そう! そんなツッコミをウチは待ってたんだよ。さすがは結良。いつもの調子を取り戻してきたかなー?」

「…………」

「わー、怒ってる、怒ってる。短気は損気だよー。せっかくの初登校なんだから、損なんてしてたらもったいないじゃんよー」

「……怒らせてくるのは沙織でしょ?」

「違いない。でもまぁそこは心の持ちようってことにしておいて。ね? ね?」

「……沙織がブリッ子ぶっても、自分が思ってるほど可愛くないからね」

「くわー! こりゃまた厳しいツッコミ! 恐れ入ります」


「……相変わらずテキトーなんだから。なんでそんないつも通りでいられるの? 少しはわたしにもその図太い神経を分けて欲しいよ」

「別に結良だって普段通りにしてりゃいいじゃん? そんな鞄を両手で抱えて持って、下を向いてオドオドしちゃって。傍から見たら不審者だと思うよ? いや。ずっと俯いてる感じは不審者というよりも、むしろ自殺志願者っぽいかな?」

「~~! そんなこと言ったって緊張しちゃうんだもん。あーもうヤダ。帰りたいよ」

「おやおや? 佐々木結良さんは高校ライフ初日からサボリでございますか。そんなやさぐれた少女に育ってしまったとは。親心がズキズキと痛んじゃうよ」

「わたしの親が沙織なんてゼエッタイに嫌!」

「はいはい、わかってますよーだ。ウチの子供だったらこんな緊張しいに育つはずがないもんね」

「うー、学校着いたら知らない人ばっかだよ。もし沙織と同じクラスになれなかったらどうしよう。あーどうしよう、どうしよう」

「そんな悩んだって仕方ない。どれだけ悩んだって運命は既に決められているのだ。受け入れなさい。アーメン」

「沙織は宗教に興味なんてないでしょ? はぁ、やっぱりわたしなんかが来てもいいような場所じゃないんだよ。だって超エリート校でさ、みーんな高い志しを持ってさ。わたしみたいな田舎者がフラッとやってきちゃダメなところなんだよ、絶対」

「こらこら、自信を持ちなさい。結良だってちゃんと受験をして受かったから入学できるんであって、自分にそれだけの能力があるってことなんだからね。『田舎からフラッと』じゃなくって、『田舎に錦を飾ったるぜベイベー』ぐらいのつもりで行かないと」

「何がベイベーなんだか。それにわたしなんか、沙織が『この高校を受験するから』なんて言ってたのに付いてきただけみたいなものだし。受験に受かったのだって奇跡にしか思えないし。だってわたし全然才能ないもん。才能が無かったらこれから……」

「でも努力はしてきたでしょ? ウチは見てきたんだから。結良が寝る間も惜しんで机に向かって勉強してるのを。そりゃ確かにウチらがこれから学ぶことは才能がどうしても重要視されちゃうけどね。それでもその才能を補って余りある実力を結良が手に入れることができたから、今こうしてウチと一緒に登校できてるんじゃん? もっと誇りに思ってよ。なんたってウチと同レベルってことにさせられちゃってるんだから」

「……その言い方だと、わたしを励ますことよりも自分を持ち上げることに重点を置いてない?」

「気にしない気にしなーい。とにかく! こんなカワイイ制服を着れてるんだから万事オッケー! まぁ何はともあれ、ウチらはウチららしく高校生ライフを満喫できればいいんだよ。他に難しいことなんて考える必要ナッシング!」

「…………そうだよね。せっかくなんだから楽しまないとだよね」


「はい! そんな決意を新たにした結良さんに朗報があります!」

「朗報? 何?」

「えー、結良さんはずっと俯いていたため気付いていないかもしれませんが……が!」

「え? 何? 早く言ってよ」

「まぁ顔を上げて御覧なさい」

「顔を上げる? 何かある……の…………!? えっ!? ここって……」

「うわー。全くリアクションがないと思ってたら、ホントに気づいてなかったんだ。やっぱ結良は天然だよなー」

「……ここって? ……ここって!?」

「そんな聞く必要ないでしょ? ウチらはなんのためにここまで歩いてきたと思ってんの?」

「……到着しちゃったの?」

「らしいね。そう! このデッカイ建物こそ我らが高校! "魔導局立ワルキューレ女学院"であーる!!」

「! ちょっと……。あんまり大きな声を出さないでよ……。周りにたくさん人がいるんだから……。恥ずかしい」

「恥ずかしいなんてなんのその。楽しい高校ライフにするんでしょ? だったら自由を愛していこうじゃないか」

「……沙織は自由過ぎるの」

「褒め言葉として受け取っておくよ。さぁって、そんじゃこの立派な門をくぐるといたしましょうか。なんでこんなに門がでっかくなくちゃいけないんだろ? 無駄に見栄を張ってるんだなー」

「わ、わたしがこんなところに入るなんて」

「あっ、そうだ。門を通る時はこの端末になんかのページを表示しないといけないんだっけ? タブレット型端末『マグタブ』でしょ?」

「うん。これに学生証画面を表示して門を通ることでセキュリティチェックをしてるらしい」

「ふーん。こんな凄そうな機械を入学する人全員に無償でプレゼントしてるんだよね。なかなかの太っ腹具合だね。結良のウェストじゃ敵わないね」

「……どういうこと?」

「結良さんはスリムってことですよ。物理的にも精神的にも」

「……どういうこと?」

「細かいことは気にしなーい。さて、学生証画面はどこかなっと。ホイホイっと」

「…………わたしもくぐるんだよね。このワルキューレ女学院の門を」

「モチのロンだよ。さぁいくよ。ウチみたいに胸を張って! 別にエロくなんてないから」

「知ってる!」

「そうそう、その勢い。そいじゃウチらの新たな未来への一歩になるんだから。噛み締めて入りましょー」

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