ある不思議な日
今、僕は空き地の入口に立っている。すぐ隣りを子供が駆けて行く。
走っていくほうを見ると、5人ほどの子どもが集まって何かをしている。
「やったー!また俺の勝ちっ」
「うわー、3連勝だよ。やっぱかっちゃんすげーな」
「なんかコツでもあるの?」
「へへーヒミツー」
どうやらベーゴマをやっているらしい。自分たちで作ったのだろう、手作り感の溢れる台だ。
しかし、さっきから思っていたが、子供たちの様子や、そのベーゴマにしても、町の感じにしても、どこか昔の感じが漂っている。高層ビルどころか、周りの建物はすべて木造のようだ。
その中でGパンにTシャツという僕の格好は異質に感じた。
でも、みんな僕に気付かないのか、特に注目を集めるということもなかった。
これは俗に言うタイムスリップというやつなのだろうか。
とりあえずもう少し見回ってみようと空き地の外に足を踏み出した途端、急に視界が真っ暗になり、次の瞬間には再び同じ空き地に立っていた。今度はさっきの子供たち4人が紙を丸めて作った剣でチャンバラごっこをしている。最近だと、外で遊ぶ子供なんてあまり見かけないから少し新鮮だ。
そんなことを考えながらぼんやりしていると、煙の匂いが微かにし始めた。
空き地から出て住宅街を彷徨ってみると、黒い煙が立ち上っている家があった。
走って近くまで行ってみると、ちょうど隣から慌てていたのだろう、パンツ1枚のおっちゃんが出てきた。そのおっちゃんは大声で「上原さん家が火事だ!」と叫ぶと家に戻っていった。
その声を聞いてか、ぞろぞろと人が集まり始めた。
「中に子供が残ってるそうだぞ!」
という声が近くで響いた。途端にざわざわとした声が大きくなる。
すると再び登場した隣のおっちゃんが「俺が行ってくる」と言って周りが止めるのも聞かずに、全身に水を被って火の手が上がり始めた家の中に突入していった。
ちょうどその時、突然足元がグラグラと揺れ始めた。
地震かと思ったが僕以外は何も感じていないらしい。
揺れはどんどん激しくなって、耐えきれずしゃがみこんだ。
足元を見ると僕の周りだけ、いつの間にか地面はなくなっていて真っ暗な穴があいていた。
そのまま重力に逆らうことなく、僕はその穴に落ちていった。
「…ちゃん。お兄ちゃん!おきてよ!!」
お腹のあたりに重みを感じて目を開けてみると、8つ下の妹が僕に乗っかって、起こそうと体を揺すっていた。
「…おはよう」
「おはよー。…なんでお兄ちゃん泣いてるの?」
そう尋ねられて自分の指で目元を触ると、確かに涙で濡れていた。
「ホントだ。なんでだろうね?」
その答えに妹は不満そうにしていたが、本当にわからないようだと分かると、諦めておとなしく上から降りてくれた。
「あ、おとーさんが、そろそろしゅっぱつするよー、って」
「何かあったっけ?」
「もー!おじーちゃんのおはかまいりに行くんだよー」
そうだった。今日がじいちゃんの命日で、お墓参りに行くからって昨日言われてたんだった。
妹には先に行っといてと言い、急いで着替えてからリビングに降りていった。
外に出ると、冷たく乾いた風が吹き抜けていった。
お墓の掃除が終わり、帰り道でなんとなく気になったことを父さんに聞いてみた。
「ねえ、じいちゃんってなんかの病気だったの?」
「そういえば話したことなかったな。爺ちゃんは火事でね。一酸化炭素中毒だったらしいんだ。」
「え、おじーちゃん、かじでしんじゃったの?」
そう隣を歩いていた妹が驚いたように言うと、父さんは首を縦に振りながら
「正確には、火事になった家に残ってた子供を助けようとして、なんだけどね」
妹はおじーちゃんかっこいい!と目をキラキラさせて喜んでた。
「でさ、その子供って結局助かったの?」
「うん。今も元気にしているよ。ほら、あの人」
前の方を見てみると、父さんより少し年上ぐらいの人が奥さんらしき人と二人で歩いてきた。
その男性は父さんと少し話した後、僕たちにも会釈をしてお墓に向かっていった。
「ねえ、あの人って上原さん?」
ふと聞いてみたくなって口にすると、父さんは驚いた様子で
「そうだよ。でもなんで知ってるの?言った覚えはないけど…」
戸惑っている父さんに、僕は「なんとなく」とだけ言っておいた。




