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妖祓いの少女  作者: ろか
和ノ国
1/11

プロローグ:二大陸戦争から

 はるか昔の、戦争の話をしよう。

 魔力を持たない人間と、魔力を持つ魔物が争った戦争、二大陸戦争の話を。

 戦争の発端は、魔物に喰われることに耐えられなくなった人間らが、ある鶏鳴狗盗な男を筆頭に魔物を大量虐殺したことである。

 同胞を憎しみという感情だけに身を任せて殺した人間らを、魔物たちは許さなかった。



 はじめは魔力を持つがゆえに優勢であった魔物軍であったが、人間らが〝ルエラの涙〟と呼ばれる核兵器を使用したことによって戦況は一変。

 大陸を二つに割るほどの威力を持ったそれは、魔物だけでなく様々な生き物を無差別に殺した。大陸が一瞬にして禽獣草木の悲鳴と鮮血で染められた。

 それが、物の怪と呼ばれる新たな生き物が生まれるきっかけとなった。

 物の怪とは、魔物とは関係のない獣たちが憎悪と怒りにより別の生き物へ変化してしまった姿のことを言う。

 憎しみという感情が、ある生き物を別の生き物に変えてしまったのである。

 獣というカテゴリーから外れ、かといって魔物に分類されるわけでないそれは、物の怪という新たな生き物として今でも世に蔓延り、その力を強めている。

 獣が物の怪に変化するその瞬間は、言葉では表現できないほど、おぞましいものなのだという。

 獣らはぼたぼたと大粒の涙を流しながら物の怪へと姿かたちを変えるのだ。

 言葉を話せない彼らの心情を知ることはできないが、それを見るだけで彼らがどれほどの怒りを、悲しみを抱いて物の怪へと姿を変えるのかを察することはできるだろう。



 数々のものを破壊した二大陸戦争に勝者はいない。

 ルエラの涙投下後、戦況を見かねた人間と魔物の混血の民――――〝タルマの民〟が魔物側につき、参戦。

 数は力である。

莫大な数にまで膨れ上がった魔物軍は、人々を《最後の砦・トールの塔》まで追いつめたものの、憎むべき人間らに制裁を加えることなくその場を去っていったという。

 魔物は人を、赦したのだろうか。

 食物連鎖という戦争に負けた腹いせに魔物たちを殺した人間を、赦したのだろうか。

 いまとなってはそれも、知るすべはない。

 すべては、闇にほふられたままなのだから。




 二大陸戦争後から約二〇〇年あまりの間を、暗黒時代と呼ぶ。

 二大陸戦争が起こった大陸の歴史についての書物は何一つとして残っていないことから、そう呼ばれるようになった。

 いくつも存在していたどの国も、歴史書に関わらず、輸出入や住民の戸籍表など、国を運営するには必要な記録書物すらも残していない。

 人々は、暗黒時代後からすぐ、魔術を使えるようになった。

 人間の体内には魔力をためる袋はあるが、魔力をつくりだす器官は無い。

 そんな人間が魔術を使いだしたきっかけがあるはずなのだ。

 暗黒時代の最中に。 

人々はなにかを、したはずなのだ。

 そして、暗黒時代に、いたはずなのだ。

 すべての国を支配した支配者が。

 すべての〝歴史〟という財産を破棄した〝人間〟が。

 我々はそれを知るべきだ。

 私はそれを、死ぬまで探し求めるだろう。

 たとえ、それが〝チザイ〟と呼ばれる罪だとしても――――――。

 



    七月十四日

 ドラウ・アッカーマンの日記より


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