イメージ的には頭脳派だけど、意外と実際は肉体派なことってあるよね。
今話で第一章は終わりです。
「おらぁぁっっ!!!」
ブォンッ!
「ぶひゃ?!」
ドズンッ!
弧月君が思いっきり腕を振り回しただけで、豚村は反対側の教室の壁に叩き付けられていた。
私を殺そうとした奴とはいえ、いやぁ、哀れ……。
しかし、どんな筋力だいったい。
「で、何で駆柳君がここにいるの?て言うか、どうやって来たの?」
私の問いに駆柳君は、
「ヒント1、鳥居は神様が通る門です。まあ、例外もあるが、今回のおれ自身が例外だな」
「神様なの?」
「例外っつったろーが」
パシンッ
「ふぎゃっ!?」
私のおでこに軽く当てられたデコピン。
痛いは痛いけど、それほどでもない。
この時点では全然分からなかったけど、駆柳君の次の一言で気付いた。
「なあ?麻雀誘われてるから、とりあえずもうこれで良い?」
これ、さっきも聞いたばかりの…、ん?
間違えた。
さっき見たばかりの文章と同じ台詞。
「あああああぁぁぁぁーーーーーーーっっ!!!!!」
「うおうっ?!何だ?!」
急な大声でビックリした駆柳君にかまわず、そのまま私は言い切った。
「コックリさん!?」
「気付くの遅くねぇ?!」
そうだよ!
コックリさんをして、コックリさんに助けを求めたんだもん!!
コックリさん以外ないじゃん!!!
あ、そうだ。
お礼言っとかないと。
「コックリさんコックリさん、助けてくれてありがとうございます」
「ん?おぉ」
素っ気なく、私のお礼を流す駆柳君。
そのあまりの素っ気なさに訝ると、
「ぶ、ぶひゃひゃひゃぁぁぁぁ………」
「やっぱり、人間って無駄に頑丈だな」
その視線の先には、ゾンビよろしくな感じで立ち上がる豚村がいた。
なるほど。
駆柳君はこれを見越していたから、警戒していて態度が素っ気なかったわけか。
「ぼ、僕と邦恵ちゃんの仲を邪魔するなぁぁぁっっっ!!」
ナイフを握りなおし、駆柳君に突進する豚村。
それに対して駆柳君は、ゆっくりと右腕を振りかぶり、
「はい、どーん」
ゴドォッ!!
「ぶひゃらっ?!」
恐ろしく軽く、恐ろしい威力の右ストレートを豚村の顔面に叩き込んだ。
そのまままた教室の壁に叩き付けられ、今度こそ気絶する豚村。
それを見て思う。
………コックリさんって、なんなんだろう。
こんなに肉体派なイメージはなかったんだけど。
そんなことを思っていると、駆柳君はこちらに振り返り、
「どうよ?」
「うん。助けてもらってありがたいけど、そのドヤ顔がウザイね」
凄いドヤ顔で感想を求めてきた。
さすがにこのレベルのドヤ顔はないと思う。
あ、そうだ。
「助けてもらったお礼に、何かご馳走したいんだけど、この後ちょっと大丈夫?」
ちゃんとお礼はしとかないとね。
「あー、麻雀誘われちゃってるからなぁ。ちょっと待ってくれる?」
「いいよ」
そう言うと、制服のポケットからスマートフォンを取り出す駆柳君。
何気に最新式だ。
スマートフォンを操作し、通話を始める。
「あ、もしもし太郎?俺俺ー。今日の麻雀さ、ちょっとばかり遅れるわ。うん。はいはい。じゃあ、花子ちゃんによろしく言っといてー。はーい」
ピッ、と電話を切った駆柳君。
「オッケーだと」
よし、だったら、
「それじゃあ、駆柳君はどこに行きたい?」
「そうだn「総番!!艇工(船艇工業高校)の奴等がカチコミに来ました!!!」なんだとぉっ?!」
いきなり教室の扉が勢いよく開け放たれ、どこかで見た覚えのある人が慌しく入ってくる。
あれ?
いきなり誰、この人?
あ、入学式のときの番長さん?
「あそことは協定結んだばっかじゃねえか!!」
「それが、下の奴等が『そんなもん頭が勝手にしたことだ』とか言ってるらしく!!」
「チィッ!三下共がぁ!!おい!助けた礼は後で南屋(蕎麦屋)のカツ丼奢ってくれりゃいいから!じゃあまた今度な!!」
そう言って彼は走り去った。
残された私は、とりあえずコックリさんを終わらせる儀式を済ませ、さっさと帰宅することに決めた。
ああ、もちろん帰り際に豚村を踏んづけることを忘れはしなかった。
あと、帰る時に不良っぽい人が、
「一般人はこっちへ!!」
とか言って私を裏門に誘導してくれた。
教育の行き届いた不良って、なんか違うと思う。
ありがたかったけど。
意外と肉体派なコックリさんでした。
『駆柳 弧月』だと当たり前でも、『コックリさん』だと意外。
そんな感じです。
次話はキャラ紹介です。