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神さまの1日

作者: ジョナサン

―――これは、世界を統べる男の日常…。


「…というタイトルで取材をして、雑誌に載せたいんですけど…どうでしょうかッ?!」


雲を突き抜けんばかりの高さを誇る、高層ビルの最上階にその2人は居た。

この場所は、人ならざる者が住む世界…神界。


所謂、天国。


話している男の名は、ウィスドム。

彼は、神界で一番売れている雑誌の記者である。

黒い上下のスーツに赤いネクタイが映える。

金髪に童顔で、スラリとした長身には僅かに違和感を覚える。


「えー…。」


めんどくせぇと言わんばかりの顔で小さく不満を声に出したのは、神界を統括しあらゆる世界を支配する

全世界統括者キングと呼ばれている現役で最強の男。

名前はブラック。

黒髪が針ネズミのように

逆立っており、動く度に

ゆらゆらと揺れている。

目は一重だがそんなに細くはない。

薄い黒のロングコートに身を包んでおり、威厳を感じる。


「めんどくさそうじゃんかそれ」


理由は、この一点にのみあった。

事実、この社長室を思わせる部屋の革製の椅子にだらりと腰掛けているブラックは気だるそうである。


「いえそんなことはありませんよ!」


ウィスドムはせっかくの

チャンスを逃すまいと

頑張る。

そんな彼を見て、

あぁ追い返す方がめんどくさい、と判断したブラックは二つ返事で了承した。


「じゃあ…話すぞ。我が1日を…」







「うーん…このゲーム外れか…??」


ブラックはパソコンとにらめっこして顔をしかめている。

時々聞こえる喘ぎ声は

スルーしておく。

その背中の窓からは、

朝日が差している。


「ブラック様、朝ご飯ですよ」


「おう」


しょうがねぇなぁと言いながらふらふらと扉を開け、食堂へ行く。


「相変わらず人多いなぁ」


「というか、寝ないでゲームやる神様ってどうなのよ」


呆れながら呟くのは、

ブラックの戦友…イエライズ、通称イエロー。

彼女は長い金髪を

ポニーテールにして、

赤いロングコートを身に纏っている。

…飯食う前にコート位脱げよ、とかいうツッコミは受け付けていないらしい。


「良いじゃねぇか…趣味があって」


「不健康だって言いたいんだよ!!」


最早名物と化したこの掛け合い。


「…てかアンタまたメニュー発注した?」


食堂のメニューに新しい商品が追加されているのを

見たイエローが券売機の前で悩む神に尋ねた。


「あぁ…食べてみて美味しかったから」


こういう事も

ブラックがやっている。


「うん、やっぱり朝は白米に目玉焼きを乗せたヤツだな」


「えぇ…この味わい…」


こうして朝は過ぎていく。



食後、ブラックはイエローと共にとある世界に行っていた。


「……バグだな」


「…バグね」


文字によって形成された黒い巨大な龍が居た。

それも二匹。


「全く…面倒だ、イエロー頼んだ」


「ちょっとぉ?!」


驚きつつも人には聞き取れない速度で特定のプログラムを呟き、

虚空から雷を龍に落とす。


「オ゛オ゛オ゛オ゛オォォォーーーッッッ!!!!」


空気がシェイクされるかのような咆哮に

彼らは動じるどころか、

次の攻撃を誰がするかを相談していた。


「えー…」


「あたしさっきやったもん」


「……解ったよ…」


ブラックは、

黒いロングコートのポケットから

手のひらサイズのタッチパネル式の通信機器…通称…(いや、やはり記すのは止めておこう)

を出した。


「これがス〇ートフォンの真の効果だ…!」

(※違います、

これはキングの力を用いて勝手に改造して

世界を物理的に変えることの出来る道具であり、

店舗に置いてあるものにはこのような機能は搭載する予定はありません)


アプリを起動させ、

上空からマッコウクジラが落ちるように設置する。


「この世界に於いて

一億分の一未満の確率を

体験させてやろう…」


そして、充分な距離からの落下により…

龍達は粉々に砕け散った。

「いや〜疲れた」


「アンタ何もしなかったよねッ?!」


その場でくつろいでいたらまたこの掛け合いが

始まった……。






それから、

彼らは神界へと引き返していった。


「書類整理か…めんどくせぇ…かったりぃ…」


「判子押すだけでしょうが…」


さすがにイエローも

ツッコミが疲れたようだ。

「いや、あの山だぞ…」


そう言って、

自室(朝居たあの部屋)の机の上にある紙の束を指差して呆れた。

その数、約5万枚。

これは、あらゆる世界を分配されている部下の神々が報告や色々な許可やクレームや辞職願や何やらを

上司であるブラックに

提出した結果である。

流石に細かく見ていると

たまったものではないらしく、

一行目だけ見て判子を押している。

某T大合格請負漫画の

主要人物が言っていた。

……らしい。

一行目を見れば内容の良し悪しや何やらが伝わってきて

見るなり許可する価値が出てくるとかなんとか。


「あー…、転生者な…」


この部屋に運ばれてくる前にある程度分類されているらしく、

その中の一角に首を捻っている。



『転生者』



本来、

ブラックの演算能力と

『設計図』と呼ばれる特殊すぎるプログラムを組んだシステムにより、

人を含めたあらゆるモノは生と死をさ迷い

決められた輪廻を巡り続けるのだが…。

約1京分の1回起こるとされるシステムの計算ミスかあるいは、

管轄の神の故意かで

たまに起こる予定とは異なる死を迎えた者に与えられる救済措置である。


「…まぁ、あのシステムは完璧じゃないから

事故は起きるし、むしろ

面白いから事故は良いんだが」


さらりと問題発言をして

再びその紙を睨む。


「私欲のために転生者を

使うのはどうかと思う…」


ブラックの配下の神々の間でも、所謂『派閥』が

出来ており、

意見が割れている。

そして、意見の食い違いが過激になると…

勝手に戦争に発展したり、この転生者システムを使い相手の神を魔王に仕立てあげて倒そうと画策したりする事もある。

今回も、そんな私欲の元に生まれた転生者だろう…。


「当然、不許可だ」


依頼書の中央に叩き付けるように、『不許可』の

判子を押した。






さて、

書類整理が終わった頃

日は暮れ始めており、

ブラックは食堂…ではなくて

屋上に居た。


「さぁ…て、と…」


ブラックの周りが、

陽炎の様に歪んでいるように見える。

そして、いつもの明るい表情は成りを潜め

氷のような刺すような寒気が代わりに特出している。


拳を前に突き出す。

と、空気が爆ぜる様な振動が辺りに響く。


虚空を蹴る。


手刀で斬る。


裏拳を振るう。


幾重もの『武』。


半刻程過ぎた時、

『武』による『舞』は

初めからそんな事が無かったかのように終了した。






その後、部屋で

大量のあらゆる料理を

食い尽くしたブラックは、いそいそと、モニタールームへと向かった。


「やはり、人が作るアニメは癒しやわぁ…」


全世界のアニメをリアルタイムで見られるこの部屋でその頭脳を惜し気も無く使い、

満喫していた。




そして、

それが終わるとPCを

立ち上げ、ブログに

その感想を書き込む。


「さて、やるか!」


そう言って、

今朝途中で終わったゲームを起動し

マウスを操作する。




こうして、神さまの夜は更けていく……。






「はい、おしまい」


「話すって言って、全部音声付きの監視カメラの映像ですよねぇッ!?」


「イエス!」


「イエスじゃねぇよ!」


…補足すると、上の文章はウィスドムが書き上げ、

編集長に提出したものである。


「礼言うのも何か気が引けるけど…ありがとうございました」


「いえいえ、大した事も出来なくてすまなかったね」


雑誌のインタビューコーナーを見た事がある人なら解るだろう。

本当なら1日の流れを

感想や質問を交えて

本人の口から直接聞き出すのが普通であろう。

実際、ウィスドムも

それが普通だと思っているし、質問だって作ってきている。


(……それが、何でハイビジョン並の高画質のノイズが全く無い高音質の監視カメラ映像だけなんだ…。

解ったのは…この人はめんどくさがりの天才だって事だ!)


「…それでは、失礼しました」


これから待ち受ける

取材と呼べない取材をまとめて、提出する作業への

苦労を憂いながら部屋を後にした。





ウィスドムの居なくなった部屋で、ブラックはひっそりと呟いた…。




「あぁ…今日も平和だ…」





…fin…


感想、質問、ご指摘等

ありましたら

宜しくお願いいたします!

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