~第二話~ 色々と方向間違ってますよね…?(前編)
とりあえず、前回の登場人物は、一人を除いて一人も出ません。
しかも前後篇です。
いきなりです。……すいません、フリーダムな小説で。
いきなり読者にやさしくない小説になってしまいました。
§α§
「かかってこいよ、紅蓮の異端!」
「しゃしゃるな、下郎がッ!」
一人は赤毛の少年。そしてもう一人は白髪の青年。これは夜の物語。7月20日の夜。
まさにここに、異端狩りの開始が宣言された。
―――異端狩り。それはあくまで一般人に悟られてはいけない“狩り”である。異端と称される人間を協会が殺すのだ。それは仮に教会で許されるものであっても、一般に許されるものではない。ましてや現在のこのご時世。人間一人がいなくなるだけで大騒ぎになる。
いまさら、人間を殺せばどれほどに騒がれるのかは把握している。
あいにく、異端者が死んだところで、その処理は完全に魔法によって行われるため人間の科学技術などでは到底その犯人を詮索など出来ない。ならばこそ、その絶対的証拠。つまり“現行犯”として捕まらなければその時点で殺しが成功すれば確実に、捕まらない。
ならばそれは、実に簡単なことで。人目につかない時間帯か、人目につかない場所で異端を狩ればよいのである。
そして、現代のこのご時世。人目につかない場所などあるものか。そしてこのご時世、人目につかない時間などあるものか。―――そう、漆黒の闇のベールを纏う夜の街以外に。
「しかしいきなり人の管轄に入って宣戦布告か。ずいぶん不作法なことをしてくれる。興醒めもいいとこだぜ、下郎。」
「なに、これこそ紳士の嗜みだよ。それよりもなぁ、紅蓮の者よ。その手に握る宝石はなんだ?見たところ安物ではなかろう。値打ちの物なら私が質屋にでも売りに行ってやるぞ?」
白髪の青年がいたずらのようにおどけて少年に言って見せる。
おそらく、この二人は今宵から始まった異端狩りの関係者。すなわち、狩る方と狩られる法。異端者と異端者は、今宵では、敵同士。
「ふん、言っとけ。下郎には、これの価値さえ理解できないよ。」
「本当か?これでも俺は宝石好きなんだ。それに値打ちがあるかどうか、俺が見てやってもいいんだぜ?」
そう言いながら、異端者である魔術師の二人は互いに距離を開ける。それは相手の間合いに入らないため、そして相手の様子を探るため。
「だいたいさぁ、いきなり人の管轄に入ってきてもの物色した揚句に喧嘩売るってよっぽどだぜ、あんた。」
「何を言う。そもそもあの時間に管轄を留守にしたお前と、あの時間に現場を見てしまったお前が悪い。私には、非などありえないよ。」
白髪の青年は開き直っている。それを聞いた赤毛の少年はそれでも責めることはない。ただ確認の為にこの戦いまでの経緯を聞いたのか。それとも、そこに何か大切な意味が含まれるのか。
「まぁいい。この紅蓮の魔術師がお前の相手をしてやるんだ、喜べ。」
紅蓮と呼ばれた赤毛の少年はそうつぶやく。
「なに、紅蓮など原色に近く遠い。白の私に刃向かう紅蓮のこそそれに喜べよ…?」
白髪の青年は、自身を白と称しそして互いに戦闘態勢を取る。
戦いの火ぶたは、切って落とされるのではない。戦いの火ぶたは、切れればそこで終わるのだから。だから二人の戦いの始まりが、その火ぶたの着火である。
「早速だが、一気にカタをつけるぜ。…悪く思うなよ。強化の地形!」
少年は、そう叫ぶと同時に白髪の青年に駆け寄る。それは、まさに音速をこえたように。―――――いや、実際に、音速をこえて。
「すまんな、あまりゆっくりした展開は好きではないんだ。ほんとはもうちょっとお喋りをしたかったかも知れんが…俺にそれは求めるなよ?」
少年はそう言いながら、白髪の青年に近づく。そしてその速さにあっけにとられる青年はすぐにその間合いを詰められる。
「なぁ、白の異端者。その白の実力とやらを、ぜひとも俺に見せてくれよ…?」
少年は、こぶしを振り上げる。そしてそれはまた、その自身が走っていた速度と同じ。音速をこえたこぶし。
普通に考えればこぶし程度で少年程度の体格の人間がその青年を打倒せるとも思わない。しかし、その速度は明らかに車の衝突に似た音をかなぐり立てる。
だがそれでも、青年は答えた様子がない。
それは互いが魔術師だからか、それとも単に青年が強いからか。
「紅蓮の。そんなパンチじゃ、私の体には傷一つつけられないぜ…?もっと、力を打ち込めよ。」
そう言い終わることもない前に、青年もまた何か叫ぶ。
「ただ…このままではさすがに耐えられないな。……わが身を守れ酒池肉林」
「…ふぅん。あんた、やるじゃん。でもやっぱり、人の管轄に入ってもまだその態度は、気にくわねぇよなぁ!」
少年は、先ほどよりもさらに強くパンチを入れ込む。その手には、うっすらと紅蓮の色が輝く。おそらくこれが、この少年の紅蓮と呼ばれる由縁。
それに対する白髪の青年もまた身体に何とも言えない色の輝きがある。しかし本能としてもし悟れるならば、これらはおそらく死の淵。
「おらおら、俺のヴァルハラはこの程度じゃ防ぎきれないぜッ!?」
少年はそう言いながら次々と連続してパンチを繰り出す。その一発一発は明らかに重くまるで、その数に比例して強さが強化されているように見える。
いや、たしかにそれは、一発一発によって強化されている。
その威力は、先の一発を見て分かる通りあまりに強力。それだけで鉄の板程度ならば貫けるだろう。
しかし白髪の青年はそれを許さない。ならば確かに、それ以上の威力が必要なのは必至。
そしてそれが可能な少年は、明らかに白髪の青年にとっての天敵ではなかろうか。
だがしかし、白髪の青年を包む白い輝きもまた何か神秘に包まれているように見える。だからこそ、彼のこのいけすかないもの言いは確かに強さを自負しているのではなかろうかとさえ思わせる。
「…ヴァルハラか。聞く話によればそれは戦いの聖地というな。紅蓮の固有結界はそれがモチーフか。」
「あぁそうだぜ。そういうお前はどうなんだ、下郎。その酒池肉林ってのは聞いただけじゃただの極楽浄土にしか思えないぜ。」
「敵が知らない情報を、わざわざ教えてやる必要はないよなぁ…?」
しかしいくら軽口を叩いているからと言って青年が優勢というわけではない。“ヴァルハラ”と称する何かを身にまとっている少年のパンチはいまだ続いている。それは最初の一発などをとうに赤子のスピードと見違える程度に早くなっている。その速さは、ただでさえ音速を超えていたがこのままでは、光の速さになるのも時間の問題。
だが、それであろうとその青年はいまだ余裕を崩さない。それどころか、むしろ相手を挑発しようとしている。
「なぁ、紅蓮の。そんなに殴って何を急ぐ。まだ夜は始まったばかり。もっとこの時間を楽しもうじゃないか。」
「るっせぇぜ。コソ泥風情が何のたまってんだよ。…だいたい、全然効いてねぇじゃないかよ…!おまえ、その結界は言ったいなんだ?」
青年は、その問いには答えず手を空に仰ぐ。そしてつぶやく。
「―――Ω」
青年のそのつぶやきと同時に、青年が赤毛の少年と距離を離す。いや、むしろこれは。赤毛の少年が青年を振り離したかのように見えた。
そして続けざまに青年が何かを叫ぶと青年の立っている場所の両脇から双子の塔が生まれる。その棟は、さらにそのわきに槍の軍隊を作る。その数は優に一万を超える。ただそれは目測だからこそ…今だそれ以上の数を備えている可能性が有り得る。むしろ。それ以下の可能性は有り得ない…ッ!
「おいおい。いきなり本領発揮かよ。しかししょっぱな双子の塔とはまたずいぶんすごいのかましてくれんなぁ。…なら俺も、構えるべきかな。いでよ、神の館!」
そこにはまるで西洋の絵画にあるような大きな屋敷がそびえる。その屋敷はまさしく追うか、もしくは神がすみそうなところ。そしてそれを人は言う。……主神オーディンの宮殿。すなわちヴァルハラと。
「ふん、館ごときに何が出来る。行け、双子の塔、逝け、槍の軍隊。かの紅蓮を壊しつくせ。壊したものには褒美をやろう。うんと素敵な女をくれよう。最高に熟れた酒を与えよう。ここにはすべてが揃っている。ヴァルハラごときに敗れるな。これが我らの固有結界、酒池肉林の加護!」
白髪の青年がそう言うが早いか双子塔からは大きな火が走る。その数はまさに666発。そこからは偉大なる悪魔さえもが生まれ得る。
そして槍の兵たちはその手に持つ様々の国の伝承に残る槍。―――天沼矛やゲイボルグを筆頭にルーンやガ・ボー、はたまた蜻蛉切など大小さまざまにしてジャンルを問わないその出典はまさしくあらゆる点で槍のオンパレードである。
しかし、その進撃を許さないのが神の宮殿である。その存在はオーディンによって約束された戦いの聖地。戦士たちは死んだ後にこの王宮へと身を寄せ合うと伝えられる。
そしてそこには鎧で出来た扉に、槍で出来た屋根。剣で作られた机に終末の日を予期した結界がはられている。すなわち、ヴァルハラに敵はいない。
だからこそ、互いの固有結界をぶつけ合い、そしてその先にある敵将の首を打ち取らねばならないのだ。
紅蓮と白。互いの固有結界はその異色を吐き出しながらもジワリジワリと重なりだす。その交わる部分から次々と色は変わってゆき、次第にそれはどちらの色も消えてゆく。
だがそれでも、まだ互いに残る色はあやしくも流麗に輝いている。つまりそれは、まだどちらも敗北していない確信。
「槍の軍団、まだだ、まだ抑えろッ!相手はたかだかオーディンだ。戦いの神?は、笑わせるな!相手は死の神、戦場の死神だ。して我らが軍は死のゴブリン。そこに死の概念などあるものかっ!」
槍の軍団は、そう。傍から見ればただの集団だがその実は腐乱臭を纏う死んだゴブリン達の軍隊。しかし、ゴブリン達はそれさえも解せずに戦いに没頭する。その頭ではすでに理解することさえもできない。腐った脳みそはどれだけ頑張れども腐ったまま。
して、そのゴブリン兵たちは双子塔の援撃と同時に赤毛の少年をめがけ走ってくる。その様はB級ホラー映画のゾンビたちの様。まるで死に体ではなく、生者のように走り寄る。そこにゴブリンの意思などあるものか。全ては白髪の青年の為に。赤毛の少年に走り寄る。
「…っく。出でよ赤枝を誇る大いなる盾!その身で俺を下郎から守れ!!」
少年は、ゴブリン部隊の先頭に、顔面衝突よろしくのスピードで結界同士が接する部分の少し手前の部分に銀と赤道でつくられた盾の壁をつくりだす。しかし、それはあまりにもろすぎる…!
なぜならここはヴァルハラ。戦いの聖地。なぜならここはオーディンの庭。他人の武器はその場で無力に散る。
「はっはっは、ヴァルハラでそんなものをつくるのか?なら貴様のヴァルハラは、とんだ贋作だなぁ!」
青年の突撃させたゴブリン兵たちはプリトウェンに総勢でかかる。ゴブリンの数は全てで48。一人ひとりの攻撃力が25程度と考えれば、それらが持つ武器武具の魔力補正で攻撃力は30に上昇。ならばその走力は単純に計算して1440。さらにプリトウェンという盾の保有する魔力の吸収により攻撃力が27に下降。しかしヴァルハラの効力により武器の力は50上昇。これによりゴブリンの攻撃力は75に上昇。最終総力は2880。その攻撃力はヴァルハラに侵入することで元の2倍に上昇した。
対するプリトウェンの守備力は単体で1万5千。ヴァルハラの干渉により強制的にマイナス99999999999。しかしゴブリン達からの魔力吸収(大)の効力によりそのマイナス値を上回り守備力1000に上昇。ただしヴァルハラの干渉によりその数値はすべてヴァルハラ内の武器とオーディンに託される。すなわちその数値はマイナス99999999999に1万5千を足す程度。そこにどのような期待がもてようか。いや、持てるわけがない。
明らかに、今のヴァルハラは赤毛の少年にとって自身の首を絞める最悪の固有結界だった。
「さぁ、これで終わりだ、紅蓮の。貴様の敗因はそのヴァルハラだ。怨むなら、自分の無力を呪えよ…?贋作程度でいい気に乗った罰だ。その命で俺に償えッ!」
青年はすでに少年の固有結界について多少の理解を得ているようで、それに終止符を打つ。そしてその贋作の固有結界は、そこで試合を放棄する。
「あぁやれ、ゴブリンの兵隊たち!その盾を振り落とせっ!敵将はすぐ目の前だ。良いか、ヴァルハラ内には入れ込むな。それより先にヴァルハラと紅蓮のを拘束しろ!!」
――――――決着は、酒池肉林の勝利に収まる。…はずだった。
「まだそう簡単に決着はつけさせねぇよ。“強化の地形”その身で俺を守れっ!」
そう、少年にはまだ。敗北などという言葉は似合わない。そしてその、早すぎる結末さえもが少年には有り得ない。なぜなら、それは彼が紅蓮の異端者であるから。
紅蓮の異端者はすでに、敗北を知らない。――――――だからこそ、そのすべてが前座。
「さぁ、次は本気を出そうぜ。あんたの酒池肉林はとっくに見定めた。」
それは少年による勝利宣言。そしてそれは、そのゴブリン兵たちを刹那に殴り殺した後の言葉だった。
「な、紅蓮の……いつからそんな技を、」
「出来るようになったかだって?そんなの、決まってるじゃないか。―――猛特訓だよ、それこそ死ぬほどのな。」
「だ、だが。結界内に結界を保有することは許されないだろう…!それを貴様はいとも簡単にっ!」
「トリックはお前が死んだときに教えてやるよ、下郎。」
「っつぅ……言わせておけばさっきから、下郎下郎とうるさいぞ。」
「そうだな、じゃぁお前がどうして俺の管轄に居たのかを合理的かつ客観的に説明できれば言い方ぐらい変えてやるぜ、下郎」
「……よろしい。そのケンカ、買ってやる。存分にかかってこい、紅蓮の。」
そう言って白髪の青年は自身の結界内にある槍……ガ・ボーを手に取る。
「貴様に永遠の傷を負わせてやろう、紅蓮の。その身に恐怖を植え付けてやろう。」
「あぁ、かかってこいよ…白の異端者。お前こそ、俺に引導を渡されるんじゃねぇのか…ッ!?」
「ふん、この俺に限ってそれはありえぬ。だいたい、俺のこのガ・ボーを見てからずいぶん震えが止まってないように見える。」
「は、それこそお前の見違いだ、下郎。これは、いわゆる武者震い。おまえみたいな腰ぬけの様に敵の獲物を見て足が震えるような戦いはしてきてねぇよ。」
「やはりお前は、ここで殺ってやる。いまさらこうかいするなぁぁあぁぁあああああ!!」
「かかてこいよ、腰ぬけがぁぁぁあぁぁあああ!!」
こうしてようやく、火ぶたは切って落とされた。
§end§
~以上がアカシックレコードによる概要【20XX年7月20日・夜】~
ただしこの前後は何者かによって錯乱されているのかアカシックレコードはうまく起動しない。
~視点・紅蓮~
俺は俗に言う中学生である。厳密にいえば、中学3年生。そろそろ部活を引退して受験に勤しむ時期だが、あいにく俺は部活に入っていないため前者には該当しない。ただし後者は別である。
しかしながら、いかんせん俺はその勤しむべき勉強に身が入らない。なに、別段勉強が嫌ってわけではない。ただ、身に入らないだけだ。もちろん、勉強が好きというわけでもないのだが嫌いでもない。そもそも成績は優秀な部類である。これでも私立の学校に通う身。今更頭の悪さでバカにされることはない。
しかし、ならなぜ俺はそのしなければならない勉学に励めないのか。それこそ理由は単純である。なぜなら俺が“超能力者”もしくは、“魔術師”だからである。
そもそも、魔術とはそれもまた知識とそれから経験。そして何より家系によって決まるものである。だから、それを理由にするとまるで自分が悪くないような言い方だが、実質俺だけが悪いわけではない。この境遇という境遇は、明らかに学生には優しくない構造になっている。だがもし、なら自分が見術師でなければ…などというような無粋なことを考えることもまたない。
それほどに、俺はこの職業を誇りに思っているし、誇りに思うべき責任がある。
今日は7月20日。そして今いる場所は冬営駅の前である。実際、俺の家はこんなところにはないのだが、しかし今日は仕方がない。
『今日から異端狩りが始まる』……俺は今日の朝っぱらから頭領様にそんな話を聞いた。だいたい今晩にそれが始まるということを聞いた時点で驚きだったのに、さらにそのうえで今回の異端狩りが明らかに俺たちにとって理解不可解な内容だったことはおそらく今後一生あることのない驚きだったと思う。
「……異端同士で狩りをおこなう、かぁ。確かに今日は裏の真理の日。異端者同士が殺しあってもおかしくはない頃合いではあるけどな。それにしてもずいぶんと急だし、そもそもどうしてそんな日に異端狩りをかぶせんるんだかね。」
俺は駅に置いてある自動販売機に背中をよりかけながらそうつぶやく。
もちろん誰かに発した言葉でも誰かに答えを求めている訳でもないから、返事がなかったおかげでちょっと安心をする。もしこのつぶやきに答えが返ってこられてはむしろ困る。というかそんな奴がここにいるだけでずいぶんな問題だ。
ここは一応公衆の場。こんなところでそんな話をすること自体もあまり褒められたものではないからそう強くは言えないがしかしそれでも話す教育のなっていない魔術師たちはいる。
たしかにそれ自体はルールではなく、あくまでマナーであるというためそこまで何か隠れて言う必要はないのだけれども、しかしそれでも何故か堂々とは言えない。むしろ、その会話自体が、現代のご時世に似合わないのであるから、どこかで裁かれずとも社会的に死ぬ。そういう意味ではモラルになるのかもしれない。
さて、ところで。ついさっきも言った通りここは俺の家の近くではない。もちろん買い物の帰りだったり学校の帰りだったりなんてそんな訳でもない。
俺はここから車でだいたい2,30分程度の場所に管轄を備えている。管轄っていうのはつまり自分の領土みたいなものだ。魔術師や魔法使いは自分の魔法の研究の為に“管轄”と称した領土を持つ。正確には土地なのだが今はどうでもいい。
そして、その管轄には3つの使い道がある。一つはさっきも言ったような研究の為の使用に必要である。一つは自分の身を守ることが出来る。そしてもう一つは真理に干渉することが許される。
それから、基本的に魔術師は他の魔術師の管轄に触れることがないから本当は他の魔術師との接触を控えることが出来るっていう魔術師にとっては嬉しい用途もあるのだが今回の異端狩りにおいてはそれは期待できない。なぜなら今回の異端狩りの狩人は“異端者”…つまり魔術師だと言われているからだ。
さすがにまだ慣れないうちは小物を狙うのが普通だろうから俺はまだ大丈夫だろうがあまり余裕を弄ぶこともできない。それに備えて大切な研究材料や研究結果をあらかじめ自分の神殿に置いておきたい。
そのために俺は今、管轄に向かおうとしているのだ。
「お、来たな。……おーい、こっちだ!」
そんな風なことを思案していればいつの間にか予約していたタクシーが来ていた。俺はすぐにそのタクシーをこっちに呼ぶ。いつもはこの駅にはタクシーなど来ないから、おそらくこれが俺の予約したところのタクシーなのだろうがさすがにそれをいちいち確認するのも面倒くさい。そもそも確かに小さい駅ではあるがそれにしてもタクシーが来ないとはどういうことなのか。わざわざ予約しなければ来ないというのは俺にとっては思いのほか不便な場所に管轄を持ったのだと思う。
そのタクシーは普通のタクシーと違って色が白い。ぱっとみではパトカーと間違えそうだが車のてっぺんにタクシー会社の名前が書いてあるまるっこい何かが付いているからタクシーである事に間違いはないと思う。その白は、暗い夜ではずいぶんと目立ったがさすがにそれに文句をつける気はないし、それを理由に乗らない道理もない。
ただ一つわがままが通るなら、こんな目立つぐらいなら赤色のタクシーにしてくれとそう思うね。
俺はタクシーに乗り込み駅から少し離れたところにある商店街の少し手前に車を止めさせた。そこから徒歩で約5分。そこに俺の管轄がある商店街がある。
その商店街はおそらく前まで栄えていたのだろうが今ではすっかり廃れているようで閉店の店とまだ開いている店を比べればそれはまごうことなき事実だった。俺は商店街の入り口から歩いてさらに10分程度のところですでにつぶれている本屋とまだかろうじて開いている八百屋の間にある小さい店の中に足を運んだ。そこが俺の管轄である。
俺がこの管轄を持ったのは2年前からだが実際にうちの家がこの管轄を持ったのは10年前だそうだ。だから、俺は2年前までのこの商店街の様子はそれなりには知っているがそれ以前のここの様子は知らないので“おそらく”栄えていたのだろうという風な考えに至るわけだ。
「……う、くせぇな。さては八百屋の親父。売れ残った野菜なんかをこの家で猫かなんかに分けてやがったな。ちくしょう。野菜くせぇ。」
管轄となるこの店にはすでにもう誰も住んでいない。10年前にこれを手に入れたのだから、おそらくここは10年前から既に店ではなかったのだろう。しかしそれでもここが取り壊されないのは一重にこの管轄に俺が“魔術”をかけているからだ。ここが一般の人や他の魔術師に見つかった時、俺の管轄がめちゃくちゃにされては困る。そのために大抵の魔術師は各々の管轄には自身の言葉がなければ開かないような封印の魔術をかけているのが通常である。
ただ、それも実際のところはそう簡単ではない。その管轄について“記憶”を持つ人間にはその効力が発揮されない。
例えば、俺が通っている学校を例にしよう。俺の学校はそこに通う人間、つまり生徒や教師などによって記憶される。その時にたとえその学校を管轄、もしくは神殿として隠そうとしても無理が起こるということだ。ただし、その学校の新校舎として新しく建設されているものなんかはその途中経過、つまり建設途中の状態の物を記憶していたとして完成時にそれを魔術で隠した場合はその完成品としての新校舎は隠すことが出来るようになる。ただし、全員にとっては、そこは“建設中”の新校舎として見えるようになるためそこを管轄や神殿にするのもあまり頭がいいとは言えない。
出入りの際に偶然にでも自分がそこに入るところを見られたら建設中の場所に入っているという風に認識されてしまうからな。
おそらくそのせいなのだろうが、俺の管轄は上の例で言う“生徒や教師”が時々入ってくる。主に八百屋の親父とノラ猫である。……ちなみに生粋の動物はたとえ魔術で隠されていようとそこの存在に気づく。というかそこが見える。だから俺の管轄は絶えず猫とかが入ってくるのだろう。そしておかげで八百屋の親父が餌づけをするわけだ。………はぁ。
それにしても今日はいつも以上に野菜臭い。さてはよっぽど売れないものが多かったと見える。確かにここは誰にも見られないし認識もされない(本人はそれが魔術によるものだろうとは思ってもいないのだろうけれど)場所であるからって人の領土をこんなふうにするのはどうかと思う。
そろそろ管轄の変え時か、それともここに何か対処法を設置するか…
「しっかし、今日は格段と暗いな。さすが新月、ってところか。確かに裏の真理って言われるのもうなずけるか。…いや、それにしたって暗過ぎないか?」
……さっきまで由宇町に管轄のことを考えていたが、いや。確かにおかしい。いくら新月といえどこのご時世、この暗さは異様だ。いくら夜の商店街と言っても街灯ぐらい普通は付いてるもんだ。いや、それがないにしたってそれならそれで星の光が注いできておかしくない。
この商店街は天井が透明で晴れの日には日光が強く降り注いでくる。だから必然的に夜も月の光や星の明かりも注いでくるはずである。これは、確かにおかしい。いや、それ以前にあまり来ないからと言って常識的にこの暗さはおかしい。どうして気付かなかったんだ。これはおかしいこれはおかしいコレはおかシいおかしいおカしいオカシいおカシイオカしイ!
おそらく、俺は今晩起こる異端狩りに頭が行き過ぎて周りの状況を把握することに注意が欠けていたのだと思う。そして管轄では確実に自分が安心であるという安心感があるから、その緊張がここに来ることで途切れそのおかげでこの異変に気づけたのである。
俺はすぐさま、いつもならば街灯があるはずであるところの様子を見る。そこには、思った通り電気のついていない街灯が立っていた。すでにこれで確定する。
ここには“誰か“がいる。
それが町のチンピラや不良グループ、もしくは家出してきた阿呆な子供ならばまだいい。…そういえば、この商店街は確か、廃れていった理由に治安の悪さがあったはずだ。ならば、こんな夜にそういう奴らがいないっていうのはおかしいぞ…?
……やばい、これはやばい。冷静になるとかえって裏目に出ている。これは、やばいやばい。
不良もチンピラもいない。今日はおとなしく家で寝ている…?そんなはずがない。奴らにとってこういう溜りが一番の安らぎであってちょっとやそっとのことじゃそれをしないわけがない。
なら場所を変えた…?そうだ、それなら有り得る。それならば確かにここに集っていないこともうなずける。そうだ、きっとそうだろう。それに今だ立ち退いていない店もあるわけだしならば治安が改善されたとまでは言わずとも治安がひどくなっているというわけではないはずだ。
それにいつもならば見かける奴らもそれはすでに一月も前の話だ。それだけの期間があればここよりも居心地がいい場所が見つかったっておかしくない。いや、むしろ見つからない方がおかしいかもしれない。なら、きっとそれはその通りなのだろう。いや、それでなければいけない。そうであらねばならない。
「……やっぱり、全部の明かりが消されているか。」
俺は商店街にある街灯(少なくとも俺が知っている物)全てを見て回り、それをつぶやく。
一度管轄に戻ってみたはいいもののこれで、本当に確信する。これをいたずらと呼ぶにはあまりに規模が大きすぎる。いや、もしかしたら停電という可能性もあるから断定はできないが、きっとこれは、いや間違いなく“誰か”の仕業に違いがない。
しかし、そうなるとその“誰か”が誰なのか、それが気になるところになる。俺の仮設では以下の通り。
まず、この商店街に人を寄らせないために文字通り電気を消したのだろう。そしてその後におそらく異端狩りを行うつもりなのだろう。
では、そうなるといったい誰が狩る側で狩られる側になるのか。……おそらく、狩られる側は俺になるのだろう。ここまでピンポイントに商店街を暗くするのだからそのターゲットはきっと商店街に居るはずである。ちなみに、電気が無くなっているのが商店街だけだと断定できるのは商店街から見える町並みにはまんべんなく電気がついていたからである。
しかしそうなると困ったことになる。この管轄、あまりに物が少ない。というのも隣の八百屋の親父が勝手にここを使っている手前下手に大切な薬や魔術に関する本、もしくは魔法的道具を置くのはリスクが高すぎる。
しかしだからと言ってもここは腐っても管轄。ただ、“ちょっとした”魔力を置いているだけなのだが。それを取りに今回もここに来たのだ。ちなみにその魔力の内で2つほど研究して結果が出たモノがあるためそれの回収も兼ねていた。
しかし、今の状態ではそんなことは後回しだ。どうにかしてここを離れなければならない。しかし、ここを、商店街を抜けだしてどうする?ここは車で2,30分はかかる場所。しかもここまではタクシー、しかも予約していた分で来たのであって今のこの時間帯に予約をしていない時、タクシーは来るのだろうか。
俺は、いつもはこの時間にここに来た時は徒歩でゆっくり帰ることにしている。行きはタクシーで帰りは歩き。さすがに魔力的要素のモノを一般人がいるタクシーという中に入れ込むことは抵抗がある。だから帰りは徒歩なのだ。
しかし、今は徒歩で帰って解決できる気がしない。商店街一帯の電気を消しているのだ。それにどれほどの時間がかかったのかは分からないがそこまで用意周到に準備しているからには、俺が逃げた場合の対処法も考えているに違いない。もしくは、俺が逃げないような対処法を置いている場合もあり得るからやはりどちらにせよここからの徒歩での帰宅というのは難しい。
だが、仮に戦いになるというのであれば、本気で挑まなければならない。
とりあえずは、俺の管轄で魔力の吸収と、それから…
「よぅ、遅かったな。紅蓮の。」
それから、なにも出来なくなった。
~視点・紅蓮~
それは唐突な会話だった。俺が商店街の街灯のチェックをしてから管轄に戻った時にそいつはいた。
特徴としては髪が銀髪であることが一番に目につく。そして性別は男。暗闇で相手の顔が良く分からないが声が低い事は確認できた。理由はそれだけだが多分正解だろう。それにうっすらとだが顔の輪郭も女のそれよりは男のものだったと思う。まさか男顔の女なんてことはないだろう。
「よぅ、遅かったな。紅蓮の」
そしてそいつは、何のためらいもなく。色を名乗る魔術師にその色を呼び掛けた。―――色とは、その魔術師を象徴する色のことであり、大抵の魔術師はそれを自称する。しかし魔術師の中では、それを“証”として魔術院から授かる人間がいる。その魔術師たちは、正真正銘の“異端者”であり、それはすでに異端者からは身をひくことが出来ないことも示すものになっている。皮肉なことに、魔術を極めようとすればするほど、この色は手に入れやすくなってしまう。
その点で、協会の人間は未熟なものが多い。なぜなら“絶対”異端とは違う人間が協会には収集されるからである。たまに異端者と実力が紙一重の協会側の人間もいるがそれでも、そいつらは絶対に異端者とは異なる。
では、異端者とは何か、となるとそれもまた簡単な答えである。
それはつまり、『固有結界』が作れるかどうかである。固有結界をつくる人間は、普通異端者と呼ばれる。逆に、固有結界が作れない、もしくは持たない人間を協会は異端ではない人間として扱う。
しかし、色を貰っていない異端者は、その固有結界を自ら捨てることで異端者であることを破棄することもできる。それが、“身をひくことが出来る”段階である。…まぁ、一族代々で受け継いでいる魔法を自分が異端者になりたくないからと放棄する魔術師はそういない。たとえいたとすれば、そんな奴は固有結界を捨てた次の日には死体になっている。それがこの世界の起きてであり、暗黙の了解である。
ならば今、この管轄に侵入している不作法な下郎は。俺のことを紅蓮の魔術師と知っていてここに侵入していることになる。そしてその実力が折り紙つきであることももちろん了承済みなのだろう。ならいったいこいつは、何者なのか。
「さてと、紅蓮の。まずは自己紹介から始めよう。」
「………」
「そうおし黙るな。…あぁ、そうか。確かに自己紹介をするときに、相手の名前を聞くならばまずは自分から名乗るのが通常だよな。私は黒井翔。白の魔術師と言えば分かるか?」
「…………」
俺は、自己紹介などよりも、まずはどうしてこの下郎が俺の管轄に入っているのかが理解できなかった。なぜならば、ここは、管轄として記憶を持たない人間の侵入を防いでいるはずだ。にもかかわらず、その魔術を破って俺の管轄にぬけぬけと侵入しているわけである。
「なぁ、私の紹介は終わったぞ。次はそっちの番だぜ。…なぁ、聞いてんのか、紅蓮の。」
「…るせぇ。」
「ん?なに、なんて言ったの?」
「うるせぇ。勝手に人の管轄をいじりやがって。ここであったが100年目だ。殺してやるよ。」
俺は、すでにリミッターが切れてしまった。理由としては大きく二つ。一つはこいつが俺の管轄に入っていること。もう一つは俺になれなれしく話しかけてくること。
もう前置きなんてものはない。俺は、けんか腰になる。
「死ね、下郎。」
「な、下郎だと…。おいおい、そりゃあんまりだ。私も好きでここに入った訳じゃないんだぜ…?」
どうやら下郎も俺と同じく短気な部類の様だ。下郎と呼ばれただけですぐにけんか腰になる。短気通同士の戦いが、今ここにはじまろうとしている。
「……名前は後で聞いてやる。とりあえずは…かかってこいよ、紅蓮の異端!」
「しゃしゃるな、下郎がッ!」
まずは買い言葉に売り言葉。お互いを罵りあうのが上等である。しかし、それだけで二人の距離を縮めるには十分だった。
「それにしたって今日は暗いな、下郎。これもお前の仕業か?」
しかし、その一線をあえてとどまる。もしこれの仕業がこいつのせいでないならば、おそらくただここを荒らしに来た魔術師の可能性がある。それならば、確かに荒らしは気分のいいものではないがそれでもこの明らかに俺を狙った夜の商店街でむやみに体力を消費することは控えるべきだ。だから、そいつが疲労でくたくたになった俺を狙わないとも限らないしそれならそれで俺は困る。
まだ、この時点では相手の所在は明らかでないし今のこの態度も謝れば済む程度だ。だからあえてまだ手を出さない。
「あぁ、これは全部俺がやったことだ。ちなみにいえば、紅蓮の為にこういう趣向の街に化粧してやったんだ。もっと喜べよ。」
「ほう、ならついでに聞こうか。ここには人がいたか?」
「あぁ、居たな。結構いたぜ…ざっと15人はいたか。……あ、もちろん始末してやったぜ。一人残らず殺したからさ、俺と紅蓮のはそれぞれ遠慮なしで戦えるってわけだ。そうじゃん、俺はそんな手間まで費やしたんだし、なぁ、喜べよ。」
「あぁ、喜んでやるよ。……お前を殺してから、喜んでやるよ。」
「はぁ?俺が死んだら紅蓮の。君は俺に感謝できなくなるじゃないか。駄目だぜ、そういうとこは素直じゃなきゃ。いまどきツンデレは、男がやってもはやるもんじゃないぜッ!」
俺は合図をすることなく下郎に飛びかかる。
魔術師や異端者はなるべく一般人には手を出すべきではない。それはお互いの為でもある。魔法を一般人に見られたならば、それを見てしまった人間は始末しなければならない。それ同様に、魔法を見てしまった一般人は始末されなければいけない。
まだ、それならば理解は出来うるが、そうではない、自分の娯楽の為に一般人を殺したというのなら、自分の都合の為に一般人を殺したというのなら。
俺はそいつを許しはしない。
「おや、もしや紅蓮のはそういうことが嫌いだったか。いやはや、正義に燃える異端者とは珍しい。……ならば、不本意ではあるけどこれで紅蓮のもやる気になったわけだし。本当に開幕と行こうか。」
下郎は俺の第一奇襲を簡単によけると、その宣戦布告を受け止めた。そして言う。俺と戦うと。ならば、ここに決闘の申し込みは成功した。
「いまから、俺とお前で決闘を始めよう。……ならば、互いに名乗るが礼儀だよな。」
「ん、あぁ。そうだな。俺は一回名乗ってるけど、もう一度名乗りなおしておくか。……しかし決闘ねぇ。どっちかって言ったら“殺人ゲーム”の方がしっくりくるんだけどな。」
下郎はいまいち口が減らないが今はそれでいい。あとでそれを後悔させてやるまでだ。伊達に俺も色を名乗っている訳じゃない。それを知らしめてやる上で、決闘の前の前座に茶々を入れるほど、俺も無粋じゃない。
「わが名は赤坂霧生。紅蓮の魔術師として色を称するっ!」
「おぉう。ずいぶん元気いっぱいなことで。……こほん。わが名は黒井翔。白の魔術師の色を称するっ!」
下郎…黒井は名乗りのときに、若干声色を変える。それはずいぶんと落ち着いたもので、もしやこいつもかなりの場数を踏んでいるのではないかと錯覚される。
しかしそれは有り得ない。いや、ありえたところで、俺ほどではない。
「……しかしいきなり人の管轄に入って俺の宣戦布告か。ずいぶんと不作法なことをしてくれる。興醒めもいいところだぜ、下郎。」
俺は、決闘の始まりの罵倒を行う。これが行われて初めて決闘が成立だ。たとえ心にもない事を言おうと、それは何も悪くはない。ただ、今回は本心から言わせてもらう。…事実にそれが沿っているかどうかは別として。
「なに、これこそ紳士の嗜みだよ。」
そして、それを黒井は受ける。これで、決闘が成立だ。
俺は、護身用にと持っていた魔術を少し込めた宝石をポケットから取り出し手に持つ。これでしばらくは相手を様子見だ。
「それよりもなぁ、紅蓮の者よ。その手に握る宝石はなんだ?見たところ安物ではなかろう。値打ちの物なら私が質屋にでも売りに行ってやるぞ?」
「ふん、言っとけ。下郎には、これの価値さえ理解できないよ。」
…と思ったがやめておこう。一発目に宝石の存在が怪しまれた。こいつ、やっぱりそれなりの場数を踏んでいるかもしれない。
「バカ言ってんじゃないぜ。これでも俺は宝石好きなんだ。それに値打ちがあるかどうか、俺が見てやってもいいんだぜ?」
どうやら、黒井はこれに警戒をしているわけではなさそうだがしかしそれでも怪しんでいる風には見える。やはり、これの使用はやめておこう。
しかし、このまま一気に飛び着くのはまた愚の骨頂。だから、さらに罵倒を続け相手の出方を見る。
「だいたいさぁ、いきなり人の管轄に入ってきてもの物色した揚句に喧嘩売るってよっぽどだぜ、あんた。」
「何を言う。そもそもあの時間に管轄を留守にしたお前と、あの時間に現場を見てしまったお前が悪い。私には、非などありえないよ。」
「ほ、ほぉう。ずいぶんと又立派な持論を持っているようだな、下郎。ならしかし、せめて俺に見つからないようにしようとは思わなかったのか?」
「だから言っただろ。俺に非はないんだぜ。お前が、全部悪い。」
……ずいぶんと、俺の逆鱗を上手に撫でてくれる野郎だ。なかなかにこいつの持論が許し難い。そして相手の出方が分からないこともまたずいぶんと俺をいらだたせる原因の一つだ。
こいつは俺の罵倒の意味を理解しているのだろう。だから行動に出ない。だから罵倒を返してくる。…だから攻撃してこない。
そうしてしばらくの間互いを罵倒しあうが、しかしお互いどちらも手を出さない。出会い頭のあの話ぶりからすれば相手もおそらく短気。きっと黒井も俺と同じような手を出したいが出せない、そういう状況なのだろう。
だから、その状況を俺が崩す。多少のリスクがある物のこのまま朝を迎えるのは後味が悪い。それにこの街に居た人を15人は少なくとも始末した男だ。今更一般人がいる真昼間に手を出さないとも限らない。だから、せめてどちらが勝つか負けるかは後にして今夜中に決着はつけなければならない。
「まぁいい。この紅蓮の魔術師がお前の相手をしてやるんだ、喜べ。」
「む、それ、さっきおれが言った言葉の使いまわしだろ。むしろお前は俺の“準備をしてくれてた”っていう心遣いに喜べ。」
「あぁ、くそ、さっきから埒があかねぇンだよ!」
「おぉ!やっと手を出してきたか。待ちくたびれたぜ。」
「あぁもぉ!いちいちそんなこと言ってんじゃねぇ!俺はその言い草にイライラしてるんだ。さぁ、俺と勝負が出来ることに感謝しなっ!」
「……ふん。こっちが手を出していないからと言い気になっているな、紅蓮の。」
「は、ホントは怖くて手が出せないんだろ?俺は紅蓮の魔術師だ。その色におそれて攻撃できないやつが何を言う。」
おそらくこれは黒井が一番カチンとくる言い方だろう。中身が俺と同じような人間なら、怒らせ方もだいたい分かる。ま、これで攻撃してきたとして、それはきっと、さっきおれが手を出したっていう効果あってのものなのだろうが。
「なに、紅蓮など原色に近く遠い。白の私に刃向かう貴様こそそれに喜べよ…?」
狙いどおり黒井は俺の挑発に乗る。そして、戦闘態勢に入る。これならば、すぐにでも勝負をかけてくるだろう。そこで相手の様子を見ればいい。
「…おい、しかけてこないのか?」
「紅蓮の。おまえの狙いはもう読んでるんだ。今更俺から手は出さない。ま、朝になれば強制的に俺のターンだけどな。くっくっく。」
「………っち。」
全部読まれている、か。確かにそうだな。今の黒井の言っていることは、俺の考えていること全てにして要約だ。なら、おそらく俺から仕掛ける以外に、戦いを迎える方法はない。
「…ならしょうがないよな。」
「あぁ、しょうがないと思うぜ。俺は紅蓮のと違ってリスクがないからな。」
「あぁ、下郎が無念のままに死んだとしてもそれは仕方がないよなぁ!早速だが、一気にカタをつけるぜ。…悪く思うなよ。強化の地形!」
――――――強化の地形。それが俺の固有結界の名前だ。
ここで、俺は固有結界について説明をしなければならないな。まず、固有結界とはさっきも言ったが異端者かどうかの基準になる魔法の一つでり、それが極められた場合それの所有者は色の称号を魔術院から授けられることになっている。
ではここで。固有結界とはいったい何なのかと言うとまさしく、“固有”の“結界”のことである。
固有結界は、その結界内ではあらゆる世界の干渉も拒絶、拒否することが出来る。例えば、また学校を例にすれば学校には、いわゆるゲームなんかは持ってきてはいけないことになっている。これが世界のルールとしたとき、それでもゲームを持ってきた場合それが固有結界というものになる。
ちょっと分かりずらいが、簡単にいえば“世界のルール”を無視したモノが固有結界である。
では、なぜそんなものが世界に許されているのか、というのはまた別の話である。おそらく、またその話はするだろう。けれど、今はその時ではない。っていうか、そんな暇が、ないっ!
「すまんな、あまりゆっくりした展開は好きではないんだ。ほんとはもうちょっとお喋りをしたかったかも知れんが…俺にそれは求めるなよ?」
思ってもないことを口にする。
こうして、ここに火ぶたは切って落とされた。
えっと…まず。
これは、その、ですね。
いきなり前後篇って何だよ、とか。
一発目ネタばれしてんのにその続き書くって何だよ、とか。
そういう苦情を一切拒否できない状態なんですよね、きっと。
しかもかなりカルトネタが入ってる分理解できない人も多いはずですし…。
そ、そんなぐだぐだな文章でも読んで下さった方、ありがとうございました!
では、今回の解説を少し。
この回では赤坂君と黒井君を出したかっただけです。それから二人の設定というかデフォルトも。
とりあえず、次の編ではこの二人の決着と固有結界のもっと深い解説。
それから星チンの7月20日をかく予定です。
あくまで予定ですので星チンの分が消える可能性がありえまs(ry
それと、色々伏線ちりばめてますがその全部を回収するかは謎です。
最後に、もう一度。
読んで下さりありがとうございましたっ!
何か、感想や指摘がありましたらぜひ教えてくださいっ!
では、また次の更新の時まで~