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「ふーん、大変だったんだねえ」


 自分が訳ありである事情を説明した傷もの令嬢の第一声がそれだった。

 あまりにも気のない、興味のない返事に思わず脱力してしまう。


 なのに彼女は構わずもっちゃもっちゃと豪快に骨付き肉を頬張っている。


 山猿。うん、言い得て妙。


 彼女に下されていた評価を改めて認識して、これからの自分の先行きが不安になる。


 誰だ、王女と傷もの令嬢、どっちも同じようなもんやろとか思ったやつ。俺だよ。


「まあ、その辺は全然気にしないよ、あたしは。前の旦那も似たようなもんだったし。というか、前の旦那は冤罪じゃなくて実際やってたしねー」

「そ、そう、なんですか……」

「そう。まあ、あたしがこんなんだから女遊びくらいって大目に見てたんだけどねえ。さすがに他所で子供作って、そいつを辺境伯の後継者って愛人と一緒に連れて帰ってくるのはねえ。あたしんとこの血、一切入ってないじゃん。辺境伯の後継者じゃないのよ、それもう」

「そ、そうですね……」


 ヘラヘラと笑う彼女にどんな顔をすればいいのかわからずにただ頷く。


「でもいい男だったよ」

「どの辺りが」


 いかん。ついツッコんでしまった。

 だが彼女は気を悪くするでもなく、ニコニコと笑いながらこう言った。


「どんなことがあってもあたしを女扱いしたよ。女のくせに、女なのに……いやあ、新鮮だった」


 その言葉には閉口してしまう。

 明らかにその後に続く言葉が罵倒だったのだろうと想像がつくが、それでもどこか嬉しそうに話す彼女の神経がよくわからない。


 でも同時に……少しだけ察する。

 彼女は女扱いはあまりされていないのだ。


 俺とて初めて彼女と出会った時に魔獣を薙ぎ倒す鬼神のごとき暴れっぷりを見ている。

 あれを見たら普通は女ではなく化け物と見てしまう気がする。


「……女性扱いに憧れていらっしゃるのですか?」


 失礼だとわかっていたが、ふと口をついて出た。

 その問いに彼女はきょとんと目を丸くすると眉尻を下げ、はにかむように笑った。


「笑っちまうだろ? 祖父様には内緒にしてくれよ」


 ……なるほど。

 少し女性らしい一面に俺は少しだけホッとした。


 彼女も人間で、ちゃんと女性だった。


 と、ふと食事をしていた彼女が行儀悪くテーブルに頬杖をつくとまじまじと俺の顔を見つめてきた。

 まじまじと顔を眺められるとさすがに居心地悪くて俺は軽く眉間にしわを作って「何か?」と問いかけた。


「ああ、うん。いい顔だなーと思って」

「いい顔」

「そう。次に来る婿殿がこんなに素敵な人だと思ってなくて。結構覚悟はしていたんだ、次に来る婿殿もどうしようもない男だろうって思っていたから」


 その言葉に俺は閉口する。


 まあ、俺も彼女のことを聞いて、彼女を選ぶものは相当に絞られると思った。

 おそらくは後のない金だけを欲する男。あるいは家。


「王家も良縁学んでくれたよ。ありがたーい」


 嬉しそうに笑う彼女に反して、俺は微笑みを返しながらも内心では苦々しいものを感じていた。


 多分、この時の俺は拗ねていたのだ、と思い込んだ。

 元々王配として地道に努力を重ねて、我儘姫に根気強く付き合って、だけれど最終的に冤罪をおっ被らされて、家族も俺の言い分を信じてくれず針の筵の月日を過ごして……傷もの令嬢と結婚することになり、魔獣の溢れる危険な辺境地へ流された。


 俺がなんでこんなことに、と悔しくて苛立ちを燻らせていると。


 それを無邪気に喜ばれて、こちらの気も知らないで、と彼女に苛立った。


 完全な八つ当たりでしかなかった。

 でもこの時の俺は、ニコニコ微笑みながらもとにかく湧き上がった苛立ちを苦々しく思っていた。

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