表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/22

11

 あの後、別の店で彼女のドレスを見繕うことができた。

 それなりにいい値段のブティックにはなってしまったが、その分きちんと店員の教育の行き届いており今度は不快な思いをせずにすんだ。


「ね、婿殿。どう? 変じゃない?」


 幼女が仕立てたばかりのドレスを見せびらかすように何度も何度も俺の目の前でくるくる回ってみせる傷もの令嬢はどうやらはしゃいでいるようだった。


 少しコルセットを緩めて楽にしただけでドレスの方は気に入ったらしい。

 彼女がくるりと回るたびに綺麗に濃紺色のドレスの裾が翻る。


 途端に傷のある足首ばかりか、素足でいるのが見えてしまった俺は深くため息をついた。


「ヒールもお履きください」

「うっ……だってあれ履いたら歩けない……」

「俺を支えに寄りかかってくれて構いませんから。まさか素足で参加するわけにはいきませんよ」

「ううー」


 あたしはそれでもいいのに、とぶつくさ文句を言ったが、俺は買ったばかりのヒールを出して彼女の前に差し出す。


 なるべく踵の低いものを見繕ってもらったが、それでも彼女には履きにくいらしい。

 俺は男だからそういうものはよくわからないが、だが確かに女性の踵の細いヒールは不安定で歩きにくそうだ。

 俺だってこれを履けと言われたら転んでしまうだろう。


「転びそうと思うなら、俺の肩に手を置いてください」


 彼女の履くヒールに手を添えながら告げれば、彼女は素直に俺の肩に手を置いてヒールに足をそっとはめ込んだ。

 俺は彼女の足首にそっとヒールのベルトを巻きつけて固定する。


 グラグラと不安定な彼女がなんとかバランスを整えるのを待ってから、俺は立ち上がって手のひらを上にして彼女の手を掴んだ。

 俺の手のひらを支えにするように彼女はグラグラ揺れていたが、やがて不安そうに唇を尖らせた。


「ねえ、婿殿、絶対手ぇ、離さないでね!」

「もちろん。きちんとお支えいたします」


 俺がそう答えれば、彼女は少しだけホッとしたような顔をして俺をじっと見上げた。

 握る手のひらが支える体重が思ったより軽いことに気がついたが、俺は気がつかない振りをした。


「さあ、参りましょう」


 俺のエスコートで歩き出せば、彼女は慎重に一歩を踏み出す。

 いつも走り回っている彼女の歩みにしてはじれったいくらいの速度であったが、俺はそれに合わせてゆっくりと歩いた。


 なんとか馬車に辿り着き、彼女を座席に座らせ、ようやく一息。


「ねえ、婿殿」


 俺も座席に座れば緩やかな速度で動き出す馬車。

 そのタイミングで彼女が口を開いた。


「これから行くのって、お姫様の誕生日パーティーなんだよね?」

「ええ、そうです」

「やっぱりすっごく豪華? 美味しいものたくさんあるかな?」

「そうですね。宮廷料理人が腕によりをかけますから、確かなものしか並びません」

「うわあ、本当? 楽しみだなあ」


 色気より食い気。彼女がそういう人だとはわかっていたことだが、食べ物に目を輝かせる様子に俺は苦笑をし、馬車の窓の外を眺めた。


 まったく。これから俺たちが行くところがどういうところかも知らずに無邪気なことだ。


 流れる王都の景色を見つめていると、俺の方はこれから行く場所を嫌でも思い知らされて憂鬱な気持ちになる。

 王都。ひいては俺を捨てたセリーヌ姫。家族。そして、面白おかしく指差して嘲笑う者たち。


 と、知れず気負う俺の手をきゅ、と固い手のひらが握ってきた。


「婿殿」


 振り返るとあっけらかんとした何も考えていないような笑顔とかち合う。


 ニコニコとするその笑顔に俺はただ曖昧に微笑み返すと握られた手を返して、彼女の手を握り返した。

 すると彼女はより顔を明るくして笑うと鼻歌を歌い出しそうな笑顔できゅうきゅうと俺の手を握り返した。


 無邪気な様子に俺は小さくため息をつき、しばらく彼女の好きにさせることにした。

 ……なんだか不思議と気負って力んでいた力が抜けるような気がした。


 まあ、いいか。ここまで来た以上、なるようにしかならない。


「美味しいお肉がたくさん食べたいなあ。食べられる?」

「肉だけでなく美味しい魚や野菜も並びますよ」

「デザートの果物あるかな」

「果物どころか最高級のケーキも用意されてると思います」

「うわあ、楽しみ〜」


 ……これぐらいでいい。きっと、数多の悪意など気にせず、このぐらい楽観的に臨むくらいでいいのだ。

 これ以上ないくらいに落ちてる俺たちに上塗りする恥もないのだから。


「ええ、俺も……美味しいものを楽しみにします」

「うんうん」


 きゅ、と俺は彼女の手を握る。

 固くて骨ばった手のひらは俺の手のひらよりも一回りも小さくて、でも俺よりもずっとあたたかい温度をしていた。


 やがて馬車が止まる。

 彼女の手を取り、馬車から降り立てば、目の前に煌びやかな宮殿が聳え立つ。


 日が暮れ始め、暗くなる空の下にある宮殿は自らキラキラ輝くように明るく照らされて荘厳に佇んでいた。

 一年前まで、何度も参内し馴染みのあったはずのその場所が今の俺にはよそよそしく見えた。


「行こう、婿殿」


 足を震わせて俺の腕にしがみついている彼女が言う。

 俺は頷いて、宮殿に向けて一歩を踏み出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ