第三十五話 友達
ここは恐らく、先ほどの橋から少し下流へ下った場所にある川原。橋が随分遠くに見えるので思った以上に流されていたらしい。漸く呼吸が落ち着いてきた僕は、ずぶぬれになったズボンの裾を捲り、シャツを脱いでぎゅっと絞っている眞城くんを見た。
真っ白な体は締まってはいるけどやっぱりなんだか華奢で、僕は何をやってたんだろうなぁと濡れた頭でぼんやりと考える。僕らはまだ子供なんだよなぁと、もうあの時とは違うのだと、そう思う。身体は濡れて冷たいが、頭の芯は熱い。眞城くんは僕をちら、と見ると、心配しながらやってきた。
「落ち着いた?」
「……うん……ありがとう、助けてくれて」
「伊月くんは……なぜ川へ落ちたの」
「……。気づいたら、落ちとった。……知盛が何を考えよったか、知りたかったんかもしれん」
「まだ思い出して一ヶ月そこらだろ……っ、そんな、焦る必要なんか」
「ごめん。けど、僕にはきっと大事なことだった……それに、少し思い出したんだ。あの時の事。あれは……」
秋宮くんだった。前世の約束を果たしに来てくれたって、そういうことだったんだ。
『今度はきちんと人の姿で会いに行くけん』と、言っていた。秋宮くんは……こんな僕を見守ってくれとったんかもしれんなぁ……転生の意味を、見誤らんために。
「……そう」
「眞城くんが見た神官さんって、どんな姿だったん」
「僕が見たのは……全身真っ白で、白装束みたいな格好をしていたよ」
「……ほぉか」
『眞城』……もしかしたら真っ白から来ているのかもしれないと思った。
白って源氏の旗の色でもあるけど、眞城くんの場合、義経が祭神様として祀られている場所の名前に由来しているのかなぁ。
……ということは秋宮くんは、やっぱり。
……僕は、ばたんと河原に仰向けになって眞城くんに問う。
「でも、今世もお兄さんとは仲悪いん?」
「兄と?」
「だって、さっき」
「あぁ、仲悪くないよ。言ったでしょ、兄はツンデレなんだって」
「……それ、どういうことなん」
眞城くんはうーん、と言いながら、水を絞ったシャツをバサバサと適当に乾かして着ると、僕の隣に腰かけた。
「人前ではあんなだけど、家ではすっごい過保護なんだよね」
「え」
意外。
「今回だって、天皇様の任受けないって言ってるのに心配でついてきたんだから」
「……そうなん?」
「そうだよ……自分は仕事のスケジュールギリギリのくせに。僕だってもう中学生なのにさ」
そっか、デレるんだあの人。
前世の反動? 眞城くんがかわいくて仕方ないんじゃないか??
そう思うと、内心くすっとした。
「お兄さんは、頼朝?」
「そう。ほとんど記憶ないみたいだけどね。君を見て平、と言ったのも、単に衝突するんじゃないかと心配だっただけ。わっかりにくいでしょ」
「……怒ってたわけでは?」
「ないない。通常運転だよ」
まじか。そりゃ身内にしかわからんわ。
でもまぁ……良かったんかな。
「……なぁ、眞城くんって僕と同じ……二年なんよな」
「そう。もうすぐ十四」
「同級生かぁ」
面白い因果もあるものである。そんな些細な共通点に、眞城くんも少しはにかみながら、嬉しそうにしていた。




