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第三十三話 決闘②

 僕らは一度距離を取る。タイミングを見計らって……互いに走り込むと、キキンッと刃の交わる音がした。



「……眞城くんの、薄緑っていうのは」

「これは先日朝霞くんの代わりに賜ったものだよ。別に良かったのに、さっ、……!朝霞くんも、真面目だよね」

「薄緑……だけど君のその、()()も、凄いものなんじゃろ」

「よくわかったね。やっぱり、君は見る目があるんじゃないの」

「……」

「これは短刀……今剣(いまのつるぎ)。これは僕にとっても大事な刀でね。片時も離さなかった……最期の時も一緒だった刀だ」



 眞城くんが大きく外へ払った刃を受けきれず、僕の頬はピッ、と裂ける。

 血が、つつ、と頬を伝うのを感じながら、次の策を考えていた。

 互いに刀を振るうが、眞城くんには隙がない。



「眞城くんが元服したのは」

「……」

「神勅を待たずに、勝手に、だったんじゃろ」

「そうだよ……君だって同じだろ。ほら、よそ見っ」

「……っ!」



 びゅん、と薄緑が薙ぐと、僕の前髪が一部、パツンと切れた。

 そういえばそうだったな、なんて、一か月前の事なのに随分前の事のように感じる。

 眞城くんは刀を振るいながらも話を始める。



「僕が元服したのはさ、数えで十一になってすぐのことだった」

「……早」

「もう、物心ついた頃には記憶が戻り始めていたからね……元服できる歳になったら神勅を待たずに元服してやるって、決めていた」

「……じゃけぇ、か」



 そう、だから、なのだ。こんなにも眞城くんが他人の前世にまで敏感なのは。

 そんなに早くから前世と混同していたら、他人の前世にも敏感になるのも無理はないと、思った。

 ましてや弁慶のことは……いつから、探していたんだろう。



 眞城くんが、向かって左上から袈裟切りにしようとするのを、僕は右下からその刃を受ける。

 ぐっ、と上から押される力に、僕の刀はぐぐっ、と下へ押される。

 力の押し合い。すぐ目と鼻の先に眞城くんがいる。彼の大きな目と視線がかち合い、彼は「僕は」と口を開く。



「……僕は、佩刀していれば弁慶に会えるんじゃないかって、思ったんだ」

「弁慶……」

「前世では……、千本の太刀を奪おうと心に誓った弁慶が、道行く帯刀者と決闘して999本の刀を集めたところで、佩刀した義経と出会った。……今世も同じなんて、そんなわけないのに……ねっ、」

「んっ」



 太刀を持つ手に力を込める。純粋な力比べならあまり大差ないのか、僕は下方から眞城くんの薄緑を押し上げる。刃をぎりぎりと交えたまま、僕らは刃を挟んで対峙していた。力を少しでも緩めれば押し負ける……そんな、状況。



「だけど、僕は信じていた。今世でも弁慶と会えるんじゃないかって。……でもね」

「……うん、」

「さっきのあれは……偽物だった。そして偽物にとって、僕はあまりに子供だったってわけだ」

「……それ、は」

「当然、だよね。僕もここ()へ来るときは元服前から()()()()()()()()()遊んでたし。あいつ子供嫌いって言ってたから、本物と代わったってわかんなかっただろう、し……っ、……ほらっ、隙ありだよっ!」

「……っ!」



 一瞬先ほどの光景が浮かんで気が逸れた僕の刀は、手にしたまま弾かれる。その衝撃のまま、僕は一歩後ろへ退いた。

 が、すぐ後ろは欄干。これ以上は、下がれない。

 ……だけど、これ以上は、退かない。



 次の一撃で、決まる。



 眞城くんはこの隙を見逃さない。太刀を下段に構えて走り込んでくる眞城くんに対し、僕は太刀を上から振り下ろす。……が、このタイミング、は、





間に、


合、



わな……っ







 低い姿勢から振り上げた眞城くんの斬撃は、僕の鼻先に触れるか触れないかの寸でのところで、ぴたりと止められた。







 ……







 ……あぁ、負けだ。







 先に仕留められたのを悟った僕は、刀を振り下ろすのを、やめた。









 ……







 ……完敗。


 眞城くんの絶妙な間合いも、タイミングも、見事の一言に尽きた。











 ……はぁ…………、




 やっぱり、勝てんかったなぁ……










 少々悔しさは残るが、どこか清々しい気持ちだった。だけど同時に、眞城くんにも知盛にも悪いことをしてしまったなぁと、深く反省する。あんなにも最期まで武士の矜持を重んじた知盛にも、前世と今を切り離して新たな関係を築きたいと願った眞城くんにも、詫びるだけでは済まされない程のことをした。

 ……全ては自分の未熟さが引き起こしたものだ。僕は欄干に後ろ手をかけながら、薄緑を仕舞おうとする眞城くんを見る。結局、眞城くんに与えた斬撃はシャツの袖を切り裂いた程度だった。





「ありがとうな、眞城くん」

「……伊月くん」

「付き()うてくれて。……僕の負け。僕はきっと、知盛をもっとちゃんと知らんといけんと……思う。この転生の、意味も。今世でも恨んどるなんて……前世の敵討ちをするための転生なんて、そんなわけないかもしれんのに」

「……!?」



 僕はそのまま欄干を後ろ手にふらりと倒れ込み、川へ真っ逆さまに落ちていった。





「……っ、ちょっと……!」








 ザッバァアアアン!!!








「……、伊月くんッッ!!!」








(※ 良い子は欄干では気を付けてください)

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