表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/40

第二十六話 再会

 先ほどの僧侶の方に言われて進んだ先……そこで出会ったのは、眞城くんだった。



「眞城……くん?」

「あれ、伊月くん久しぶり。……あぁ、元服の儀も今日だっけ」

「眞城くんは、なぜここに」



 あの飄々とした雰囲気はそのまま、僕たちは会う場所だけが違っていた。そもそも、一か月で人はそこまで変わらない。義経を彷彿とさせるような真っ白な肌も、凛とした大きく黒い瞳も、前回会った時とそっくりそのままである。

 だけど、どこか警戒してしまうのは、僕が前世を思い出しつつあるからだろうか。そんな僕の思いに意を介すこともなく、眞城くんは涼しい顔で応える。



「僕は元々天皇家にお仕えしてからはこの辺りが本拠地。それに今日はちょっと用事があってね」

「ほぉなんじゃ……けど、学校は坂東なん?」

「そ」



 眞城くんはそんな風に、短く回答する。無駄なことをしゃべらないのは、眞城くんらしいと思った。

 そんな眞城くんは少し周りを見回したかと思ったら、にこっと笑って僕に言う。



「でも伊月くん。元服おめでとう」

「……ありがとう」

「僕のために元服してくれたんでしょ」

「えっ」

「あの後、朝霞くんから聞いた。君は僕の前世が義経だと知っても、朝霞くんみたいに捕まえようとしてこないんだね」

「……前世のことじゃし」



 『前世の事じゃし』。これは事実だ。だけど、そう言いながらも胸の奥でチリッとするものを感じているのもまた、事実。……眞城くんはどう思っているのだろうか。



「そう。で、伊月くんはなんて名前承ったの」

「知成だって」

「ともなり?」

「勝手に元服したけぇ、『皿』抜いておきました、って」

「皿……?」

「知盛の『盛』という漢字から『皿』を抜いたら『成』になるじゃろ」

「名前のつけ方ってそういう感じなの」

「そう。先日秋宮くんが言っていた名刀・友成と関係あるんかと思ったら、全然関係ない」


 僕がそう言うと、眞城くんは珍しく、ぷっと笑った。


「『皿』抜いておきましたって……ははっ」

「なっ、そういう眞城くんはなんて名前賜ったんっ」

「僕はね……九郎。義経の(あざな)だよ」

「くろう?」

「そう」

(いみな)(義経)の方じゃなくて?」

「うん」

「くろう?」

「……なんだよ」



 確かに平安時代は『本名である(いみな)は隠すもの』として、通称である(あざな)や官職などで呼ばれることが多かったはず。源義経なら、九郎(字)や判官(ほうがん)(官職)、平知盛なら新中納言とか。

 時代が進むにつれ『諱と字を分ける』という習慣は廃止されて、この世界(現在)でも名いえば一つだけだし、呼んで失礼とかいうこともないからこういったあたりが微妙に平安時代と異なっている。

 ……けど眞城くんて、くろうっていうんだ。ふーん……確かに、義経っていう強そうな名より、九郎の方がそれっぽい。



「何。またちびとか言いたいの」

「いや、そうじゃない。眞城くんは、今日もこの後魔物の討伐を?」

「ううん。人を探しに。……今日こそは、いるかもしれないから。ねぇ、伊月くん」

「うん?」

「……。いや、なんでもない」



 何を言おうとしたのか気になったけど、言うのをやめた理由はおそらく……背後に感じた人影にある。



「九郎、今話しているのが(たいら)か」



 低く響く声。振り返ると、そこにいたのは綺麗に手入れされたスーツを着た、しっかりした体格の男性だった。どことなく眞城くんと似ていなくもないけれど……



「ごめんね伊月くん。僕の兄さんだよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ