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第二十三話 閑話 ― 眞城


◇ ◆ ◇



― 眞城家


 ()はシャワーで念入りに身体を洗い、魔物の返り血が残っていないことを確認する。自分の肌の白さは義経と同じなのだろうかと、時々思う。湯に浸かるもなんとなく落ち着かず、さっさと出て薄い寝間着に着替える。長時間湯に浸かっていたわけでもないのに体が火照り、じんわりと汗がにじむ。


 部屋に戻ると、本日討伐に使用した二振り……今朝拝受したばかりの太刀・薄緑(うすみどり)と、守り刀である短刀・今剣(いまのつるぎ)をきちんと手入れし、薄緑は壁際に、今剣は枕元に丁寧に置いた。これらは、かつて源義経が使っていた刀だとされている。

 手入れを終えると布団に入り、今日のことを振り返る。

 平家と源氏の記憶を持つ者の共闘……か。



 ……


 ……。



 ()()()()()()()()()後、()の前世はどうなったか。幼い帝をお救いすることはできず、三種の神器のうちの草薙剣(くさなぎのつるぎ)は海の底に沈み、もう二度と見つかることはなかった。



 平家討伐を、よくやったと褒める者もいた。

 ……だけど帝と三種の神器さえ戻れば、平家を滅ぼす必要なんかなかったと言う者もいた。非戦闘員である水夫(かこ)を討ったことも、非道だと。



 ……だが、これは、戦だ。非情にならねばならない時もある。



 ……。



 平家を滅ぼす必要なんてなかった?

 ……まさか。彼らは父の仇じゃないか。

 もしそれが正しかったとして、今更()にできることなんか、何もない。手段ヲ選バナクテ? 命ヲ奪ッテゴメンナサイ? それは、違う。あれは各々の義をかけた戦。贖罪なんか、彼らにも、()にも失礼だろう。そもそも平清盛公に討たれた(源義朝)の敵討ちをしたいと思ったことが、すべての事の発端だった……はず。そうして打倒平家と挙兵した、(頼朝)に自分の全てを捧げたのだ。だけどこれが記憶なのか、現世で歴史を学ぶ中で得た知識なのか、時々よくわからない。

 ……どちらにせよ僕は、彼ら(平家)の前では堂々としていなければならない。



 あの奇襲も、奇策も、強行も。全ては義のため……兄・鎌倉殿(頼朝)のため。



 ……



 だけど平家討伐後は様々なことが重なる中で、(頼朝)とは亀裂が生じて会うことも叶わず、結果、追討令にて全国を追われ、最終的に自害に追い込まれた。享年、三十一。



 ……



 ……壮絶な人生だ。

 彼は結局、なぜ兄に追われなければならなかったのか、理解(わか)って死んでいったのだろうか。



 僕は、あんなにも兄を敬愛し、全てを捧げた()は、『よくやったな』と、兄に褒めて貰いたかっただけなんじゃないかなって、時々……思う。



 ……



 ……。



 ……そんなの、中学生の考えだよね。実際そんなに簡単な話じゃない。朝廷やら立場やら色々とあったのだろうけれど、前世は前世、今は今だ。当時何を考えていたのかまで全て(のこ)っているわけじゃないし、それを混同したりなんか、()は、しない。



 布団の中で、微睡みに落ちていく。

 大変疲れているのか、全身が緩やかに(ほど)けていきそう……だ。



 ……



 前世と、今。

 でも、だからこそ一つだけ……ずっと、夢に見ることがあるん、だ……



 ……



 …

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