EP.5 ここをキャンプ地とする
「そういえば拠点を設定するみたいな効果あったわよね。試してみたら?」
「ああ、そういえばそうだね」
拠点移設とかも出来るみたいだから遠慮なく使っちゃおう。
「『拠点創設』」
魔力が収束し、ドッチボール程のサイズの球体を模る。
そして光を放ち、宙に浮かぶ純白の水晶玉となった。
それと同時に、部屋を覆うように結界が展開される。
「これは結界? それと、その球体は?」
「拠点核、拠点の核となるモノみたいだね。この核から拠点を管理するらしい。後、これに魔力を注ぎ込むことで機能を解放したり強化できるみたい。一定数機能を解放か強化すれば拠点レベルを上げたりできるみたいだよ」
レベル1だと拠点範囲は最大面積直径5mの円状で上下は無制限らしい。
だけど、拠点に指定した建造物の形状に合わせて変化させることもできる。
今回は宿屋だから部屋の形状に合わせて拠点を設定した。
《hr》
【拠点名】春の黄金鹿 202号室
【レベル】1 祠
【次レベルまで】0/3
【解放済み機能】
『結界Ⅰ』
『ストレージⅠ』
【管理者】越魔蕾
《hr》
「へぇ、こんな風になってるのね」
「あ、これ他人からも見れるんだね」
「そのようだな」
この拠点、どうやらレベル事に名称があるようだ。
祠、礼拝堂、教会、神殿、大神殿という風に上がっていくらしい。
名称が神殿とかなのは神の名を冠するスキルだからなのだろう。
結界は……今はFランクの魔物なら侵入を拒める程度で、攻撃なんて生活魔術すら防げないだろう。
これだとほとんどないに等しいけど、成長すれば高ランクの魔物の侵入も拒めるようになるのだろうか。
一応設定で侵入を許可する対象を選別出来るから悪意のない人間は自由に通れるようにしておこう。
「それと、『ストレージ』っていう機能があるよ。異空間に物質を収納できる機能みたい。容量は最大125㎥だね」
「かなり便利だな。積極的に拠点レベルをあげるべきだろう」
「これも訓練に付け加えましょう。毎日寝る前に魔力切れになるまで注ぎなさい。魔力を使い果たせば魔力の伸びはかなりよくなるわ。安全に魔力を使い果たす方法が出来てよかったわね」
確かに。
昨日は僕の魔力が多いせいで使いきれなかったからね。
今の僕の魔力操作技術じゃ使い切ろうと思ったら制御しきれずに宿屋消し飛ぶんだよね。
同調で操作して貰うのにも限度があるし。
ちょっと操作してもらっただけでアレなんだから、使い切るまでやったら気持ち良すぎて大変なことになる。
「そういえばアリス達って荷物殆どないよね。ストレージ的な能力持ってるの?」
「いや、持ってないな。だが、アリスが魔術鞄を持っているぞ」
「これのことね。魔術で空間が拡張されてるのよ。『重量無視』に『時間停滞』、『盗難防止』まで付与されてかなり便利なのよね。ダンジョンで運よく手に入れてから愛用してるわ」
へぇ、そんなものもあるのか。
でも時間停滞とかかなり凄い代物なんじゃないの?
「ああそうだな。普通の魔術鞄は『空間拡張』が付与されているだけ、それもせいぜい容量が倍になる程度だ。まあ、それでも十分破格ではあるのだがな」
「この鞄だけでこの宿屋と同じくらいには入るわ。しかも『重力無視』、『時間停滞』、『盗難防止』まで付与されてるとなれば、余裕で国宝級ね」
「国宝級!?」
そんなに!?
え、Aランク冒険者ってすごいんだな。
「そういえば時間停滞って時間停止とは違うの?」
「ええ、時間停止は完全に止まってるけど、時間停滞はあくまで遅らせるだけ。とはいえこれに付与されてる『時間停滞』はかなりランクが高いから実質時間停止みたいなものだけれど。確か、100年経っても内部は1日しか経過しないんじゃなかったかしら」
3万6500倍かぁ。
「そのストレージはどうなの?」
「ストレージだと時間停止みたいだね。強化すれば時間を加速させたりも出来るっぽいよ」
後は別の機能を解放すればストレージ内での素材加工も出来るようになるのか。
他には……えっ、生物も収納できるようになるの?
しかも相手の同意なしで?
怖くない?
あーでも冷凍睡眠的な使い方も出来るのか。
ストレージの使用権限持った人がいないと出てこれなくなるのは問題だけど。
転移機能解放すれば遠隔で出し入れ出来るようになるみたいだ。
これかなり便利だよ。
ゲート・オブ・バビ〇ン再現できそうだし。
「色々機能があるのね」
とりあえずアリスとハーレンをメンバーに加入させてっと。
それからストレージの使用権を……面倒くさいから管理者権限を付与しちゃおう。
「これでアリス達もストレージ使えるようになったよ」
「む? おお、ホントだ。使い方が脳内に流れ込んで来たぞ」
「ねえライ。ストレージどころか全権限付与されてるんだけど」
「ああ、うんそうだよ。管理者権限付与したから自由に弄れるはずだよ。アリス達なら問題ないかなって」
アリス達は信用できる。
というかこれだけお世話になって訓練までつけて貰ってるんだ、数日とはいえこれだけあればアリス達の性格とかはだいたい把握できる。
「早速強化してみようか」
水晶玉に手を触れ、魔力を注ぎ込んでいく。
魔力容量自体は無限っぽいね。
一方通行で魔力を引き出すことは出来ないみたいだけど。
意識を失わないギリギリ、魔力の9割を注ぎ込んだ。
うーん、これでもまだ強化は無理か。
「私も半分注いでみましょうか」
アリスはそう言って水晶玉に触れた。
膨大な魔力が水晶玉に流れ込んでいくのが分かる。
最終的に僕の魔力の10倍の魔力が注ぎ込まれた。
魔力の質も僕より何倍も高く、実質数十倍の魔力が注ぎ込まれたことになる。
「これでどうかしら」
「えっと、これなら強化と解放で合わせて3つは出来るね。丁度拠点レベルを上げるのにぴったりだ」
でもこれ、これだけ魔力注ぎ込んでレベル1上げるのが限界って、普通なら数か月かかるんじゃない?
でも僕以外も魔力注げるから複数人で運用するのが前提なのかな?
そういえば未開放機能の1つに拠点内の生物の魔力を徴収するっていうのがあったな。
きっと、宿屋とか人が長期滞在する建造物を拠点にしてあれを解放するのが正しい運営方法なのだろう。
「『ストレージⅠ』を『ストレージⅡ』に強化。機能解放、『生命再生Ⅰ』。重ねて『魔力再生Ⅰ』を解放。最後に『拠点改築』で拠点レベルを2に強化」
拠点レベルが2になった事で最大面積直径25mになり、強化によって『ストレージ』は容量が約1万5000㎥になった。
そして新たに解放した『生命再生』は拠点内にいる間傷を癒したり、体力を回復させ、『魔力再生』は魔力を精製するようになるみたいだ。
どちらも訓練の効率を上げれるようになるだろう。
「ならもっと訓練を厳しく出来るわね」
「ああ、次からはからかう余裕なんて残せないようにしてやるからな」
「うぐっ……頑張ります」
《hr》
訓練開始から何日かたったある日の事。
槍術が形になりだした僕に、新しいことを教えてくれるらしい。
「今日は闘気と戦技について教えよう」
「闘気?」
「うむ、魔力が体外の魔素を取り込んだものなのに対し、これは体内の生命力を練り込んだものだ。練り上げられた闘気によって肉体や武具を強化し、戦技と呼ばれる多種多様な技を発動する」
そう言うとハーレンは、近くの大岩を殴った。
岩がへこみ、ヒビが入っている。
「これが闘気を使っていない時のものだ」
まあそうだよね。
これくらいなら馴染にも出来る。
いやおかしいな。
なんで恐らくレベル1でスキルもない状態の馴染が高レベルなAランク冒険者より素の力なら勝ってるんだ?
……まあ、そういうこともあるかぁ。
これに関しては深く考えても仕方ない。
そういうものだと納得することにしよう。
「そして次が闘気によって肉体を強化した状態だ。行くぞ」
ハーレンは再び岩の方を向き、構えを取る。
なんだ?
存在感というか、気配が濃くなった?
そんなことを考えた次の瞬間、大岩が木端微塵に砕け散った。
「すごっ」
あまりの光景に、思わず驚嘆の声を漏らす。
「どうだ? これが闘気だ。まあ、ここまで練り上げられた闘気は中々ないだろうが」
「凄くてカッコいいよ。なんていうか、存在感が増したみたいな感覚になったのは闘気の効果なの?」
「ああ、俗に言う気配というのはこの闘気を感知しているのだ。大抵の生命は大なり小なり無意識に生命力を闘気に変換しているからな」
なるほどね。
気配……。
それなら闘気の感知も出来るかな?
目を閉じ、深呼吸をする。
極限まで意識を集中させる。
「見つけた」
これが闘気か。
「もう闘気を感じ取れたのか」
「元々気配を感じ取るのは出来たからね」
彼女限定だけど、10キロ圏内だったらだいたいどこにいるか把握できるよ。
彼女以外だったら人よりちょっと感じ取りやすいかなって程度だけど。
「これほどあっさりと感知するとは……。操作は出来るか?」
「うーん。うん! ちょっと練習すれば出来そう!」
魔力操作の要領ですればなんとかなりそうだ。
むしろ魔力操作より簡単そうだね。
「ただ……闘気の操作は出来そうだけど、生命力を闘気に変換って言うのは難しそう? 今ある闘気しか動かせないかな」
「なるほど。だが練習を続ければそのうち出来るようになるだろう」
「闘気は魔力と違い遠隔操作が出来ない。体内で操作するか、放出するか、武具に流し込むかだ。武具に流し込んだ時のみ遠隔操作が出来る。といってもせいぜい刀身を伸ばしたり、投擲した武器の軌道を誘導する程度だがな」
それでも十分強いな。
刀身伸び縮みするとかやばくない?
この世界の戦士それに対処出来るの?
いや、闘気を感知すれば何とかなるのだろうか。
「戦技には武器種に関わらず使用可能な汎用戦技と特定武器種のみで使える専用戦技の2種類が存在する。汎用戦技の例であれば『縮地』や『回避』、『迎弾』辺りが有名だな」
「前2つは分かるけど、『迎弾』って?」
「これは相手の攻撃を弾く戦技だ」
つまりパリィってことか。
「次に専用戦技だな。槍の専用戦技であれば『竜牙突』、『弾薙』、『委蛇槍』などがあるぞ。『竜牙突』は突き技、『弾薙』は薙ぎ払いで遠距離攻撃を弾く技。そして『委蛇槍』は──」
ハーレンが木の近くに行き、槍を構える。
そして一突きすると、槍の柄が曲がりくねり、木を後ろから貫いた。
「こんな風に槍を曲げる技だ」
えぇ、槍曲げるとかそんなのアリ?
しかもちょっと反るとかじゃなくてがっつり曲がってるじゃん。
「お前も訓練を積めばこのくらいは出来るようになる。さあ、闘気の感知が出来るなら後はひたすら練習だ。私が手本を見せるから真似し続けろ」
「はい! 師匠!」
それから1日中、見様見真似で訓練して闘気の操作だけは出来るようになった。
でも魔力と闘気にを併用した身体強化は難しそうだ。
出来ればかなり強くなれると思ったんだけどな。
いつかは出来るようになるのかもしれないけど、今はまだ場の状況に応じて切り替えるしかないか。
よし、明日も頑張るぞ!
【Tips】
『天命の書』
神々が齎した7つの恩恵、その内の1つ。
それは魂に紐づき、あらゆる情報を書き記すと言われる。